過去に西武新宿線の「田無(たなし)」というところに住んでいたことがあり、ネタ探しに立ち寄ったことがあった。たしか南口に良さげな酒場があったはずで、そこへ行ってみると『だるまさん』という良い雰囲気の酒場があった。これはLINEのネタになりそうだと、早速店の中へ入った。

店内には壁にいくつも提灯やダルマ、フィギュアなどが飾ってあり、全体的に“わちゃっ”とした雰囲気。客は他におらず、私はカウンターの端に座って、まだ飲み慣れていなかったポッピーを頼んだ。そもそも独りで酒場へ入るのも慣れておらず、若干の緊張をしながらメニューを眺めた。どうやら「白モツ タレ」というのがおすすめのようなので、頼んでみることに。しばらくしてやってきた白モツは、ちょうどいい焦げ目も入って見るからにウマそうだ。食べてみると、図らずも「ウンまッ!!」と声が出た。衝撃的な柔らかさとタレのおいしさだった。これはスゴイものを発見したと、早速LINEグループに写真を送った。

 

──そんなことを最近思い出して、あの白モツを猛烈に食べたくなった。家からは少々遠いが、思い立ったが吉日。西武線に乗り込み、思い出の田無へと向かうことにした。

「おお……ぜんぜん変わってねぇなぁ!」

北口のペデストリアンデッキや上京して初めて口座を作った「りそな銀行」、田無のシンボル的な存在の『ASTA』といい、まったくその様相は変わっていない。ひとしきり懐かしみ、いざ南口の『だるまさん』へと向かった。

 

……のだが、

「エッ? ナニもナイ……?」

北口はほとんど変わっていなかったのに、南口は綺麗さっぱり更地になっていたのだ。

いやいや、ここここっ! ここに『だるまさん』があったんだって! なんてことだ……残っているところもあるのだが、ちょうど酒場があったところだけなくなっている。こんなところにも再開発の波が……まぁ仕方がない。諦めて別の酒場を探そうかと思ったが、念のためスマホで店の所在を確認してみると、意外な事実が判明したのだ。

かつて田無駅南口にあった『だるまさん』は、その後ふたつ隣の駅の「武蔵関」に移転。そこでしばらくやって、またこの田無に戻ってきていたのだ。今度は駅の北口にあるらしい。

これは何かの思し召しと、急ぎ足で北口へ戻る。そして、駅を出て徒歩3分も経たないところに、その酒場はあったのだ。

おおっ、『だるまさん』……か? ここで合っているよな……? おそらく、最近できたばかりでかなり綺麗だ。それはいいのだが、南口のときとはだいぶ雰囲気が違う。南口のときは入り口が赤いテントに“だるまさん”と書かれているだけのシンプルなものだったし、入り口は階段を登って二階だったはず。

こんなキャラクターもなかったはずだが……うーむ。もう少し調べてから出直そうかなと思っていると、店の自動ドアが開いた。中からは先輩がひとり、ベロベロの泥酔状態で出てきたのだ。時間はまだ夕方5時過ぎ。千鳥足で駅に向かう先輩の背中を見て“ここで間違いない!”と、謎の確信が芽生えたのだ。いや、例え違う店だったとしても、きっと良店に違いない。ふたたび自動ドアを開け、中へと入った。

 

 

「いらっしゃいませ~」

むむっ、この店内! 壁の提灯にダルマやフィギュア……だいぶ綺麗だが、以前の内観と同じようなものが飾ってある。やはりここだったか……。

いや、慌てるな私。落ち着いて、ひとつひとつ答え合わせしていこうじゃないか。となると、まずは酒。そうホッピーだ。

来た来た、私の「ホッピー」の白セット。今では飲み慣れたどころか、自宅にも常備させるほどの“相棒”だ。水位は約4割といったところか。

ごぐん……ごぐん……ごぐん……、だ~るまさんが飲(の)~ん~だっ! 正解も不正解もない、ただただウマいのだ。さて、続いて料理だ。ついにアレの所在の確認に入るのだが……。

おっと、まさかのタッチパネル注文。これは失礼、ホッピーは口頭でお願いしてしまいました。どれ、“おすすめ”をタッチと……おっ!

出た──っ! おひさしぶりです「白モツ タレ」さん! というか、「西東京みんなで選ぶいっぴん選手権」なんて大会で準グランプリを獲得していたのか。そりゃ、あれだけウマければそうなるか……ここはあの『だるまさん』で間違いない。しっかりとあの味を思い出そうじゃないか。

はやる気持ちとは裏腹に、一緒に頼んだ「しそチーズ春巻き」が先にやってきた。やきとんは焼き上がりに多少時間がかかる。これも演出のひとつ、まずは揚げたての春巻きをひと口。

「カリッ」と皮の軽い口当たりがいい。中からはトロリとしたアチチのチーズ、そしてツンとアクセントのシソがすんばらしい。うん、思いのほか名作じゃないか。

 

「おまたせしました~」

おっ、今度こそ白モツかな……?

いーや、まだまだ。続いてやってきたのは「センマイ刺」である。普段あまりセンマイ刺を食べないのだが、タッチパネルの写真があまりにもおいしそうだったのでタッチ。実物はもっとウマそうだ。付けダレと一緒にパクリ。

うんまいっ! センマイのコリコリとネギのシャキシャキがたまんねぇ。特にタレがおいしくて、甘辛い味噌の配合が絶妙だ。

湯気を立たせた皿がまたこちらへやってくる。フフッ、ついにお目当てが来たかな……。

うおっ、また違った! ……いや、これはこれでお目当とも言えなくないビジュアル。

一本目は「ネギレバ」である。なんですかアナタ、レバが見えないほどにネギが乗っているじゃありませんか(はぁと)。串打ちと焼き方が上手なのだろう、これだけ山盛りのネギでも串から落ちないという。口の中でネギがジャグジャグといっぱいになり、コッテリレバのうまみが合わさる。ウマいなぁコレ!

2本目は数量限定の「ミニトマト巻き」だ。なんて、綺麗にトマトを包んでいるのでしょう……ミニトマト包み専用の肉でも使っているのか? アチアチのトマト汁をすするようにして頬張る。やはり、トマトと肉のバランスが他とは違う。こいつもおいしいの溜息だ。

 

トン……

と、テーブルの上に見覚えのあるシルエット──

おぉぉぉぉぉぉっ……お久しぶりです!! 遂に現れた「白モツ タレ」は、確かに“思い出補正”が多少入っているかもしれないが、それにしたってなんと美しい姿か。上品な焦げ目、ムチムチとした肉の縮れ、タレの匂いがもう……あっ、我慢できない。一気に、食らいつく。

クゥゥゥゥウゥゥゥゥんめぇっ!!

ほらね、やっぱりおいしいじゃん、おいしいじゃんて! 白モツのイヤな硬さ、臭みなんて一切ない。お乳のような口当たり、甘くトロ~ンとした甘味が、さすがは準グランプリだ。いや、私の中では間違いなく日本一のグランプリである。南口のときと同じだ。あのときの衝撃が、再び蘇ったのだ。

おかわりして、もう三、四度目の衝撃を味わいたいところだが、それはまた今度に取っておこう。南口の様子や店はちょっと新しくなってしまったが、これだけはこれからも変わらないはず。それには、再開発の移転後も田無へ戻って続けてくれたことに感謝しなければいけない。

 

あ、そうだ……。

“白モツは健在だったぞ!”と、例のLINEグループに送ろうか。いや、残念ながら現在そのグループは存在しない。カンのいい読者ならお気づきかと思うが、何を隠そう、そのLINEグループから発展したのが「酒場ナビ」なのである。

まさかね、あれをきっかけに何年も酒場めぐりをすることになるとは……今のところ、だるまのように転んでも起き上がって吞んでいます。

『だるまさん』

住所: 東京都西東京市田無町2-2-1
TEL: 042-497-6664
営業時間: 16:30~23:00
定休日: 無
※文章や写真は著者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。

取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)