お話を聞いたのは
森と踊る株式会社 代表取締役三木一弥さん
荒れた放置人工林が、少しずつ元気を取り戻しはじめる
スギやヒノキだけでなく、濃い緑や黄緑といった色合いや葉の形の異なるさまざまな木々が茂り、すがすがしい空気に満ちている。山登りに来たような気分になるけれど、ここは林業が営まれている森。荒れた放置人工林だったが、日々の地道な努力のおかげで、少しずつ元気な姿を取り戻しはじめている。
この森を守るのは、森と踊る株式会社の三木一弥さん。森が自然の力で回復するために欠かせない生物の多様性に注目している。売り物にならない灌木(かんぼく)は邪魔になるため切るのが一般的だが、三木さんはあえて残す。ただ、そのままだと藪のようになるため、不要な木を抜いたり無駄な枝を剪定したりと、伐採するよりはるかに手間も時間もかかるのだ。
「でも灌木のカラスザンショウの実は鳥が大好き。種を運んで来てくれるから自然に多様性が回復していく。まさに植えない林業。森のためには必要な木なんですよね」
健全な森づくりは土の中から始まっている
地上の環境をよくするには、土台である土壌から整えることが大切だと三木さんは話す。
「土の中に空気と水の流れをつくって健全に保ってあげると、地面が元気になる。生物多様性に詳しい専門家・坂田昌子さんに森を見てもらっているのですが、2018年頃は約30種だった植物が2022年には100種を超えていると言われ、がぜん楽しくなりました。植物同士の共生関係が増えているのも分かってきて、面白くて仕方ない」と、三木さんのわくわくが伝わってくる。同じような取り組みをしている人はほかにもいるのだろうか。
「関心をもつ林業家はたくさんいるけど、生業として考えると難しい。僕らもまだ挑戦中だけど、いつかはスギやヒノキを売るだけではない、別の方法や森の空間の活かし方を考えていかなきゃいけない。切株が残される森側にもフォーカスしていきたいんですよね」
だから三木さんは自身の活動を林業ではなく“森業”と呼ぶのだ。
生物多様性のお手本となるのが、ここから尾根でつながる高尾山。小仏層群という地層がほぼ垂直に走っているため、水がどんどん深く入るという特殊な地形だという。
「非常に潤った山で、なぜか東西の植物が集まっています。生物の多様性はイギリス一国と並ぶそうです。日本の冠たる生物多様性のホットスポットだということを知ってほしい。そこからでも、森の現状に関心を持つきっかけになるとうれしいですね」
森と踊る株式会社
林業から製材・木材加工・内装業などを一貫して請け負う。森の可能性を伝えるため、ワークショップやイベントも開催。問い合わせはHP(moritoodoru.co.jp)まで。
取材・文=井島加恵 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2023年11月号より