泣きたいときには泣くのがいいし、暗い時代には暗さを満喫するのがいい。
私は、夜の闇や月明かりを積極的に楽しむ闇遊びや月遊びを、いろいろ考えて楽しんできた。とりわけ、夜遅くから朝まで歩き通すミッドナイトハイクが大好きで、もう四半世紀以上、ハマり続けている。ミッドナイトハイクは、終電に乗って深夜の登山口から闇の森に入るのがふつうだが、せっかくだから、家から全部徒歩でミッドナイトハイクをやってみよう。
家から完全徒歩のミッドナイトハイク
山に入る必要はない。街の中だけでもいい。深夜、自宅から行けるところまで静かに歩いて行って、帰りも全部徒歩で夜明けまでに帰ってくる。ほとんど人に出会わないから3密の対極だし、「こんなとこまで徒歩圏なのか!」「徒歩圏にこんなとこがあったのか!」と、すごく楽しい。片道5km、往復10km程度でも十分だが、体力が余っていれば、片道10km、往復20kmくらい、行っちゃおう。
ド深夜になると、車もほとんど通らないから、道の真ん中をのんきに歩けて実に解放的。人の活動がつくり出す雑音や雑臭がなくなって、遠くのアオバズクの声や虫の音や花の香りなども感じられるし、街の中でタヌキに会う。都会にも結構いる。ハクビシンやアライグマにも会うし、郊外ではキツネを見ることもある。街の中でも、この時間は人間以外の気配だらけだ。
深夜は人とすれ違うことはあまりないが、向こうに人影を見つけたら、急いでもいないし目的地も決めなくていいのだから、ちょっと迂回しよう。そうすると、まったくひとりにも会わずに歩けたりして、ほとんど夜の森を歩いているような状態だ。だれにも会わずに帰還すると、なにかミッションをクリアした達成感に包まれる。
ほかにも、いい歳してスキップしたり、木漏れ日ならぬ木漏れ灯(び) を楽しむ穴空き傘をつくったり、魔法を使ってライトを点けたり、夜行性植物が跋扈(ばっこ)したり、公園の動物の目がマジだったりなどなど、ご近所闇には楽しみがいっぱい。さらに、自分の家の闇、宅闇でもいろいろ遊べる。プロの不審者の私が言うのだから、間違いない!
ご近所闇を愉しむための9箇条
というわけで、ここからは初心者にもおすすめの闇遊びポイントを9つほど紹介する。これを知っていれば闇も怖くない?……いや怖いかもしれないが、どうせならちゃんと怖がったり楽しんだりしてほしい。そのための9箇条です。
1.公園の動物は夜がマジ
絶対、目を合わせてはいけない
古めの公園には、コンクリートで動物などを象(かたど)った象形遊具がよくある。動物にマウントを取るための遊具だ。昼間はどうということはないが、夜の灯(あか)りの下だと顔がマジで、かなりヤバい。絶対に目を見ないようにしながら、背後から慎重にマウントを取ろう。打ち合わせ型の象形遊具もよく見かける。夜はホントに話し声が聞こえてきそうだ。
2.夜な夜なナイトスキップ
暗ければ恥ずかしくない
大人だって、スキップするだけでウキウキする。いい歳してスキップするなら深夜がいい。昼間には感じられない浮遊感も楽しめる。1歩でより遠くに跳ぶ「水切りスキップ」、高く跳ぶ「ハイスキップ」、千鳥足の「酔いどれスキップ」、ナンバ歩き風の「ナンバスキップ」などなど、いろいろトライしてみよう。
3.自宅闇歩き
宅闇探検、月遊び、闇風呂など
家の電気を全部消して歩いてみよう。勝手知ったる我が家だから、たとえ真っ暗でも結構歩けるし、電気を消してもあちこち小さなLEDの光が点いていて、室内夜景を楽しめる。月夜は月明かりが部屋に射し込む。盃に月を浮かべて飲むなど、月遊びに興じよう。最後は闇風呂に浸かって、おやすみなさい。
4.自分の待ち場をつくる
日の出、月の出、金の出を拝む
日の出、月の出などを拝むため、家の近くに東側の展望がいい待ち場を見つけよう。金星が昇る「金の出」を待つのもいい。真っ赤な金星が見られる。金の出時刻は国立
天文台のウェブサイトで調べられる。日の入りや月の入りを見送る、西側の展望がいい待ち場や、国際宇宙ステーションや流星を水面に見る、水の待ち場もつくろう。
5.夜行性植物あらわる
怪獣注意、夜は植物が跋扈する
夜の植物は動物っぽい。今にも動き出しそうだ。夜の植物が怪獣に見えることも結構ある。暗いと私たちの想像力が豊かになるからだが、それだけではない気がする。夜になると植物は、動物と同じように酸素を吸って二酸化炭素を吐く。そして植物は夜から朝にかけて生長する(つまり動く)。そのせいもあるのかもしれない。
6.灯傘(ひがさ)・月傘をつくる
傘の闇に木漏れ灯や木漏れ月が
書類に穴を空けるパンチで、折り畳み傘に適当に穴を空けるだけで完成。月夜に差すと、ピンホール現象で自分の体や地面に小さな月がたくさん投影される。LEDの街灯の下で差すと、BCG接種痕みたいに並んだLEDの光が投影され、傘を揺らすと小さな光がうごめく。車のヘッドライトなど、明るすぎる光を避けるためにも有効。
7.センサーライトで魔法使いになる
先手必勝、夜の光を支配せよ
公道を歩いているだけで、センサーライトに出し抜けに照らされることが増えて、なんだかなあだが、ならば先手を打とう。ご近所のセンサーライトの場所を覚え、点く直前に気取った感じでライトを指差す。そうすると魔法で点けたみたいになり、全能感に浸れる。ライトが消える間際に、サッと振り返ってまた指差すと完璧だ。
照明現象を愛でる
8.八百万(やおよろず)の人工太陽が影を生む
人工光ならではの、天文現象ならぬ照明現象を見つけよう。昼間の野外は、基本的に光源は太陽ひとつだけだが、日が暮れるといろんな電灯が点(とも)って、街は小さな人工太陽だらけになるし、月も光る。だから、昼間にはないおもしろい影、怪しい影ができたり、電灯と月がコラボしたりする。郊外で見る、遠い東京タワーなどの消灯の瞬間も、天文現象っぽくていい。
9.いつもご苦労さまです
夜も地味にがんばっている彼ら
昼間はどうってことないものでも、夜になると存在感がグッと増して、命が宿っているように見えてくる。そういう目で見ると、ふつうの人が眠っている時間に、不平不満のひとつも言わずに、黙々とがんばっているものたちがあちこちに大勢いることに気づく。社会は彼らに支えられているのだ(ちょっと違う)。この場で労(ねぎら)いたい。
文・撮影=中野 純
『散歩の達人』2020年6月号より