温室のようなカフェを通じて、もっと身近に花や緑を感じてもらいたい
地下鉄表参道駅B3出口から徒歩4分。表参道のブランドショップやおしゃれなカフェを横目に見ながら路地に入ると、大木とベンチが見える。白衣を着た人がいるなと思ったが、近づいてみるとそれは恐竜の銅像だった。わ、驚いた!
恐竜の前を通り過ぎるとすぐ右手に『青山フラワーマーケット グリーンハウス』がある。
店内に入ると、緑と花の香りが迎えてくれた。壁や天井にはポトスが張り巡らされ、各テーブルには可憐なバラが飾られている。フレッシュで甘く上品。バラってこんなにステキな香りだったっけ⁉︎ ああ、なんだか自分が高貴な人間になったような気分になる。
まるで異世界に迷い込んだようだ。キョロキョロと周囲を見回していると、「ここは温室をイメージしているんですよ」と、広報の酒井陽子さんが教えてくれた。
「弊社の代表が、あるイタリアの花農家さんを訪問し、温室に入るとパンジーが咲きほこっていたそうです。そこで紅茶をいただいたときに、なんて素敵な空間なのだろうと感動して、これをぜひお客さまに味わっていただきたいという思いがありました」。
ふだん花に接する機会が少ない人にも、カフェで過ごす時間だけでも花ともっと気軽に接していただきたいという気持ちも込め、2011年に「青山フラワーマーケット ティーハウス」をオープン。
その後、2022年4月に表参道駅の再開発のため南青山本店を現在の場所に移転。2023年6月に屋外のテラス席をより緑に包まれる雰囲気にするなど店舗をリニューアル。それとともに、店名を『青山フラワーマーケット グリーンハウス』に変更した。
日々の生活に追われ、花や緑の美しさを忘れていた筆者のような者にこそ響きまくるこの空間。そういえばここは空気も澄んでいてキレイだ、と気がついた。
目にも鮮やか! フレンチトーストとオリジナルハーブティー
酒井さんの話を聞いていたら、さっそく何かいただいてみたくなった。カフェのメニューは花と同様に土から生まれる食材にこだわり、ビーフシチュ-やオムライス、フレンチトーストなどカジュアルなメニューが揃っている。また、エディブルフラワーやハーブを多用し、見た目でも楽しませてくれる。
ちょうどお腹が減ってきたので、花かんむりのフレンチトースト1485円とフレッシュハーブティー935円をオーダーした。調理をしてくれたのは、メニュー開発を担当したクリエイティブマネージャーの神田春菜さんだ。
バニラビーンズが香るアイスクリームを乗せて完成。わぁ、すごくキレイだから食べるのがもったいない、だけど早く食べたい。では、続いてフレッシュハーブティーもお願いします!
「契約農家から届く有機栽培のハーブを使用しています。スペアミント、マジョラム、ローズマリー、レモングラスの4種を使用していて、花かんむりのフレンチトーストと同様にすごく人気のあるメニューです。どのメニューとも相性がいいようにブレンドされているんですよ。フレッシュだからこその風味をぜひ楽しんでください」と神田さん。
“温室”“ハーブティー”“フレンチトースト”。このキラーワードに抗える女子はいるのだろうか。いや、筆者はいまだかつてそんな人を見たことはない。というわけで、気持ちだけ優雅にいただきます。
まずはフレッシュハーブティーから。鮮度のいいハーブに熱湯を注いだだけとは思えないやさしい香りとまろやかさ。ひとくちでやめられなかったのは、決して喉が渇いていたからではない。一緒に提供されたはちみつを入れるとさらに風味がアップして、ハーブの爽やかさが口いっぱいに広がっていった。
2杯目のハーブティーをカップに注いで、フレンチトーストへ。神田さんが「花かんむりは、終わりのない幸せを意味すると言われているんですよ。変化のある味わいを楽しんでいただけるよう、トッピングのアレンジも工夫しています」と語る。
さらに生クリームやバニラアイスを乗せて食べると何通り楽しめることか。一口ずつ堪能しながら、長い間胸の奥に潜んでいた筆者の乙女の部分がズルンと表に出てきて目を輝かせた。今度はランチメニューも味わってみたいな。
外国客が8割を占めることも! ブレイクのきっかけはSNS
今でこそ開店待ちのお客さんが並んでいる『グリーンハウス』だが、「前身の「ティーハウス」はオープン当時まったくお客さまがいらっしゃらなくて、私も通りに出てチラシ配りをしたことがあります」と、酒井さん。一体どこから火が付いたのだろう。
「旅行サイトやSNSによるクチコミです。海外の方が投稿してくださったのをきっかけに行列ができ、そのあと日本人の方も来てくださるようになりました。今でも時間帯によっては客席の80パーセントは海外の方になっていることがあります」。
海外にも花や緑が整備された上質な施設はたくさんあれど、日本らしい花へのアプローチが外国人にとって新鮮に映るそうだ。
「日本はメリハリのある四季と、南から北上する桜前線のように同じ花をある一定期間楽しめる気候があります。そこに生け花という文化が生まれて、1本の花を愛でるライフスタイルが根付いていますよね。欧米は居住地が広くフラワーベースにどっさり生けて楽しむので、新鮮に映るのでしょう」。
そもそも緑に囲まれた温室というシチュエーションが素晴らしい。空間デザインは、姉妹ブランドのパーカーズとプランツコーディネーターがタッグを組み作り上げてきた。
「花の生産者のビニールハウスをモチーフに、半月型のフレームに緑を這わせているんですけど、これまでトライアンドエラーを何度も重ねてきました。植物の成長に合う照明計画、空調も必須です」。
今でも試行錯誤は続いているというからまさに美は1日にして成らず。たくさんの人の並々ならぬ努力がここへ訪れる多くの人たちの感動を生んでいるのだ。ここは筆者にとって、緑のシャワーを浴びられる都心のヒーリングスポットとなった。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢