彫刻学科出身のオーナーが友人とふたりで立ち上げ
2000年代のカフェブームを知る人なら『Roof』に入ると落ち着く感覚があるだろう。木がたくさん使われている1階の壁は、本や雑誌、CDが並ぶ棚、カウンター席の上にお酒の瓶もずらり。白を基調とした2階には梁や柱が剥き出しになっていて、建物がかつて別の目的で使われていた場所であることが明らか。古い建物に手を加えたから生まれた温かみのある空間に、アートや音楽といったカルチャーの要素があちこちに散りばめられている。
『Roof』がオープンしたのは2004年のこと。オーナーの右高鹿之輔(みぎたか しかのすけ)さんは、当時を振り返って「中央線沿線でも、吉祥寺よりこちら側にはほとんどカフェがありませんでした」と話す。
武蔵野美術大学で彫刻を専攻した右高さんにとって国分寺は学生時代からなじみのある街。卒業後はアーティスト活動の傍らカフェで働いていた。2年間準備をした末に、大学時代の友人と『Roof』を開いたのは30歳になる年だった。
「この建物はボロボロで廃墟同然だったんです。彫刻学科出身なので、工具を使うのも得意。解体から始めて床も天井も階段も、トイレまで友人とふたりでリノベーションしました」
お金がなかったから自分たちでやる以外なかったというが、磨いてきた手先の器用さやセンスがお店という形で花開いたというわけだ。
名物は野菜たっぷりのプレート、ミッドナイトランチ
『Roof』の名物はミッドナイトランチと名付けられたプレートメニュー。夕方17時から24時の閉店間際まで栄養にも気遣った食事ができる。カレー、パスタ、タコライスなどを中心に内容は日替わりで5種類前後。ランチタイムも同じく5種類前後のプレートランチがある。
ミッドナイトランチ、ランチ共に人気があるのはタコライス。この日は雑穀米のタコライスに、彩りよくゆで卵、トマト、アボカドをトッピング。葉野菜たっぷりのサラダが添えられていて、副菜としてスペインオムレツと旬のカブをマリネにしたものまでついていて、お皿の上は面積なら半分ほどが野菜というありがたさ。タコミートはミンチ肉が食べ応えのある大きさで、ほどよいスパイス感。カブのマリネはゆずの香りが爽やかで季節感がある。
「野菜がしっかり取れる食事ができて、しかも来るたびに違うメニューがある。店内にある雑誌やフライヤーも含めて、いつも小さな発見があるお店でありたいと思っています」
そんな右高さんの考えを反映して『Roof』のメニューはバラエティが豊か。山形の芋煮やブラジル料理のフェイジョアーダなど、各地の郷土料理が新メニューとして取り入れられている。
「10年ぐらい前から、『カフェって、何しに行くところ?』と若い子に尋ねると『ご飯を食べに行くところ』という答えが返ってくるようになりました。それから食事メニューの割合を増やしています」
食べ物のメニューはほとんどが手作りだ。オープン当初はこんなにも料理を作る予定ではなかったことから、カウンター内のキッチンは手狭だが、なんとかやっているそう。
新たなカルチャーにも触れられる。クラフトジンが約130種類
ドリンクも種類豊富で、フレンチプレスで淹れるスペシャルティコーヒーにチャイ、スムージーにカクテルなどなどメニューを見るだけで楽しくなる。
圧巻なのがクラフトジンの数だ。ヨーロッパ、オセアニア、日本など各国の個性的なクラフトジンが約130種類も並んでいる。多摩地区では有数の品揃えが自慢で、都心よりも割安で提供しているとのこと。ジンを目当てに、国分寺駅の反対側に住む人も訪れるようになるなど、店の新しい名物として機能している。
国分寺は周辺に複数の大学を有する学生街。右高さんもお店を開く前は、大学生の来客を見込んでいた。ところがいざ営業を始めると、特に昼間、店の風景は予想と異なっていた。国分寺は学生が多い一方で長く住む年配の住民が多いことも特徴。実はオープン当初からランチタイムの常連客は60歳以上がメインだ。
「週に1回必ず来てくださる方も多い。1年、2年ではなくて、10年単位の常連さんです。地域に密着した営業ができるのも、繁華街とは違ういいところだと思っています」
2024年7月には20周年を迎えるカフェ『Roof』。カフェカルチャーの原型を留めつつ、柔軟に変化を遂げてきた。昼間から深夜まで時間帯によって客層が異なる人が集うのは、ニーズを汲んで、まちに溶け込んできた証左だろう。
取材・文・撮影=野崎さおり