5種類の煮干しブレンドが生み出す絶品ラーメン
自慢は、なんといっても特製中華蕎麦1150円。
店主である長谷川裕亮さんが厳選した5種類の煮干しがブレンドされている。煮干しの産地は千葉や長崎、瀬戸内などさまざま。食べると煮干しの味が口いっぱいに広がる。しかし、それは決してくどくはない。
「和食だと上品な出汁を取るために煮干しを使うことが多いのですが、うちのラーメンではガッツリとした味わいを出すことにも気を付けています。そのために、大きく、脂がのった煮干しも使っているんですよ」
長谷川さんはそう語る。普通のラーメンではあまり使用しないそうだが、油がのった煮干しを使うとより濃い重めな味わいになるという。
煮干しを保管する場所が取られること、また、煮干しのコストが年々高くなっていることから、高品質の煮干しラーメンを提供し続けることは難しい。しかし、自身が煮干しラーメンを愛しているからこそ、惜しみなくこだわりの煮干しを使用し続けている。
今回いただいたのはあっさりとした煮干しラーメン。一方、よりこってりと煮干しの味を楽しめる濃厚蕎麦もあり、こちらにもファンが多い。
煮干しの旨味が凝縮されたスープは、一度味わうとやみつきになること間違いなし。麺は細麺を使用しており、スープによく絡む。すすってみると、麺が煮干しのスープの味を邪魔せず、もっともおいしい状態でスープの味わいを楽しむことができる。
また、チャーシューは、醤油・酒・味醂・砂糖のバランスを上手く調整したオリジナルのソミュール液(チャーシューの下味を付ける液)を用いている。こってりとした煮干しラーメンの味にも負けない、しっかりとした味わいだ。煮干しに相性のよい味に仕上げられている。
さらに、カットされた玉ねぎのスパイシーさも煮干しの味に彩りを添えていて、食べていて飽きないように全体が工夫されている。煮干しスープへのこだわりだけでなく、麺と具材と全てが合わさって、煮干しの旨味を感じることができるのが、このラーメンだ。
気さくな人柄の店長が作り上げた店の雰囲気
長谷川さんは、つけ麺屋で修業を積み、独立後にこの店をオープンした。煮干しラーメンの味が話題となり、現在では北千住に2号店『かれん』もオープンした。3店舗目の開店も予定しており、着実に人気を集めている。
お客さんは30〜40代のサラリーマンが中心だが、中には高校生もいるという。亀戸横丁の奥まった場所という隠れ家的な雰囲気も客の心を掴んでいるのだろう。遠方からこの味を求めてくる人も多い。
「ラーメンのフェスで呼ばれることもあります。この煮干しの味を求めて来店されるお客さんが多いですね」
気さくに語る長谷川さんは、大のラーメン好き。ラーメンの研究に熱心で、日々さまざまな一杯を試行錯誤して作っている。期間限定の「牡蠣ラーメン」や「あんきもラーメン」など、煮干しラーメン以外にも人気メニューが多くある。
これらのメニューも、長谷川さんのアイデアとこだわりが詰まった一品だ。
お客さんとの会話を楽しみながら
ふとカウンターの上を見ると、たくさん並んだフィギュアが。これはなんだろうか。
「元々ぼくが好きだったんですが、それを知ったお客さんがどんどんくれるようになって、そこに並んでいます(笑)」
常連客も多い『亀戸煮干中華蕎麦つきひ』は、長谷川さんの雰囲気も相まって、アットホームな雰囲気が漂っている。そんな中でなじみになったお客さんが、長谷川さんにフィギュアを渡すのだ。お店の雰囲気がよくわかるエピソードだ。
カウンター越し繰り広げられる会話では、ラーメンのアイデアをもらうこともあるという。長谷川さんは、お客さんとの対話を大切にしている。ちょっとした味の変化や新メニューのアイデアなど、お客さんからのフィードバックは貴重な財産だ。そうしたお客さんの声に耳を傾け、常に新しいラーメンづくりにチャレンジしている。
「煮干しは時間の経過や生産者、個体差によっても味が変化するんです。ですから、毎回実は若干違う味になるのが面白い。お客さんからはその時々のラーメンの味のフィードバックをもらったりします。そういうお客さんとの対話も楽しいし、味の変化を楽しみながらラーメンを作っていますね」
ここでは、長谷川さんのラーメンへの愛とお客さんとの対話から生まれる、唯一無二のラーメンを提供し続けている。亀戸の隠れ家的名店として、今後もラーメン通を魅了し続けることだろう。
取材・文・撮影=谷頭和希