本場ペルーの家庭料理が食べられるレストラン
JR川崎駅前の西口ロータリーから伸びる大通りを歩くこと3分、ペルー料理専門店『アルコイリス』の看板がすぐ目に入った。
店頭にはたくさんの料理写真が飾られているが、一緒に「世界でも美食と名高いペルー料理。肉、魚介、野菜すべてが豊富に揃うペルー料理の魅力をご堪能ください」という文言が添えられている。写真を見る限り、どれも食べたことはないがおいしそうだし、“美食”と聞いては一度食べてみたくなるというもの。
店内に入ると、店主の娘さんの新垣ゆきさんが迎えてくれた。「ここは、ペルーに移住した沖縄出身の両親が1992年にオープンしたペルー料理の専門店です。たぶん専門店としては日本で最古だと思います。日本で働くペルー人のために作られたレストランなんですけど、2013年ごろからじわじわと日本人のお客様も増えてきて、今ではラテンの人たちと日本人の比率は半々です」と話す。
現在はペルー人のシェフが現地の家庭料理を提供しており、日本人向けの味付けにしてはいないが、一度食べるとハマる人が多いようだ。はたしてどんな味なのか。
ペルー料理と聞いてすぐ料理名が出てくる人はかなりのツウ。南米にあるペルーはジャガイモとトマトの原産国で、たくさんのメニューに使用されている。しかも生魚食べ、お米もポピュラーなことから案外日本との共通点が多い。
「ペルーもいろんな国の料理がミックスされているんですよ。イタリアやフランス、中国……。ペルーの中華料理っていうジャンルがあるぐらいです。ざっくりというとボリュームたっぷりでお肉と野菜をスパイスで煮込んだ素朴な料理が多いですね」。日本でいう肉じゃがや鶏肉とトマトの煮込みなどを想像してみたが、どんな料理が食べられるのか楽しみだ。
川崎・鶴見に広がるペルー人のコミュニティ
今やどこの町にも外国人が経営する飲食店があるが、川崎の街を歩いているとかなり多い印象だ。看板やメニューが日本語表記ですらないところもあったりしてかなりディープだ。なぜこんな街並みになっているのだろう。
ゆきさんに聞いてみると「昔から、ペルーやブラジルから来た人が川崎や鶴見の大きな工場で働いているんですよね」と話す。
最初は1人で来日し仕事が安定してきたら家族を呼び寄せて定住していく。ここにみんなで食事をしに来るため、この店は川崎で暮らすペルー人たちのコミュニティの中心になっている。
「工場勤めを経て電気工となって独立したり、料理ができる人はレストランを経営している人もいますよ」という。パイオニアとして存在する『アルコイリス』は川崎や鶴見に住む人たちの拠り所なのだ。
そもそも、新垣家とペルーのつながりはゆきさんの2世代前からはじまる。沖縄出身の祖父母は、出稼ぎのためにペルーへ渡った。ご両親はそれぞれペルーで生まれ育ったものの、自分たちのルーツである日本へ戻ってきてそれぞれ会社員として働いていた。そのうちに2人は出会って結婚。そして、ゆきさんが生まれた。
ゆきさんの祖父母も両親も日本人。しかもゆきさんは日本で生まれ育ったので「ペルーに行ったことがある日本人です(笑)」というが、店では時折流暢なスペイン語で会話をしていてカッコイイ〜!
シナシナのポテトフライが絶品! 火柱が立ち上るほど強火で炒めたロモサルタード
筆者は訪れたことがないペルー。ランチメニューを見ると、先ほどゆきさんに教えてもらった通りジャガイモとトマトが組み込まれている。このなかでもロモサルタード900円がダントツの人気メニューだというのでオーダーしてみた。
ロモサルタードはペルーの家庭料理で、ゆきさんによれば「召し上がった方がよく『懐かしい味がする』って言ってますね。特に日本人向けにアレンジしていないんですけどね」とのこと。
厨房に入ってコックのイバンさんに挨拶をした。これまではゆきさんの家族が調理をしていたが、今は現地出身のイバンさんが賄っている。料理はさっと炒めてすぐにできるそうなので、マジックショーでも見る気分。ワクワクしています!
テーブルに並べられたロモサルタードからホカホカと湯気が出ていて、芳ばしい香りを漂わせている。これはアツアツのうちにいただきましょう。
まずはビーフコンソメのような、あっさりとしたスープをひとくち。ああ〜牛と野菜の旨味! これはじんわり胃に染み入って、食事のスタートにもってこいだ。
そしていよいよ本丸へ。ガツっとフォークですくって食べてみると、最初にきたのは炭火焼きのようなスモーク感。ああ! あの火柱がこんな効果を生み出しているの⁉
いつもならカリカリであってほしいフライドポテトが煮汁をたっぷり含んでクタクタになっている。いやでも、ロモサルタードに限っては断然アリだなー。むしろこうでなくちゃと思えてきた。日本に似た料理はないけど、醤油ベースの甘じょっぱさがお母さんが作った料理みたいでホッとさせてくれる。
最後にグビッとスープを飲み干して完食。満腹になったから満足したのではなくて、なんだか心も満たされている感じ。ああ〜、ペルーに帰りたくなっちゃったな。って、一回も行ったことないのに! そんな気分になる『アルコイリス』でした。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢