『源氏物語』は戦国時代も人気を博した
それまでの日ノ本は、大陸から渡ってきた唐の文化の影響を受けたものが中心で、書においても同様であった。
じゃが紫式部は、日本らしい考え方やかな文字が文化的に浸透していた中で、それまでになかったような日本の文学作品を完成させた、ともいえるわけじゃな!
我らの時代も広く読まれておって、毛利家の領内で行われた読み聞かせに多くの民が集まった話も残っておるなど公家から農民まで読まれる人気のあるよみものであったのじゃ。
我らの時代、読書は武士の嗜みとして重要視されており、無論、我ら武士も『源氏物語』をはじめとした多くの書を嗜(たしな)んでおった。
これには幾つかの理由があるのじゃが、此度は軍学と教養の二つに分けて解説をいたそうではないか!
武士の読書とは~軍学~
まずは軍学についてである!
やはり武士は戦が本分。
故に我らは日々槍や弓、鉄砲の鍛錬に励んでおったのじゃが、それと同等に重きを置いたのが兵法の勉強なんじゃな。
儂(わし)、前田利家は田舎の小さな勢力のさらに四男坊であったが故に、槍働きの鍛錬ばかりしておったのじゃが、生まれた時より軍を率いることが決まっておる信長様を始めとした方々は、むしろ軍学の方が重要であったほどじゃ。
軍学や兵法を学ぶ折には中国から伝わってきた兵法書が使われて、中でも武経七書と呼ばれる七つの書は特によく読まれておった。
皆にも耳なじみがあるであろう武田信玄殿の旗印「風林火山」も武経七書の一つ『孫氏』の一文である!
中国春秋戦国時代の策略家・孫武が著した『孫子』は、それまでの天運を重視した戦を否定して、戦略の重要性を説いており、現世では一番有名な兵法書であろう。
風林火山の他にも「敵を知り味方を知れば百戦危うからず」など多くの名言を残し、多くの戦国武将が好んだ他、三大忍術書が一つ『万川集海』にも強い影響を与えておる。
謀神こと毛利元就殿は戦わずして勝つを重視した『孫子』の影響もあって戦国時代随一の謀略家として名を馳せることになったとも伝わっておるぞ!
中国から伝わってきたものの他にも、日ノ本の特に源平合戦を描いた軍記物も兵法の学習において用いられ、徳川家康殿が『吾妻鏡』を愛読しておったり、上杉謙信殿が『平家物語』を聞いて涙を流した話が残っておったりと、過去の戦から戦術を学ぶとともに、武士の在り方を知るのに大切なものであったのじゃ。
武士の読書とは~教養~
続いては教養について話してまいろう。
これは要するに、他家との外交の折に重要となる能力じゃな。
特に、織田家のような朝廷と深い関わりを持つ家にとっては誠に重要で、公家の中には教養に秀でない武士を、毛嫌いする者も少なからずおった。
他にも我らの時代には、唄や茶の文化が公家だけでなく武家にも広まっておったが故に、武家同士の付き合いにも必要となりつつあったのじゃ。
現世に分かりやすく例えれば、人気のテレビなる番組を一人だけ見忘れると話の輪に入れないみたいなことじゃな!
今も昔も人付き合いは大切で人の輪から外れることを恐れておったのじゃ。
じゃが!
無論それだけではないわな。
戦国乱世の不安定な情勢の中て我らが武士として、そして人として生きる上で規範となるものも書に求めておったのじゃ!
その一つで儂が愛読しておった書を紹介いたし、此度はしまいといたそうではないか!
前田利家の愛読書
その書とは、『論語』である!
名は聞いたことがあるかの?
「温故知新」や「義を見てせざるは勇なきなり、過ぎたるは及ばざるが如し」など、現世でよく使われる慣用句の元となっておる書じゃ!
物事の道理や国の治め方、人としての正しい生き方を説いた孔子の本で、仁であったり徳であったり、我らのような義を持って戦に挑む武士にとって重要な心構えを示す書であった。
儂は元々、書を苦手としておったのじゃ。しかし信長様の怒りを買って出仕停止となったおり、読書に精を出して、戦国きっての読書好きになったのじゃ!
儂は特にこの『論語』をえらく気に入って、しばしば口にしておった他、晩年には若い衆を集めて『論語』の講義を開いたこともある。
今でこそかなり知名度を誇る書であるが、我らの時代はそうでもなく、江戸時代に幕府が朱子学を推奨したことで一気に広まって今に至るわけじゃ。
『論語』を含めた様々な古典は今を生きる者たちに通じる何かがあるかも知れぬでな、『光る君へ』や此度の戦国がたりを見て気になった者は是非とも挑戦致すが良い!!
終いに
此度の戦国語りは如何であったか!!
古典の話と聞くと少し身構えるやも知れぬが、現世のものに優しい現代語訳が済んでおる書籍も多くあるで気軽に触れてみて欲しいものじゃ。
して、『光る君へ』で描かれておる平安の話も中々に面白い政略の話を知ることができる良い機会じゃ!
われらの時代につながる話でもあるでな、戦国が好きじゃと思う者も試してみるが良かろう!
それでは此度はこの辺りで終いといたそうか。
次の戦国がたりも楽しみにしておくが良いぞ!
さらばじゃ!
文・写真=前田利家(名古屋おもてなし武将隊)