釣りだけでなく食事も楽しめる『つり堀 武蔵野園』
和田堀公園は善福寺川沿いに広がる緑豊かな場所だ。一帯は杉並区で最も緑が多く、春は桜の名所となる。
野鳥も多く訪れ、公園を散策するとカワセミやジョウビタキなどに巡り合うこともある。スポーツ施設も多く、野球やサッカーを楽しむ人々をよく見かける。
今回紹介する『つり堀 武蔵野園』は、東西に長く伸びた和田堀公園の中間あたりで営業している。赤い連子(れんじ)に囲まれた建物の外観が目を引く。『武蔵野園』の創業は昭和26年(1951)。当初は貸しボートやプールなどを行っていたが、のちに釣り堀を買い取って現在の営業形態となった。
食堂はビニールに覆われた開放的な空間となっており、釣り堀を眺めながら食事ができる。貴乃花部屋ゆかりの品が飾られているのは店主が若貴兄弟と同級生で、彼らは幼い頃によく『武蔵野園』で遊んでいたからだ。
メニューは非常に豊富で、和洋中の料理やおつまみ、おしるこやアイスなどの甘味類、飲み物はソフトドリンクから酒類まで揃う。食堂だけでなく、『武蔵野園』の向かいにある公園のベンチでも料理を味わうことができる。
とりわけ有名なのが「孤独のグルメ Season1」の第5話で登場した親子丼だ。このほかオムライスも人気が高いという。おでんはおすすめとして写真付きで紹介されている。味噌おでんとも呼ばれる田楽も揃えている。食堂にも居酒屋にも利用できる懐の深さが人々から支持される理由のひとつだ。
『武蔵野園』はあらゆるところに手づくりの魅力が散りばめられていて、のびのびとした開放感に満ちあふれている。どこか幼少期の懐かしい雰囲気も漂っている。
食堂をのんびり眺めていると、オーダーしたおでんが運ばれてきた。底の深い器には、たっぷりの汁につかったおでん種が確認できる。からしも十分な量が添えられている。
おそらくは業務用のレトルトおでんだが、雑味のない柔らかなおでん汁の味わいは冷えた身体をやさしく温めてくれる。おでん種は大根、玉子、焼きちくわ、さつま揚げ、こんにゃく、結び昆布となる。
さらにもう一品、人気のオムライスをオーダーしてみた。チャーハンについてくるような中華スープがなんともかわいらしく、昭和テイストあふれる組み合わせだ。
つやつやのオムライスは、甘みと酸味がバランスよく融合していて非常においしかった。卵もライスもふっくらとしていて手づくりの素晴らしさが感じられる一品だった。
客層は家族連れがほとんどだが、公園のスポーツ施設を利用した人々も利用している。訪れた日は野球で汗を流した紳士たちがビールや酎ハイを片手に宴会をしていた。ほかのお客さんに配慮できるなら、昼間から飲める酒場として利用してもいいだろう。
お腹がふくれたら、すこし釣り堀を見学してみよう。釣り池は4つに分かれており、どの池に挑戦してもいい。通路に転がっている瓶ビールケースを椅子にして、釣り糸をたらせばすぐに楽しめる。
釣竿は釣り糸が括り付けられた非常にシンプルなものだが、自身の竿を持ち込みしてもかまわない。真剣に楽しむのもよし、のんびりと楽しむのもよし、自由な雰囲気が釣り堀にあふれている。
奥の池にはジョーズのオブジェが飾られている。これは映画「HiGH&LOW」で『武蔵野園』がロケ地になった際、廃棄予定のオブジェを店主が譲り受けたのだそうだ。このようなゆるい遊び心が『武蔵野園』の魅力だ。
大人も子供も自分のペースで釣りを楽しみ、穏やかな日常がやさしくゆっくり過ぎていく。背伸びせず自分を取り繕う必要もなく、ありのままで過ごせる『武蔵野園』のような場所は非常に貴重なのではないかと思える。
『武蔵野園』はWebサイトもなく、SNSでの活動も一切していないという。それでも、有名人やメディアが多く取り上げ、自然と人々が集まってきているそうだ。
『武蔵野園』は料理にしても、釣り堀や食堂の設備に関しても、手づくりによる人のぬくもりを随所に感じることができる。訪れると、ふわっと心が癒やされるのだ。
おそらく『武蔵野園』は「お客さんたちの笑顔を見たい」という素直な気持ちに従って接客を行っているのではないかと感じた。お客さんたちもお店を慮(おもんぱか)って声をかけたりと、やさしい一体感が形成されているように思えた。
おでんやほかの料理を楽しみながら、のんびりとした1日を過ごすことができる『武蔵野園』、和田堀公園の散策がてら、ぜひ一度訪れてみてほしい。
『釣り堀 武蔵野園』の基本情報
釣り堀 武蔵野園
〒168-0061 東京都杉並区大宮2-22-3
03-3312-2723
定休日:火・木
営業時間:9:00~17:00
取材・文・撮影=東京おでんだね