頻繁に目に入るのに、それぞれ違う姿かたち
ゴミ置き場に、カラスよけなどの目的で設置されるネット。内海皓平さんは、ゴミネットの姿かたちを100枚以上、写真におさめている。内海さんは大学時代から、歩行者天国を研究する「歩行者天国研究家」。以前、『散歩の達人』本誌にもご登場いただいたことがある(「藍染大通りより愛をこめて。1人の青年を歩行者天国研究家にした奇跡の道路」)。ゴミネットに目が留まったのは、歩行者天国の調査のために様々な街を見て回る中だったという。
「2019年頃、歩行者天国の調査のために、自分で作った歩行者天国マップを見ながら、都内の様々な住宅街を回っていました。知らない街の、知らない住宅街を巡る中で、偶然ゴミネットに目が止まったんです。自転車で走っていると、1分おきの間隔でごみ集積所が現れるんですが、集積所ごとにそれぞれ姿が違うのに気づいて、面白いと興味を持ちました」
「例えば写真は、川の柵の手前がゴミ置き場になっていて、ゴミの収集日以外はネットを川側にだらんと垂らしています」
「同じ日に別の場所では、フックを引っ掛けてネットの角をまとめられるように工夫したゴミ置き場も見つけました」
気になったその日に、次々と異なるタイプのゴミネットに出会ったことで、「一気に見えるようになった」という内海さん。それ以来、100箇所以上ものゴミネットを写真に収めているという。
職人技からオリジナルの発明まで、多種多様な収納方法
以下では、これまで内海さんが観察してきたゴミネットを主なタイプ別にご紹介する。
「自分だったらどうやってまとめるかな」と想像しながら見てみたい。
固定型
「まず、固定されているか否かで分かれます。先程紹介したように、フックが付いてまとめられるようになったタイプの他、チェーンや、塀に取り付けたフックで収納できるタイプも見かけました」
発明型
より手が込んでおり、個性と工夫がにじみ出ているのが「発明型」だ。
「写真は、電柱から標識にロープが渡してあり、ゴミネットをカーテンみたいに広げられるようになっているんです。電柱横の白い袋に、ゴミネットが収納されています」
垂らし型
冒頭の川に垂らしたゴミネットのように、数点だけ止めて垂らしているというタイプもある。
「ごみ集積所がある場合は、ネットをかけっぱなしのところもあります。写真は、水道管に掛けられて、あとはクシャッと丸まっているタイプです。このタイプは、よく見かけますね」
結び型
電柱などにきれいに紐でしばりつけている几帳面なタイプが、結び型だ。
「上にねじりながらネットを巻いていって、紐を十字にかけて縛って。これを毎週のようにやっているのはすごいな、と思います」
かご型
かご状の箱にまとめて収納できるようにした、効率的なものも。
「自転車のかごや清酒のコンテナなど、転職系のアイテムが多いのが特徴です」
不定型
上記のいずれにも当てはまらないのが、形が固定されていない「不定型」だ。
「ガードレールやガスメーターなど、付近のものに被せたタイプです。あまり意識的に撮影はしていませんでしたが、おそらくこのタイプは数が多そうです」
毎週の試行錯誤でたどり着いた、各集積所ごとの効率いいまとめ方
住宅があれば、そのすぐそばに必ずといっていいほど存在する、ゴミネット。わざわざ視界に入れることは少ないかもしれないが、誰にとっても生活とは切り離せない、他人事ではない存在だ。
内海さんいわく、現在のゴミネットの姿かたちに、各集積所での試行錯誤の片鱗を感じるのが面白いという。
「ゴミネットの状態から、週に何度も繰り返されるゴミ捨てという行為に対して、住んでいる方がどう工夫しているのかが見えてくるんです。面倒だけど、放っておくわけにはいかない。しかし、そこまで手間やコストもかけられない。
ゴミネットは、必ず人の手が入っているもの。単に『きれい』『汚い』ではなく、どうしてこの形にたどり着いたんだろう?とできるだけ深く想像してみると、様々なバランスの中で、各集積所でいい塩梅のまとめ方に落ち着いているのだなということが見えてきて、面白いと感じたんです。
職人技的なものから発明家的なもの、洗練されたものまで、長年に渡って誰かが毎週のように試行錯誤していった結果生み出された姿に、グッと来るんです」
まとめ方に個性があるだけでなく、使うたびに姿かたちは変わっていくのもまたゴミネット。路上観察の対象物として見ると、途方がない。
「週に何度も広げて、また元に戻すので、使うたびに形が変わります。数日のうちに新しい形が生まれては失われる。観察しようと思ってもしきれないものが、東京だけで何十万箇所もあると考えると、すごいことですよね。だからこそ、網羅的に観察することは最初から諦めました(笑)」
日々、ゴミ収集の日にネットを広げては畳むといったように、街にはそこで暮らし、働く人たちの手仕事の痕跡が無数に存在する。内海さんはこのような街のミクロな手仕事にも目を向けている。
「街というと、つい完成された空間に人が暮らしているという印象を持たれがちですが、意外とちぐはぐな部分や、うまく折り合いがついていない部分もたくさん存在しています。そうしたものをなるべくなくして、もっときれいにしたいという気持ちが働く人もいるかもしれませんが、僕は割とそれを愛でてしまいます。
例えば、工事中にマンホールの中や道路の下が見えたり、アスファルトがつぎはぎになっていたりすると、つい目が止まってしまうんです。壁や窓をガムテープで補修している家を見るのも好きですね。
もともと工作やDIYが好きだったこともあり、『こういうふうに作られているんだ』『作っていいんだ』と気づくと楽しい気持ちになるというか。誰かが作るものと、自分が作るものとの境界線が揺らぐのが面白いんです」
現在、研究対象としてフィールドワークで通っていた歩行者天国の近くに住み、街のイベントの企画運営などにも携わっている内海さん。自らの手で、街に手仕事の痕跡を残してもいる。
「プライベートな部分とパブリックな部分ははっきりと分かれるものではないですし、むしろ線を引いてしまうともったいないと感じることもあります。
例えば歩行者天国でスイカ割りをすることで、『道路って、こういうことをしていいよね』と自分自身で発見したり。そういう姿を周りに見せたりすることで、自分の手でDIYするように街を便利にしていって、街で暮らすことを楽しくしていきたいですね」
取材・構成=村田あやこ
※記事内の写真はすべて内海皓平さん提供