看板メニューはバランス良いスンドゥブチゲ

『ノダジ』の看板メニューは、豚肉のスンドゥブチゲ定食850円(ランチ価格)。ぐつぐつと煮込まれた熱いスープに、卵、豆腐、豚肉、ネギなどがたっぷり入っている。

一口食べると、辛さがしっかり付いていて、じんわりと汗がにじむ。しかし、辛いだけではない。スープには、出汁の奥深い味わいがあり、具材の旨味も十分に引き立っている。

このスープの秘密は、牛骨から丁寧に取った出汁にあるらしい。

豚肉のスンドゥブチゲ定食850円(ランチ価格)。副菜はキムチ、ナムルと日替わりのおかず2種類。白菜キムチは、酸味と辛みのバランスが絶妙だ。
豚肉のスンドゥブチゲ定食850円(ランチ価格)。副菜はキムチ、ナムルと日替わりのおかず2種類。白菜キムチは、酸味と辛みのバランスが絶妙だ。

「スープは最初に牛骨を茹で、骨に付いた肉や筋、そして骨髄などを出来るだけ取り除き、そこから弱火で数時間煮込みます。辛さの中にもスンドゥプチゲのスープに甘みがあるのは、牛骨スープと手間をかけた“タデギ”にあると思います」と、店主の野村真司さん。

タデギとは牛脂を炒めて脂を抽出し、そこに韓国産粗挽き唐辛子を入れて作った調味料のこと。

「ただの牛骨スープに唐辛子を入れただけでは、決して辛味と甘みの調和したスープにはなりません。タデギの牛脂という甘みがあってこそ、おいしいスンドゥプチゲが出来るんです」

こうして、じっくりと手間暇をかけてスープを煮込んで作るスンドゥプチゲは、辛さと甘み、そして旨味と塩分のバランスの良さから、男女問わず人気No.1のメニューだ。

「定食にはナムルやキムチが付きます。白菜キムチは、自宅近所に住む、仲良くなった韓国の人から教わったレシピで、今もその味を守って作っています」

韓国料理をメインにした大衆居酒屋のような場所を目指して

「2023年に、雇用していた韓国人の従業員の方が突然辞めてしまって。ワンオペ営業になってから、韓国料理が苦手な人も食べられるようなメニューも出そうと思って、いろいろなメニューの開発を始めたんです」

こうしてメニューには、お好み焼きやチャーシュー丼など、店主自身が好きな料理も加わっていったという。これらのほとんどを、仕込みから一人で手作りしている野村さん。

作るのも、切り盛りするのも大変そうだが、『ノダジ』のメニューは、どれも良心的な価格。

韓国料理屋にも関わらず始めたというチャーシュー丼900円(ランチ価格)や、豚バラ肉の生姜焼き(同)。
韓国料理屋にも関わらず始めたというチャーシュー丼900円(ランチ価格)や、豚バラ肉の生姜焼き(同)。

「値段にはこだわっていますね。材料費はずっと高騰し続けているんですが、オープンしてからの9年間、価格は変え続けていません」

このように価格を変えないのは、野村さんの『ノダジ』に対する理想のためだ。

「皆さんに気軽に通ってもらえるお店でありたいんです。目指しているのは、韓国料理をメインにした大衆居酒屋のような場所。昭和の居酒屋のような安心感やレトロな空気感が理想なんです」

大変なことも多いだろうが、そんな願いを叶えるために、工夫を重ねているのだ。

店内の様子。アットホームな雰囲気の中、韓国料理に限らない、さまざまなメニューを食べることができる。また、条例の基準を満たしているため、店内喫煙可能であるのも、野村さん一押しのポイントだ(写真提供=店舗)。
店内の様子。アットホームな雰囲気の中、韓国料理に限らない、さまざまなメニューを食べることができる。また、条例の基準を満たしているため、店内喫煙可能であるのも、野村さん一押しのポイントだ(写真提供=店舗)。

人との助け合いで切り盛りしてきた『ノダジ』

25年間のサラリーマン生活を経て、飲食業に飛び込んだ野村さんは、かつて観光旅行をしたことをきっかけに、韓国を好きになり、韓国料理をメインに据えた居酒屋を作ったのだという。

店主の野村真司さん。さまざまな人に支えながらこの店を守り続けてきた。
店主の野村真司さん。さまざまな人に支えながらこの店を守り続けてきた。

お店の名前も、一緒に働いていた韓国の方から付けてもらったそう。

「ノダジっていうのは、韓国語で、思いもよらない大金が入ってくる、という意味なんです。それに僕の名前が、ノムラシンジなので、それにちょっとかけて、店名を『ノダジ』にしました」

店に来てくれるお客さんとの会話も欠かさない野村さん。「お客さんに『ごちそうさま』と言われる瞬間が、とてもうれしいですね」と笑顔で話す。

昭和の居酒屋のような温かい雰囲気を目指して、今日も野村さんは、周りの人と支え合いながら、『ノダジ』を切り盛りする。

取材・文・撮影=谷頭和希

住所:東京都文京区本郷3-5-2 宇佐美ビル 2F/営業時間:11:30~14:00LO・17:30~22:00LO/定休日:日・祝/アクセス:地下鉄本郷三丁目駅から徒歩約5分

取材・文・撮影=谷頭和希