プロフィール

深川麻衣 Fukagawa Mai

1991年、静岡県生まれ。2011年から2016年まで乃木坂46として活動。卒業後は女優として2017年に舞台『スキップ』で初主演。2018年、初主演映画『パンとバスと2度目のハツコイ』で、第10回TAMA映画賞では最優秀新進女優賞を受賞。近年の出演作に、映画『わたしと、私と、ワタシと、』(2023年)、ドラマ『彼女たちの犯罪』(2023年)など。

井浦 新 Iura Arata

1974年、東京都生まれ。映画『ワンダフルライフ』(1998年)で初主演。『かぞくのくに』(2012年)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞、『11・25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012年)で第22回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。近年の出演作に、映画『福田村事件』(2023年)、『アンダーカレント』(2023年)など。

アラサー女子がおっさんと共に再生していく物語

原作は、元SDN48の大木亜希子が実体験をもとに書いた同名の私小説。アラサーに差し掛かり、恋愛にも仕事にも行き詰まった人生迷子の元アイドルが「赤の他人のおっさん」と同居することになり、その「おっさん」との交流を通して少しずつ再生する物語だ。映画で主人公の安希子を演じるのは、乃木坂46出身でやはり元アイドルの深川麻衣。対する井浦新が、都内の一軒家で一人暮らしをするサラリーマンのササポン(56歳)を演じる。

―― 原作があり、また安希子にもササポンにも実在のモデルがいますが、どんなところに共感しましたか?

深川 安希子は私と同じ世代。元アイドルでセカンドキャリアというのも、自分が歩んできた道と似ているところがあって。次のステップを目指して壁にぶつかったりとか、周りの友達が結婚し始めて「(自分はこの先)どうしたらいいんだろう?」ってもがいてたりとか。その、人生の岐路に立っている焦りみたいなものは、すごく共感できました。

井浦 僕は、もし元アイドルじゃなかったとしても、何かに飲み込まれてしまったように感じることってあると思うんです。自分が自分じゃないような気がして、でも足を止めるわけにはいかないから苦しい。そしてやっぱり疲れて足を止めてしまって、「次はどうしよう?」「これからどう生きていこう?」って悩むことは、きっとどんな職業でもある。だから僕も(ササポンという)役にというより、作品全体に共感しました。この映画を観た人がそれぞれ自分に重ね合わせて、何かのきっかけにしてもらえたら、と思って演じていました。

―― 劇的な変化ではありませんが、冒頭とラストで明らかに安希子の表情が違っていて、それが印象的でした。

深川 人生に詰んで外に出られなくなった安希子が、ササポンの何気ないひと言に救われるシーンがあるんです。きれいごとになっちゃうかもしれないですけど、もし詰んでいなかったら生まれなかった物語だし。でも、「だから辛い時にも前を向かなきゃ」とか、そういうふうには捉えてほしくないけど、失敗をどう捉えるかが問題なのかなって。初心に返った時に見えてきたものが、再び歩き出す時に背中を押してくれると思いました。

井浦 僕が思ったのは、この映画は安希子の物語ですけど、実はそんな彼女に影響を受けて、おじさんも再生させられてるんです。ササポンとして見ると、(将来と向き合い、踏み出そうともがく)安希子の背中にグッと来る。撮影カメラは安希子の表情を撮るために正面から映しますが、僕はこっちもいいと思って、何気に本番前のギリギリまで(持ち込んでいた自分のカメラを携えて)ササポン目線で安希子の背中とか隠し撮りしてました。

深川 え! 本当ですか!? 全然気づかなかった……。

―― カメラは普段から持ち歩いているんですか?

井浦 はい。デジタルもフィルムも、その時の気分で。

深川 今回の現場では、新さんも私もカメラを持ってきてた日があったんですけど。お互いを撮って現像したんですよ。私が新さんにレンズを向けたら、戦隊もののポーズをしてくれて。

井浦 そうそう、ポーズしてた!

―― 何かテーマがあったんですか?

井浦 いえ、何のテーマもなく。

―― オフショットも見応えありそうですね。安希子の背中も。

深川 それは全然知らなったです。

井浦 送ってなかった? 送る?

深川 送ってください。私も送ります、戦隊ものの。

発見したり、心を潤したり、それぞれの散歩の目的

―― お二人にも、安希子にとってのササポンのような存在はいますか? 人じゃなくてもいいです。

深川 うーん……、私は愛犬ですね。ヨークシャテリアで、名前は「モナカ」です。向こうが甘えたい時には来るけど、そうじゃない時はプイッとして。そのマイペースさがかわいくて。人間の言葉は喋らないけど、向こうが言ってることはちゃんとわかるし。おかげで仕事もがんばれる。

――一緒に散歩も?

深川 お散歩は行くんですけど、向こうが長時間だと嫌がるんですよね。ヨークシャテリアは小型犬なんですけど、うちの子はひと回りくらいデカくて。ふふふ。痩せた方がいいから連れて行くんですけど、途中から拒否しだすんです。

井浦 僕はいろいろあるんですが、今挙げるならやっぱりカメラですかね。ササポンのように語りかけてはくれないんですけど、いろんな偶然が重なって、たまに本当に何かのご褒美かのように、こっちの意図した以上の写真がバシッと撮れてしまうんです。うまくいかない時もあるんですが、だからこそいい。手間がかかるからお世話もするし、そのご褒美が写真として返ってくるというか。

―― 井浦さんはInstagramにもよく風景写真をアップされていますよね。

井浦 はい。自然を撮るのも、都会も両方好きです。自分が写っているもの以外は、全部自分で。あとは、街が寝静まってから車で出かけて、どこかに駐車してから朝までルートを決めずに歩く。明け方の、人通りはなくても人の気配があるような場所を歩いていると、おとぎ話に飛び込んでしまったようで好きなんです。

―― 深川さんもカメラを持って散歩しますか?

深川 そうですね。人を撮るのが好きなので、友達と出かける時とか。

井浦 ああ、いいねえ。

この続きはぜひ本誌で
インタビューの続きは『散歩の達人』2023年11月号に掲載されています。撮りおろしカットの全貌とあわせ、ぜひ雑誌をお手に取ってご覧ください。

映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

2023年11月3日(金)全国ロードショー

仕事ナシ、男ナシ、貯金残高10万円の崖っぷち元アイドル、安希子。これを見かねた親友が彼女に提案したのは、赤の他人のおっさんであるササポンとの同居生活だった。将来の不安にもがくアラサー女子が、自分と向き合い、人生を再出発させるまでの物語。

取材・文=信藤舞子 撮影=三浦孝明 スタイリスト=原 未來、上野健太郎 メイク=花村枝美(MARVEE)、NEMOTO(HITOME)

深川麻衣:ワンピース2万9700円/ crinkle crinkle crinkle(レザボア)、リング(人差し指) 1万1000円・リング(小指)6600円・リング(中指)2万3100円・イヤカフ1万9800円/すべてJouete(ジュエッテ)
井浦新:ジャケット15万1800円・ベスト6万4900円・パンツ9 万6800 円/すべてFRANK LEDAR(MACH55 Ltd.)、カットソー1万5400円/ ATON(ATON AOYAMA)、その他スタイリスト私物

『散歩の達人』2023年11月号より一部抜粋して再構成