王道を極める。煮干し醤油の中華そば
いただいたメニューは味玉中華そば1100円。細くつるつるとした麺は歯切れが良く、煮干しの醤油ラーメンはとても上品な味わいである。トロトロの味玉と、柔らかいチャーシューも贅沢に味わえる。使用されている麺は『浅草開化楼』が、このお店のスープに合わせて開発したものだという。
スープは、厳選した鶏や数種類の煮干しをブレンドしている。
店主の松村康史(まつむら やすし)さんは、「煮干しは生き物だし、工場で作られているものではないからこそ、毎日状態を見極めながら作っています」と語る。
煮干しは時期によっても太っていたり、痩せていたり、脂の乗り方が違ったりと、同じ種類を使っていても味に若干の変化が出る。そこを敏感に感じ取ってベストな状態を提供しているのだ。
『勝本』の煮干しラーメンはスープが澄んでおり美しく、上品で繊細な味わいに仕上がっている。
ラーメンは全部で3種類。落ち着いた店内の雰囲気と、シンプルなメニュー。自ずと気持ちが落ち着いてきて、目の前の一杯に集中できる。
長く愛されるラーメン屋を目指して
もし自分で店を始めるのであれば、王道の煮干し醤油ラーメンを提供したい、そして日本の中心地・東京で認められたいと考えていた松村さん。年間300杯ものラーメンを食べ続けて、研究を重ねたという。
「特に何十年も愛されて続いてきたお店は、雰囲気だったり店員の接客であったり、学ぶことが多いと感じます」
すでに行列ができるほどの人気店でありながらも、松村さんの味やお店に対する探究心が尽きることはなさそうだ。
普段の店内はサラリーマンが多い印象だが、時間帯によっては家族連れや女性など、幅広いお客さんがやってくる。シンプルだが奥深い味を持つ中華そばが、老若男女さまざまな人を引きつけている。
店ではカウンター越しにお客さんと接することができるため、お客さんの表情がよくわかるという。松村さんにとっては、お客さんの満足そうな顔を見ることが何よりの喜び。
「おいしいものを食べた後に、頑張ろう、と思えるような、ちょっとしたお手伝いになればいい」と松村さんは語る。おいしいラーメンを食べてもらうことで、お客さんの日常に少しでも活力を与えたいという思いをラーメンに込めている。
新しい味への挑戦
お店の今後について、「私の代から次へと引き継がれたあとも、何十年も愛されるお店になってほしい」と語る松村さん。
店名は、映画 『ラスト サムライ』の登場人物である勝元から取っており、「武士の精神、日本人の心を大切にもっていたい」という思いから採用したという。
そんな松村さんはもともと京都のホテルでフレンチを担当していたが、ラーメン好きだったこともあり、独立してラーメン店を始めることにしたという。伝統的な煮干し醤油ラーメンをベースにしながらも、フレンチの経験を生かした新しい味への挑戦が、日々行われている。
たとえば、『勝本』では定番の煮干し醤油の中華そばを提供しているが、外国人のお客さんが多い銀座の系列店『銀座 八五』では、トリュフなどを用いたフレンチ風のメニューも提供。海外での評判も非常に高い。
伝統と革新が融合したその味は、ラーメン好きのみならず、多くの人を魅了している。
挑戦を続ける『勝本』の一杯が、ラーメンの素晴らしさを伝え続け、世界中の人々に愛され続けることを願ってやまない。
取材・文・撮影=谷頭 和希