予約必須! 台中の人気店
ミッシェランガイドはよくも悪くも台湾にも上陸していて、この店はビブグルマンに選ばれてもいる。供されるのは和食やタイ料理の要素も取り込んだ台湾家庭料理で、つまり地元の普通の料理がそれだけ評価されているのだから、ちょっとしたものだ。予約は必須、日本からもサイトでひと月前から予約が可能。競争率は日増しに高くなっている模様。もっとも広い2号店が2023年9月、国立中興大学近くに正式開店したそうだから、緩和されるかもしれない。
本店があるのは台中の中心部にある模範街なる、落ち着いた住宅街の一角。旧名を大和村といい、リービ英雄の自伝的名作『模範郷』の舞台でもある、かつての日本人街だが、その当時の面影はあまり見当たらない。代わって最近センスのいい飲食店がにょきにょきできてきた伸び盛りのエリアでもある。ドリップ方法から選ぶ『coffee stopover』なんてハイセンスなカフェもこのあたりにあるので寄るべし。
『好菜Küisine』は人気店でありながら、街角のビル1階にあって、ごく普通な佇まいである。目立つのは植物の緑に囲まれた入り口に、順番待ちの人がたむろしていることくらい。出かけていったのは昼過ぎで、予約を確認するとすぐ中に通された。狭いながらも開放的で、シンプルなカフェと見まごう店内は居心地よく、どのテーブルもお客さんの熱気でいっぱい。
さっそくオーダーとなるが、ここで新たなハードルが立ちはだかる。この店、混雑時は1時間制なのだ。そしていつも混んでいる。つまり60分以内に料理を撰び、オーダーして、舌鼓を打って、ごちそうさまと、にこやかに店を後にしなければならない。店内の菜單(メニュー)は日本語なしだが、写真付きなので料理はざっくり理解できる。あるいは出かける前に「好菜 菜單」とネットで画像検索して、戦略を立てるべし。
日本人の舌と相性のいい、台湾家庭料理
初訪問で選んだ料理は3種類。
老皮嫩牛肉(ラオピーネンニュウロウ)は、中国風揚げ出し豆腐と牛肉の炒めもの。周囲に台湾名産の水蓮菜というツル状の野菜をざく切りして散らしてある。味のアクセントは赤唐辛子。
蒜香鮮蔬什錦蝦仁(スゥアンシャンシェンシェンジンシャーレン)は、ニンニクを効かせた蝦(エビ)と野菜炒め。
香茅檸汁煨酥炸魚(シャンマオニンジューウェイスーヂャーユイ)は、レモングラス魚の衣揚げのピリ辛とろ火煮込みで、タイ料理風だ。
いずれも素材のよさを感じさせ、繊細で品のいい味つけである。あざとさがない直球のおいしさだ。まさに高級家庭料理といったところ。さらに必ず注文すべき品がある。それが「台中194馥米(タイチョン194フーミィ)」だ。2009年に誕生した品種改良米「台中194号」を用いたライス。冷めても硬くならず、ほどよい甘味と香りを持つ台湾産高級米である。これを上手に炊きあげている。もっちり感はそこそこだが、日本人の舌に直結するおいしさである。そのまま味わうもよし、料理をのせてラフに食べるのもよし。海外でこんなおいしいオリジナルのジャポニカ米を食べられとは。1杯70円ほど。
他にもぶつ切り牛ステーキに半熟卵をかけて食べる牛菲力月見香蘋奶油燒(ニュウフェリーユエジェンシャンピンナイヨウシャオ)なんていう、和食センス漂う品も人気の様子。料理はひとさら1000円台前半~1500円くらい。味を考えたら安いものである。40種類近くあるから、一度ではとても味わいきれない。注文すれば手際よく出てくるので、おしゃべりに夢中にならない限り、1時間以内であせらず味わえる。
こういう店が潜んでいるから、台中詣ではやめられない。
取材・文・撮影=奥谷道草