イギリスから日本にやってきたカレー
カレーは今や日本の国民食といっても過言ではありません。インドで香辛料をふんだんに使った料理を「カレー」と呼んでいたものが由来となっています。
今では日本でもインドカレーが広く人気を集めており「カレーといえばインド」というイメージを持つ人も多いはず。しかし実は、カレーが日本に入ってきたルートはイギリスからなのです。
明治時代、イギリスから入ってきたカレーに小麦粉を加えてとろみをつけたものがカレーライスとして日本中に広まりました。
その後、日本特有のさまざまなアレンジが加えられ現在に至っており、カレーパンやカレーうどんなどの、日本発祥のメニューも数多く誕生しています。(カレーパンやカレーうどんの最古も、いずれご紹介したいです!)
なかでも、長年にわたって定番的人気を誇るカツカレーは、まさに日本人の大発明とも言えるものでしょう。
カツカレーの元祖を謳(うた)う店は複数
そんなカツカレーを最初に販売したのは一体誰なのか。これには諸説があり、それぞれの店が現在も「元祖」を謳っているのが現状です。
神保町で1960年に創業した人気店『キッチン南海』は看板にも「元祖カツカレー」を掲げていますし、大阪の難波にも1959年に創業した『元祖とんかつカレー カツヤ』という店があります。
そのなかでも一番広まっている説としては、銀座にある洋食店『グリルスイス』が1948年にはじめて提供を始めたというもの。
プロ野球読売巨人軍のスター選手だった千葉茂氏が「とんかつとカレーを別々に注文するのが面倒だ」といったのが始まりという逸話とともに広く知られていて、最古カツカレーをめぐる論争は群雄割拠の様相を呈しています。
カツカレーの元祖は別にあった!?
しかし、サイコメグラーを自称する私ツバキングは、そうした論争に一石を投じるようなお店を発見しました。台東区入谷にあったとんかつ店「河金」です。
実は、こちらのお店は2022年の8月に閉店してしまいました。
しかし、弟さんが暖簾分けをした『とんかつ河金 千束店』が浅草寺から徒歩10分ほどの場所で営業しており、こちらで最古の味は今も脈々と受け継がれています。
『河金』のカツカレーは、カレー皿ではなく丼に入っているのが特徴。
ご飯の上にキャベツをしき、そこにカツを乗せカレーをかけた「カツカレー」です。
スプーンではなくフォークが付いてくるのも特徴的で、カレー店ではなくカツの店なので「カツを食べやすいように」という思いが伝わってきますね。
ジューシーながらあっさりした豚肉の旨味が感じられ、カレーをかけても衣がサクサクなのは、さすがカツの専門店!
そしてカレーは、黄色っぽい昭和の家庭カレーといった風情。しかし、大量の野菜と肉を大鍋でじっくり煮込んでいるので、家庭では出せない美味しさに仕上がっています。
野菜はカレーに溶け込み、肉もひき肉を使っているため、食感でカツを邪魔していないのも、カツ推しであるメッセージを感じますね。
なぜ最古論争に入っていないのか?
元祖カツカレーを謳う3店舗は、どこも昭和20~30年代の創業ですが、『河金(入谷店)』の創業は、そこから遡ることおよそ30年の1918(大正7)年。
明らかにこちらが元祖であるはずなのに、なぜ議論の中心から外れてしまっているのでしょう。その理由は、メニュー名にありました。
カツカレーさながらの一皿ですが、こちらのメニューはカツカレーではなく「河金丼」だったのです。
そのため、カツカレーの最古論争には入ってこないことが多いのです。
下町の飲食店なので、正式な記録などは残っていないそうですが、入谷店の元店主さんによれば、「河金丼は、この店を創業した祖父が開店してすぐのことだったと聞いていますよ」とのこと。
つまりこの名前こそカツカレーではないものの「河金丼」こそが、事実上の最古カツカレーと言っていいのです。
入谷店が閉店したこともあって、週末になると千束店は満席の賑わいが続いていますが、歴史から隠れた最古のカツカレーを味わいに言って見てはいかがでしょう。
写真・文=Mr.tsubaking