名店ひしめく激戦区恵比寿で人気の濃厚味噌ラーメン店
『らぁ麺屋 つなぎ』の店主・高橋秀典さんは、恵比寿で店を構えるまで、さまざまな店で修業を重ねてきた。千葉で生まれ育ち、父は寿司屋、母の実家はうなぎ屋で、幼い頃から「お袋からはよく『手に職をつけろ』って言われてました」と、自然と飲食関係へ。赤坂の料亭、大阪の割烹料理店を経て、地元の中華料理店へ修業の場を移す。その時、麺場を任されたことがラーメンの道に進むきっかけとなった。
ラーメン店で働くこと約17~18年、最後は濃厚味噌ラーメンがウリの人気店で限定メニューをほぼ任されるほどの実力をつけ、2013年6月21日、恵比寿に『らぁ麺屋 つなぎ』をオープンした。
近隣は人気のラーメン店が数多かった。どんなラーメンにしようか考えた時、味噌ラーメンの店は見当たらなかったことから、濃厚な味噌ラーメンをメインに据えることにした。
「僕、引き出しがいっぱいあるんで、なんでもいける。ただコンセプトがぶれないよう、メインは味噌だけにして、醤油や塩は限定メニューで楽しんでもらえばいいかなと」。多くの修業先であらゆるジャンルのラーメンを作り続けてきた高橋さんならではの選択だった。
清湯で炊き上げた朝ラーを味わう!
そんな濃厚味噌ラーメンの名店が、7時から朝限定のラーメンを提供しているらしい。それは食べてみたい! と、さっそく伺って朝ラー(=朝限定で提供しているラーメン)をお願いした。
手際よく作り始めた高橋さん。これまで大型店で、何千人もの客に提供してきた手腕に惚れ惚れしながら出来上がりを待つ。あっという間に、朝限定の一杯が着丼。
具はニラだけとシンプルな見た目の朝味噌ラーメン600円だが、立ち上る味噌の香りが鼻先をくすぐり、すぐにレンゲでスープをひとすくい。
レギュラーメニューの濃厚な味噌ラーメンで使うのは、豚と鶏と野菜で炊き上げた白湯スープだ。そこに煮干しやカツオ節など和風出汁を足して仕上げる。一方、朝ラーは、豚・鶏・野菜と、食材は同じだが、清湯仕上げの透明なスープに味噌ダレを合わせる。あっさり清湯スープの効果で味噌の風味を引き出し、思わずため息がもれる旨さ。
実は、濃厚とは油も違うそうで、白湯の味噌ラーメンには背脂、清湯は鶏油を使っている。あっさり清湯の旨味を鶏油がさらに引きあげるわけだ。
こだわりの食材に月替わりの限定メニュー、女性限定デザートも魅力
麺はこだわりの自家製麺。濃厚な味噌ラーメンなどレギュラーメニューは、濃いスープを絡める太麺だ。もちもち食感を出すためにタピオカ粉を入れている。一方、朝ラーの麺は、濃厚用の太麺とは打って変わって細麺だ。清湯スープをほどよくまとい、スルスルっと啜り心地もいい。
同じ清湯スープを使った醤油の朝ラーもある。味噌がメインのこの店で醤油ラーメンが食べられるのは朝のこの時間だけ。4種類の醤油を使った朝ラーメン醤油500円もぜひ味わいたい。
朝ラーのお供におすすめのサイドメニューがTKG(卵かけごはん)。なんと朝は100円で食べられる。プリッと黄身が盛り上がって、見た目からおいしそうな卵は、青森県の養鶏所から仕入れている。ご飯にのせて、TKG用の特製醤油をかければ至福の味わいだ。「小ぶりな卵は栄養価が高いのと、ほどよい量なのがいい」と高橋さん。
7時から10時までの朝営業時間は、朝ラーだけでなく通常メニューも注文できる。朝ラーは食べたいけど、少し物足りないという方には、つなスぺとっぴんぐ400円を追加オーダーするのがおすすめだ。つなスぺは他店で言うところの“特製”で、朝ラーにつければ具だくさんのラーメンになる。
特にチャーシューは、濃厚メニューに合わせて油っこくなく、さっぱり仕上げ。「時間をかけて保温状態にしておくと余分な脂が抜けるんで、それを徹底してるんです」
食材へのこだわりはほかにも。濃厚メニューのトッピングには、山の湧き水で作られる特別なもやしを使っている。毎晩、栃木県の日光から届く新鮮なもやしは生でも食べれられるほどで、茹でるとシャキシャキと抜群の食感。朝から背脂たっぷりの濃厚なラーメンを食べたいという方も多いそうで、11時まで待たなくても食べられると喜ばれている。
月替わりの限定メニューも評判で、オープンしてからずっと、同じ麺は2度とやらないと決めているという。「十人十色、人それぞれ好みがあるんで、あとはサービス面でしか勝てないと思ってます。商売も商いを売るじゃなくて、“笑売”のほうがいいかな」と、最後に高橋さんが語った。
そして、もちろん味も裏切らない。二刀流どころか何刀も用意された『らぁ麺屋 つなぎ』は、定番ラーメンに朝ラー、限定メニューといろんな味が楽しめて飽きない、何度も通いたい店だ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代