オーナーの実家の屋号を引き継ぎ、居酒屋として営業
渋谷駅の南東に位置する渋谷区東エリア。明治通りを恵比寿方面に歩いていくと東交番前交差点のたもとにあるお稲荷さんが見える。ペコっと会釈をしてから左折し國學院大方面へ入る。
ゆるやかな坂道を歩いていくと、ほどなくしてGoogleマップが「到着しました」とアナウンスした。しかし、周囲を見渡しても看板らしきものはない。本当にここで合っているの?
不安で道路の反対側に渡ってみると“氣”のネオンサインが見えた。たぶん、ココが本日の目的地『高丸電氣』だ。
建物の横にある階段を上がり店の中に入った。厨房によくあるステンレスの調理台のようなテーブルが並び、いろいろな観葉植物がわっしわっしと茂り、壁にはネオンが灯っている。
「お店、すぐわかりましたか? 下に看板を出していないし、階段を上がってきてもドアが閉まっているから半信半疑で入ってくるお客様が多いんですよ」と、バーテンダーの橋本智弘さんが気さくに話しかけてくれた。たしかに窓のネオンサインを見つけるまではドキドキでした……。
橋本さんによれば、ここは東京オリンピック2020の開催に向け2020年にオープンした店で、「大人の秘密基地みたいな感じ」を目指しこのような店構えになった。ちなみに『高丸電氣』はオーナーの実家が営んでいた電気店で、この店を始める時に屋号だけ受け継いだそう。
料理の提供の仕方も面白い。テーブルの一角に鉄板があり、目の前で料理をしてくれるという。「テーブルの横に調理スペースがあって、厨房で飲んでいるかのような雰囲気が味わえるっていうのも面白いでしょう?」
橋本さんはもともとオーセンティックなバーでバーテンダーをしていたそう。今は調理もお手のものだ。「当時の姿を知っているお客さんからは、まったく違う雰囲気で仕事をしているから笑われちゃうんですけどね」。
渋谷駅から少し離れたところだからこそ、秘密基地っぽさがハマっている。どんなものでも秘密っていうのは蜜の味ですね。ウフフ。
目の前でジュウ〜。五感で楽しめる鉄板料理
さて、今日いただく料理から決めていきましょうか。スマホでテーブルにある二次元コードを読み込みメニューを見ると、和洋中、エスニックと多国籍の料理が揃っている。なんでもアリなところや、ネオンが灯る店の雰囲気も手伝って、この店が屋台みたいに思えてきた。
看板メニューは、汁餃子、焼麺、焼玉子。3品とも、別料金で好きなトッピングを加えて食べるのが醍醐味だそう。それでは焼玉子の黒酢オイスターソース660円に牡蠣450円をトッピング。それから焼麺650円に豚バラ400円と花ニラ450円のトッピングをしてもらうことにした。
橋本さんは話をしながら、目の前にある鉄板に火をつけ調理をしはじめる。まずは焼麺からだ。
アッツアツの鉄板の上に躍り出たのはやきそば麺かと思いきや、ラーメン店でよく使われている製麺所『浅草開化楼』特注の中華麺だ。しっかりと焼いた麺に水をかけると鉄板からジュウ〜と音がして湯気が立つ。いや〜、これはたまらない! おなかが減ってきた。
続いて焼玉子に取り掛かる。鉄板の上に卵液を落とし、ヘラを駆使してオムレツを作っていく。
鉄板に落とされた卵液が橋本さんのヘラさばきによりどんどん丸っこい塊になっていく。わ〜、面白い。誰かと一緒に来ても、話そっちのけで鉄板から目が離せなくなってしまいそうでコワイ。
卵を皿にのせ程よい火加減でソテーした牡蠣をトッピングしたら、甘酸っぱい黒酢オイスターソースをたっぷりかける。ソースは中華醤油などを加えて仕上げたオリジナル。この味はオープン当初から変わらない。
世界各国の瓶ビールがズラリ。セルフで持ってくるとビールがおトク!?
料理が揃ったら次はお酒。ハイボールにチューハイ、カクテルと、居酒屋にあるひと通りの酒が用意されているが、この店で注目したいのは瓶ビールの種類の多さだ。
「ウチは生ビールを置いていなくて、瓶ビールをセルフで取ってもらうんですよ。店のスタッフに持ってきてもらったらプラス50円いただきます」と橋本さんは申し訳なさそうにする。でも、セルフだと選ぶ楽しさもあるし、おトクになるならいいかな。
「瓶ビールをあんまり飲んだことない若い世代のお客さんたちには、栓を開けるのもお酌をすることも新鮮みたいで、よく飲まれています。それに種類の違う瓶ビールをハーフアンドハーフにして楽しむ人もいます」
それは面白い楽しみ方ですね。じゃあ、好きなビールを持ってきてそろそろ乾杯しよう。
まずは甘めのソースで味つけた焼麺から。カリッとしたところがベビースターラーメンみたいで酒に合う! 仕上げにかけられた花椒がフワッと香ってエスニックっぽさが増している。炒めて香りが立ち甘みもある花ニラや豚バラを間に挟みながら、ビールを片手にいつまでもチビチビ食べていたくなる。
次は焼玉子だ。れんげを差し込むと、中からとろ〜っとした半熟卵が出てきた。そこへ黒酢オイスターソースをたっぷり絡ませた牡蠣を乗せて一気にパクリ。う〜ん、口いっぱいに広がる牡蠣の旨味とふんわり卵がいいコンビ。
コクがある黒酢オイスターソースがさらにおいしさを昇華させている。そこで、すかさず冷た〜いビールをグビグビ〜ッと。か〜っ、生きててよかった!
いい酒といいおつまみには心が洗われる。今度はここで友人や家族と一緒にぱ〜っと飲んでリフレッシュしたいな。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢