希少な南州黒豚とプレミアムな食パンで作るカツサンド
都営大江戸線西新宿五丁目駅から徒歩8分。コンクリート打ちっぱなしのおしゃれなビルの2階に、最高級黒豚カツサンド専門店『クロカツサン』がある。店の周辺は、西新宿の裏路地にある雑居ビルと住宅に囲まれた閑静なエリアだが、目の前にそびえ立つ東京都庁、そして都民の憩いの場・新宿中央公園へも数分でアクセスできる都会の谷間だ。
最高級……黒豚……!? き、気になる。エレベーターの入り口にあるサンドイッチの写真にそそられ、店の中へ入った。
店内はナチュラルかつモダンな空間が広がっていて心地よい。カウンター席とテーブル席があるからシチュエーションによって使い分けができそうだ。
それにしても、入り口の看板にも書かれているキャッチコピーの“最高級黒豚カツサンド専門店”たるゆえんを明らかにしたい。オーダーに対応し終えたところを見計らい、店主の阿部俊一さんに話を聞いた。
「長年、飲食店の経営のほかに日本の食材を海外に輸出する仕事もしていまして、そこで見つけたのが鹿児島県南州農場の南州黒豚でした。ちょうど、業務提携をしているベーカリーで北海道産の小麦粉とバターを使ったおいしいパンを作っていたので、プレミアムな黒豚とプレミアムな食パンをジョイントした最高級のカツサンドで勝負したら面白いんじゃないかと思ったんです」。
たまたまここの物件を見つけたことも重なり、2022年12月に『クロカツサン』をオープンした。新宿西口エリアは、ビジネス街でありながら周辺にはホテルが立ち並ぶ地域。しかしながらここはにぎやかな地区のはずれなので住宅が多く、地域に住む人たちにもサンドイッチなら利用しやすいだろうと考えたそうだ。
「店を開いてからわかったんですけど、意外と外国人のお客さまが多いんです。みなさん朝からカツサンドやタマゴサンドを2つも3つも召し上がるんですよ」と目を丸くする阿部さんだ。
一頭買いして南州黒豚を丸ごと味わい尽くす
阿部さんがその味に惚れ込んだという、この店を出店するきっかけになったプレミアムな豚肉“南州黒豚”について、もう少し詳しく知りたい。
「南州黒豚は南州農場のオリジナルブランドなので希少なんです。大麦、サツマイモ、発酵したヨモギを飼料として与えて育てた黒豚の肉質は、繊維がきめ細かくしっとりとしているのが特徴です。脂身はあっさり、赤身にも旨味があってウマイんですよね」と、阿部さんが熱っぽく解説する。
「ウチはこの豚を一頭買いしています。コストを抑えられるというのもあるけれど、メニューの多さも自慢です。サンドイッチ専門店でカツサンドといえばロースかヒレくらいしかないところ、ウチはサンドイッチ6種、ハンバーガー11種もあります。これだけ種類が揃っているのは珍しいでしょう?」
一頭分の黒豚から各部位のカツを作り、そこで使われなかった部位を活用して豚100%のメンチやハンバーガーを作るのだそうだ。
ほんのりと甘いパンに旨味たっぷりのカツが合う!
南州黒豚の話に聞き入ってしまったのだが、モーニングタイムは10時半までだ。そろそろオーダーしないと。厚切りトーストとスープ、2種のラペ、ドリンクがセットになったモーニングセット780円を食べようかな。
「朝ごはんはモーニングセットだけじゃないんです。開店から全メニューを提供していて、モーニングタイムはすべてドリンク付きになりますよ」
そうか、カツサンドを食べるなら朝の方がお得なんだ!
外国人に人気のタマゴサンドは江戸前の老舗玉子焼き店『玉栄』の厚焼き卵を使用していると書かれていて、かな〜り惹かれたのだが、やっぱり南州黒豚を食べてみたくて黒豚ミルフィーユカツサンド1580円をオーダーした。
「黒豚ミルフィーユカツサンドは、肩ロースとバラの部分を使っています。厚切りだと少し硬くて噛み切れない部位ですが、スライスすることで食感も柔らかくなります。南州黒豚の旨味やジューシーさは十分伝わると思いますよ」。おお〜、それは楽しみです。
阿部さんが厨房に入り準備を始めた。食パンをトーストするとともにミルフィーユカツを揚げる。ミルフィーユカツが揚がる間は、お皿に自家製のラペやスープを盛り付ける。
こちらは先に料金を支払い、呼び出されたら自分で料理を取りに行くシステム。「ミルフィーユカツサンドのお客さま〜」と阿部さんの声がしてカウンターへ向かった。
さて、まず黒豚ミルフィーユカツサンドから。崩れないように持ち、ガブリとひとくち! ほんのりと甘いパンに濃厚なソースをまとったカツがジューシーで旨味たっぷりだ。濃厚だけどしつこくない良質な脂。それに負けない赤身のうまさもあり、想像以上にあっさりと食べられる。
ナイスアシストをしているのが塩やビネガーなどで仕込んだ浅漬けのキャベツ。かじったときにあふれ出す肉汁をキャッチしつつ口をさっぱりとさせ、しかも千切りキャベツと違って結着しているからポロポロとこぼれない。
ベーコンと玉ねぎのスープや味わいが違う2種のラペ、ポテトはトリュフ塩で和えたあとトリュフオイルで香り付け。付け合わせもひとつずつ丁寧に作られている。
朝イチでもペロリと完食してしまった黒豚ミルフィーユカツサンド。今度は違うカツサンドも食べたいけど、閉店はちょっと早めの17時。仕事の帰りに寄ろうとしても間に合わない〜と心配しているそこのアナタもご安心あれ。なんとビルの入り口に自販機があり、冷凍のカツサンドがいつでも買えるのだ。自宅で食すだけでなくおみやげにもいいかもね。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢