下北沢の路地裏に現れた“ちゃん系ラーメン”

ここ数年、首都圏で店舗が増え続けじわじわと人気を集めている“ちゃん系ラーメン”が下北沢に登場した。それが下北沢南口商店街から1本奥まった路地裏にある『なおちゃんラーメン』だ。

ウッディな店内にあるのは、オープンな厨房をぐるりと囲む12席のカウンターのみ。仕事帰りや用事の合間にふらりと立ち寄りたくなる雰囲気だ。店内のBGMにはビートルズが流れ、どことなく下北沢の店らしい個性も感じられる。年齢や性別問わず幅広いお客が訪れ、リピートする人も多いという。

普段は“なおさん”と呼ばれ親しまれている店主さん。店名も自身の名前から命名した。
普段は“なおさん”と呼ばれ親しまれている店主さん。店名も自身の名前から命名した。

店を切り盛りするのは、20年以上ラーメン業界に携わってきた店主のなおやさん(愛称は“なおさん”)。小さな町中華から有名なラーメン店まで、さまざまな店で修業を積んできたという。

なおさんは「ラーメンの世界で経験を積むうちに、現場以外の仕事をすることも増えていくなかで“店に立ってお客様にラーメンを出したい”という思いが強くなりました。そこでラーメン店の店主を人生最後の道にしたいと思い、ちゃん系ラーメンの本家からのれん分けしてもらったんです」と話す。

下北沢に店をオープンしたのは「若い方からファミリー層の方まで、いろんな人がいて面白い街だなと思いました」と笑顔。なおさんの朗らかな人柄も、この店がお客を惹きつける理由のひとつだ。

切りたての肉と炊きたてのスープが味の決め手!

特性の醤油ダレに漬け込んだ塊のチャーシュー。これを注文が入ってから一枚一枚、丁寧に手切りする。
特性の醤油ダレに漬け込んだ塊のチャーシュー。これを注文が入ってから一枚一枚、丁寧に手切りする。

ところで“ちゃん系ラーメン”とは一体どんなラーメンなのか? その特徴をなおさんに尋ねてみると「切りたての肉と、炊きたてのスープの2つが特徴です」とのこと。毎朝、醤油ダレに漬け込んで仕込んだチャーシューを、注文が入ってから手切りしラーメンにのせる。肉の鮮度を保ったまま提供することで切りたてのおいしさを楽しめる。そして炊きたてのスープは、豚の肉とガラのみから出汁をとったシンプルなものだ。

「ラーメン作りにおいて特別なことはしていません。その代わり、基本に忠実に、シンプルなことを徹底する。“ちょっとこれくらいいいだろう”はないんです。シンプルだけど、家では決して作れない味を提供しています」

店をカウンタースタイルにしたところにも、実はこだわりが詰まっているという。

「店を開く前から、カウンターの店にしたいとずっと思っていて。僕、お客様がラーメンをすするときの音がすごく好きで。人によってそれぞれですが、どのお客様にも一心不乱に麺をすするタイミングがあるんです。それって、いろんな気持ちが満たされている、ポジティブな瞬間なのかなって」

カウンター席は、店主がお客のほっとする瞬間を目の前で見られる特等席なのかもしれない。

食券の券売機には、オリジナルのカレンダーが貼られていた。
食券の券売機には、オリジナルのカレンダーが貼られていた。

なおさんにお話を聞いている途中「思い出のラーメン屋さんはありますか?」と質問をもらった。筆者は地元のラーメン店が頭に浮かんだので答えると「思い出のラーメン屋と聞かれると、最近食べておいしかったラーメン屋よりも、家族で昔よく行った店とか、地元で友達と並んで食べた店とかを思い出しますよね。僕も、そんなラーメン屋をやりたくて。特別なときではなく、日々のなかでふと思い出してまた行きたくなるような、記憶に刻まれるラーメン屋を営むのが目標なんです」と話してくれた。

その言葉を聞いて、新しい店なのになぜか昔ながらの町中華らしい雰囲気が漂うのは、地元に愛される店にしたいという店主の想いが作りあげているのだなと感じた。

想像以上のインパクト。夢中ですすりたくなる中華そば

中華そばは一杯850円。「チャーシュー麺?」と思ってしまうほどチャーシューがたっぷり!
中華そばは一杯850円。「チャーシュー麺?」と思ってしまうほどチャーシューがたっぷり!

今回注文したのは、店の看板メニューである中華そば。テーブルに運ばれてくると、並々に注がれたスープとたっぷりのチャーシューに目を奪われる。「切りたてのチャーシューをたっぷりと味わってほしいので、通常の中華そばでも一般的なチャーシュー麺と同じくらいチャーシューを入れています」となおさん。これはうれしい計らい!

中華そばといえばあっさりとしたスープを想像しがちだが、ここのスープは違う。

「中華そばなんですが、スープの輪郭がはっきりしているんです。あっさり・さっぱりは目指していなくて、しっかりとした醤油味とアツアツのスープにしています」

その言葉どおり、がつんとした醤油の風味がまず口に広がり、その奥から豚の旨味がどっと押し寄せてくる。油もしっかり入っていて、一口飲むごとに満足感を得られるスープだ。まさに“みんなに愛される醤油ラーメン”といった味わいで、夢中になって食べ進められる。

麺を覆うようにのせられた切りたてのチャーシューは、ほろほろと柔らかく、噛むたびに旨味があふれ出してくる。それでいて決して脂っこくはなく、スープになじんでいるので枚数が多めでもなんなく食べられてしまう。一杯に豚の旨味が凝縮した満足感のある中華そばは、さっと食事を済ませたいときにも、しっかりとお腹を満たしたいときにもいろんなシチュエーションで活躍してくれそうだ。さらに、ご飯が一人一杯まで無料という太っ腹なサービスもある。

目指しているのは、仕事終わりに“何を食べようかな”と思ったとき、気が付いたら足が向いているようなラーメン店です。一人で来ていたお客様が会社の部下や、お友達、ご家族を連れてきてくれたときもすごくうれしい。夢は、何世代にもわたって愛される店にしていくことです」となおさん。

下北沢で行きつけのラーメン店を探している人は、この店がその答えかもしれない。

住所:東京都世田谷区北沢2-12-7/営業時間:11:30~22:00LO
※スープが無くなり次第閉店。/定休日:火・隔週水/アクセス:小田急電鉄小田原線・京王電鉄井の頭線下北沢駅から徒歩2分

取材・撮影・文=稲垣恵美