子供からお年寄りまで集まる街の食堂
『いい日々』には、立川駅の北口から大通りを道なりに13分ほど歩くとたどり着く。カフェのように洗練された外観だが、看板には「自然定食」の文字。そう、ここは定食を中心に提供する“街の定食屋”だ。
一軒あると、その街に住む人たちの毎日がちょっぴり豊かになるような店をイメージし、2022年から営業をスタートした。
広々とした店内は、大きな窓から光がたっぷりと入る開放的な空間だ。インテリアは抜群におしゃれだが、おしゃれ過ぎて落ち着かない……なんてことはなく、一つ一つのアイテムに温かみがあったり、ところどころにグリーンがあったりと、ふっと肩の力を抜いてリラックスできる雰囲気だ。
オープンな雰囲気ゆえに、店に訪れる人は、子連れから若者、ビジネスマン、お年寄りまでさまざま。カウンター席があるため、一人で利用しやすいのもうれしい。家族みんなでのご飯、友人とのお茶、一人時間など、どんなシチュエーションにも寄り添ってくれる空間だ。
かつての“日常のご飯”が食べられる場所に
羽釜でご飯を炊き、出汁をひいた味噌汁を食べる――かつての日本では、当たり前に見られた風景だ。時間をかけて一から手作りする料理は、いつしか時代とともに、日常から少し遠ざかりつつある。
『いい日々』では、そんなかつての“日常のご飯”を気軽に食べられるよう、全ての料理やデザートに化学調味料・合成着色料・保存料不使用の調味料のみを使用している。それを店側から大々的にアピールしないのは、特別に健康志向ではない人たちもごく当たり前に、 丁寧に作られた料理を食べられる店にしたいという思いからだ。
手間のかかった料理は、その分どうしても価格が高くなってしまうもの。しかし、この店では身近にあるファミリーレストランと変わらない価格でおいしいご飯を提供できるよう、あえて高級な食材や調味料を選ばず、日常で手に入るものを使う。吟味した食材で、手をかけておいしいご飯を作りたい。そんな作り手の真心も、料理に反映されているのだ。
もち豚と自家製の味噌タレが絡む人気定食
『いい日々』では、約7種類の定食や、ワンプレートのメニューを中心に提供している。今回注文したのは定食の中でも特に人気がある、和豚もち豚味噌炙り焼き定食1280円。メイン料理のほか、羽釜炊きのご飯、季節の小鉢4品が付いた定食だ。
定食のメインとなる豚肉の炙り焼きは、国産放牧豚の肩ロースを、こうじ味噌、無添加の梅干し、天然調味料を合わせた自家製タレで焼き上げた一品。
やわらかい豚肉は、噛むたびに肉の旨みと脂の甘さを交互に感じられる。ジューシーなのに脂っこくなく、一見シンプルなようで味わい深い。甘辛の味噌タレと絶妙に絡み、みずみずしくふっくらとした羽釜炊きご飯との相性も抜群だ。箸がどんどん進み、気がつけばあっという間に完食してしまう。
季節の食材を使った小鉢は、時季によって内容が変わる。おひたし、和え物など優しい味付けのお総菜は、食材のおいしさを改めて感じることができる。
定食屋といえば“さっと食事を済ませてすぐに帰る”というイメージだが、食後でもカフェのようにゆっくりと過ごせるのが『いい日々』の魅力だ。一杯ずつ丁寧にハンドドリップしたコーヒー、手作りのスイーツをゆっくり味わう時間にも癒やされる。
また、店から徒歩1分の距離にある『パティスリー ツナグ』のケーキを店内に持ち込むことも可能。そんな自由さや、地域との温かい交流にもほっこりとした気持ちになる。
上質なインテリアに囲まれながら、天然素材で作られた体に優しい料理を食べる。そんな時間を日常にしてくれる『いい日々』は、今日という日をちょっと“いい日”にしてくれる。
取材・文・撮影=稲垣恵美