スープも麺も、チャーシューも。一口ずつ大事に味わいたい“鶏そば”
高田馬場駅から徒歩3分、早稲田通りから路地へ入ると見えてくるのは『鶏そば 三歩一』。引き戸をガラリと開けると、店長の伊藤さんが出迎えてくれた。
「うちが初めてのお客さんには、こちらをおすすめしています」と伊藤さんが紹介してくれたのは、『三歩一』の基本のき、鶏そば750円。注文してからものの1分で、カウンターテーブルに運ばれてきた。
この鶏そば、スープも麺も具材も、一つひとつ、一口ひとくち、丁寧に味わいたくなる。
まずは、スープから。
岩手県産あべ鶏のスキガラ、モミジ、ボンジリ、セセリを使用した清湯(ちんたん)は、眩しいくらいに透き通って光を放っている。ちなみに鶏と一緒に煮込むのは、生姜1片、これだけ。塩ベースのかえしにはかつおと昆布を使用し、鶏だしの柔らかな風味を際立たせている。
次に、麺を味わう。
細いストレート麺を口に運ぶ。
細切りにされたメンマやネギが、細麺によく絡み、一緒に食べやすい。
……しかしこの麺、どこか甘みを感じる。伊藤さんに聞いてみると、「麺に胚芽を混ぜ込んでいるんです。そうすると甘みと香ばしさが増すんですよね」とのこと。
お店の奥の製麺所でこしらえる自家製麺に、そんな隠し味があったとは。
実はこの鶏そばは、埼玉県さいたま市の有名店『鶏そば 一瑳(いっさ)』にルーツを持つ。
『一瑳』とはひと味ちがった楽しみ方ができるのは、鶏チャーシューだ。細長い蒸し鶏は『一瑳』のDNAを引き継いでいるが、丸い鶏チャーシューは、この店オリジナル。『一瑳』をご存じの方は、両店の魅力を食べ比べしてみるのも楽しいかもしれない。
それぞれに根強いファンがいる、3種のレギュラーそば
『三歩一』のレギュラーメニューは、鶏そば、濃厚鶏そば850円、つけそば850~950円(並盛~特盛)の3種。
あっさりとした清湯の鶏そばに対して、濃厚鶏そばではとろりとした白湯を使用。かえしや具材は変わらないという。
スープが違うだけで、全く違った味わいの料理になるのが面白い。
どれもおいしそうで迷ってしまうが、どうやら、それぞれのメニューに根強いファンがいるようだ。
「ある方は来店の度に濃厚鶏そばを、ある方は毎回つけそばを……というように、同じメニューを頼んでくれる常連さんが多いですね」と伊藤さん。常連さん一人ひとりの“通いたくなる味”があるのだ。
鶏そばと濃厚鶏そばは、後からかえしを追加して自分好みの塩加減に調整できる。また替え玉は100円とお手頃価格。スープを追加しながら、さりげなく麺も替え玉も頼んでしまう人も多そう。
実はこのレギュラーメニュー3種には、それぞれトッピングにおすすめの薬味がある。
鶏そばには柚子胡椒。まろやかな清湯の味をじっくりと楽しんだ後、柚子胡椒を混ぜてみる。すると、さわやかな香りと辛味がアクセントになって口に広がっていく。
コクの深い濃厚鶏そばには、自家製ラー油や甘がえし生姜がぴったり。野菜の甘みが感じられるつけそばには、フライドオニオンもプラスしてみよう。何通りもの楽しみ方があるのだ。
……これはもう、通うしかない。
鶏そばで体も心も満たされる、穏やかなランチを
高田馬場という地域柄、学生のお客さんも目立つが、社会人のランチにもよく利用されるという『三歩一』。
ランチだけではなく、お酒を楽しんだ後の締めの一杯としても人気なのだとか。あっさりと優しい味の鶏そばを食べ、すっきりとした顔で帰るお客さんも多いようだ。
夜の閉店前は少しにぎやかだが、ランチやディナーでは一人のお客さんが多く、穏やかな雰囲気が漂う。あまり構えずに入ることができそうだ。
『三歩一』の常連の仲間入りを果たすなら、“鶏活”替え玉券500円を活用しない手はない。通常なら1000円の替え玉10玉分が、なんと半額で楽しめる。有効期限がないのもうれしい……。
このお店、味わいも、サービスも、とにかく優しいのだ。
忙しなく過ぎる毎日。束の間の癒やしのランチタイムは、優しさあふれる『三歩一』でおなかを満たしてみてはいかが?
取材・文・撮影=aki