コーヒーを飲みながら思いもよらぬ偶然が味わえるカフェ
東京駅八重洲南口を出て右手にある商業ビル・グラントウキョウサウスタワー。その1階にオープンしているのがアートセンター『BUG』併設のカフェ『BUG Cafe』だ。
天井が高く、窓が大きいので室内にいながら開放感100%!
入り口を入ってすぐカフェのキッチンがあり、その奥にはさまざまなアーティストの作品が展示されている。この日飾られていた大きな絵の迫ってくるようなエネルギーに圧倒され、心の奥に刺激を受けた。
このカフェは東京・谷中にあった大学生のシェアハウスから端を発した会社、HAGISO Inc.が運営しているという。マネージャーの北川瑠奈さんに話を聞いてみた。
「私たちは建築設計や場の知見を活かしたさまざまなプロジェクトを手掛けていて、全国各地でいろいろな施設を運営しています。その事業のひとつにカフェボックス「CAFE G8」がありました」
このカフェは、リクルートホールディングスが銀座で2023年まで運営していたギャラリー 「クリエイションギャラリーG8」の横で営業していたそう。
「「クリエイションギャラリーG8」とともに「CAFE G8」は閉店しましたが、以前のつながりから、アートセンター『BUG』の設立とともに2023年4月『BUG Cafe』をオープンしました」
このお店には「偶然を味わうカフェ」というキャッチコピーがついている。これはどういうことなのだろう。
「東京駅はすごく乗降客数が多いし、さまざまな人たちが行き交う場所です。みんな忙しくて“人”に意識を向けていないだけで、実はいろいろな偶然や奇跡的な体験が起きています。たとえば知らぬうちに知人とすれ違っていたり、自分と同じ服を着ている人に出会ったりとか(笑)。ここに来たらコーヒーを飲みながら、“人”の感情や思いに触れられる体験をプラスできるといいなと思っています」
ああ、確かに。本日は筆者がここへモーニングを食べに来たら、たまたま隣に展示されていた絵を見て心が揺さぶられた。目の前のビルが建設中で、一面に青いシートがかけてあり景観が良くなくて残念だなあと思ったけど、逆にコレは今だけしか見られない。
そう思えば今、超レアな体験をしているんじゃないか?
飴色玉ねぎとベシャメルソースがとろ〜り入ったクロックムッシュ
さて、どんな朝ごはんが食べられるか。筆者はおいしい偶然にもかなり期待しています!
「一般的なカフェと違って『BUG』の展覧会の内容によって客層が変わるんですよ。だからどんな人が来ても食べられるメニューを意識しています。お子さま向けのジュースやジェラート、忙しいビジネスマンが仕事の間に来た時にすぐ提供できるドリンクや食事も用意しています」
展示が変わると空間の雰囲気がガラッと変わるから、いつ来ても飽きない。
毎週火曜日以外の8時から11時半まで実施しているモーニングのメニューを見てみよう。
シュガードーナッツやライ麦バナナケーキ、季節のマフィンなど片手で簡単に食べられるものもあるが、かなりおなかがへっているので、モーニングセットの中から2種のペッパーと飴色玉ねぎのクロックムッシュ1000円に目玉焼き100円をトッピングした。
クロックムッシュの出来上がりを待つ間、ガラスケースをのぞく。起き抜けに熱いコーヒーと甘いものをおなかに入れるとカッと目が覚めるから、時間がない時はケーキやドーナツもアリだなあ。
オーダーから5分ほどでモーニングセットがやってきた。薄めのトーストには甘みが出るまでじっくり炒めた玉ねぎ、コクのあるベシャメルソース、旨味が凝縮されたベーコンが挟んであり、上にたっぷりのチーズがかかっている。
目玉焼きにナイフを入れると、とろりとした黄身があふれ出してトーストに広がっていく。それをたっぷりつけていただきます!
パンや焦げたチーズが香ばしく、玉ねぎとベシャメルソース、ベーコンの塩気がちょうどいいバランスだ。ホワイトペッパーとブラックペッパー、似て非なるふたつの胡椒を使っているのもポイント。香りや辛さの微妙な違いが楽しめる。
粒マスタードを混ぜたニンジンラペはほのかな酸味で口の中がさっぱり〜。
「パンに玉ねぎなどをサンドしてからオーブンで焼き、外はカリッと中はトロリとした食感になるようにしています」と北川さん。パンの耳のところがカリッカリで特においしい。クロックムッシュは素朴なメニューだけど、ちょっとだけごちそう感があって満足した。
食べるだけじゃない! アートなデザートもお楽しみ
ガラスケース内やレジ周りのメニューはアートやデザインと結びついているものがあって面白い。何気ないメニューにもこのカフェでしかできない体験を楽しんでもらいたいという試みがみえる。
「「クリエイションギャラリーG8」時代に実施したチャリティープロジェクトで、 160人のクリエイターがデザインした枡(マス)をチャリティー販売したことがありました。 ギャラリーが保管していたものをカフェが譲り受けて、そのときの枡を使っているんです。オーダーしたときにどんな絵柄が出てくるかはお楽しみです」
レジ前で発見した可笑しなパウンドケーキ400円もかなり気になる。商品のPOPを読むとどうやら包装紙に仕掛けがあるらしい。「ここでワークショップをしたときに参加者とアーティストが作った小さな作品がついているんです。全部で24種類あって、これも何が出てくるかはお楽しみです(笑)」。
また、お楽しみですか〜!? パウンドケーキ食べようとしたのに一緒に作品もついてくるという発想がアートセンター併設カフェならでは。
「アートがどうとか別に全然気にせず、ゆっくり食事してくださっていいんです。でも、たとえば窓の外を見ていたらたくさんの人が歩いていて、それが1つの作品にも思えてくる……とかね。このカフェでふだん目に留まらないものや思いよらぬことを、ちょっと考えるきっかけになったらいいと思っています」
ここはアートに詳しくなくても、ふだんと少し視点を変えるきっかけをくれるカフェなのだ。明日からは当たり前の日常が少し違って見えるかもしれない。
今度このカフェに来た時はどんな偶然に出合えるかな? そう思うだけでなんだかワクワクしてしまった。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢