煮干しが力強く香る飽きない一杯
メニューはラーメンベースとつけめん。今回は味付きたまごらーめん900円を注文。
艶やかなたまごが乗った色濃いスープのラーメンが到着した。
煮干しの風味が力強く香るスープは、煮干しの出汁が極限まで凝縮され、苦味すら感じる。しかし舌が慣れるとそのビターな味の中に複雑な味わいが混合し、絡み合っていることがわかる。途端にこの味わいがクセになり、後を引いてしまう。
ストレートの中太麺といただくと、パワフルなスープの味が途端にまろやかになる。麺にほどよく絡み、優しくちょうどよい旨味が口いっぱいに広がる。
もちもちの麺と共に食べればマイルドに、スープ単体ではガツンとパワフルと、飽きることなく箸が進んだ。
チャーシューは一見しっかりとした歯ごたえのあるタイプかと思ったら、口に入れた途端にホロホロとほぐれ、脂は一瞬でとろけてしまった。とろけた脂とホロホロの肉が合わさるとまるでテリーヌのような舌触りだ。正に期待を大幅に上回る一品。
しっかりと濃厚で高い満足感を与えてくれるが、過度のこってり感やしつこさもなく、罪悪感なく満足できた。
ラーメン大好きの店主が研究の末にたどり着いた毎日食べられるラーメン
元々会社員だった田口さんは2001年に『こうかいぼう』を開店させた。ラーメンがとにかく大好きで、自分の好きな味の、それも毎日食べても飽きないようなラーメンを作ろうと研究を重ね、ようやくたどり着いたのが先ほどいただいたラーメンなのだそう。
「脂っぽいのはあまり好みじゃないので、動物性の脂の旨味に頼らず、それでいてふやけた味にならないようなラーメンを目指しました。『毎日食べられるような味』は、口で言うのは簡単なんですが難しかったです。イメージとしてはお味噌汁のような感じですね」
田口さんは穏やかに、人あたりのよい口調で語る。
「スープは豚のゲンコツや鶏ガラ、そして煮干しですね。あとは鰹節やサバ節、野菜もたくさん使います。灰汁や脂の処理は丁寧にやります。塩も海の精という伊豆大島の海水から作られる天然塩です。それで脂よりもダシの旨味で食べられる理想のラーメンが完成しました。毎日でも食べられて、普段使いできるようなラーメンですね。アツアツでももちろんおいしいですが、脂ではなくダシがメインなので、コーヒーのように冷めても冷めたなりの良さがあるんです」
普通のラーメンなら冷めてくると脂がくどくなってくるが、冷めても飲みやすい『こうかいぼう』のラーメンの秘密は煮干しのダシを味の決め手にしていることだった。
「チャーシューは国産生肉を使っています。部位は肩ロースです。生肉というのは冷凍していないということですね。値は張りますが香りが違いますし柔らかくて上質です。ですからうちのチャーシューがおいしいというのは調理ではなく肉そのものの力なんですよ」
田口さんの語り口は常に控えめで気遣いを感じるが、ことラーメンに関しては、その奥に確かな自信がうかがえる。
「誰でも気軽にラーメンを食べに来られるお店を目指しています。そのおかげで子どもから大人、ご家族連れやカップル、小学生だけで来てくれるお客様もいます」と田口さん。
おいしいラーメンと、田口さんご夫妻のあたたかく気配りのある接客。これは日を置かずすぐにまた足を向けたくなってしまうだろうな。
/定休日:日、水、 第1・3金/アクセス:地下鉄東西線・大江戸線門前仲町駅から徒歩6分
取材・文・撮影=かつの こゆき