懐かしいデザインの缶が呼び起こす郷愁
思えばうちの祖母も、さまざまなかわいい缶を再利用していた。チャームスのドロップの缶はマチ針入れに、本高砂屋のエコルセの大きな丸缶はおやつ入れに、ヨックモックのシガールが入っていた紺地に白の麻柄缶は救急箱に(ちなみにこのデザインの缶も、数年前に復刻版が発売された)……。缶のデザインを見れば、今は亡き祖母の懐かしい思い出がよみがえってくる。
冒頭のパインアメ缶は、大阪のデパートのイベントで限定発売されたところ、またたく間に完売してしまったそうである。懐かしいデザインの缶には、ひとの郷愁を呼び起こす何かがあるのではないだろうか。私もそんなカンカンを再利用したい、そして孫子(まごこ)の代まで伝わる思い出を作りたい(私自身には孫はおろか子もいないわけだが、心意気だけは失わずにいたい)。そのような気持ちから、出先で心惹かれるデザインの缶を見つけると、その都度買い求めてきた。
「炭酸せんべいの缶」の話をしよう
こうして集まった缶を見ていると、
どうやら私は縦長の缶に惹かれる傾向にあるようだ。その理由として、再利用の際に筆立てとして利用することが多いからだと思う。
これら「かわいい縦長缶」の代表格、それが「炭酸せんべいの缶」ではないだろうか。炭酸せんべいは、炭酸泉に小麦粉や砂糖を加えて薄く焼き上げた素朴な味わいのお菓子で、各地の温泉で土産物として販売されている。
割れや湿気を防止するためか、その多くは円筒型の缶に入っている。
特に兵庫県の有馬温泉では、数多くの炭酸せんべい店が味を競ってにぎわっているが、缶のデザインもそれぞれに特徴的だ。
私が特に気に入っている有馬炭酸せんべい缶は、赤地に黄色の温泉マークが目立つ『平野屋本舗』の炭酸御幸せんべい、
青や赤の横縞模様の『元祖三津森本舗』の炭酸煎餅である。
それぞれにレトロな雰囲気でかわいらしい。
いつか思い出してもらえることを夢見て
自分がこの先の人生で、目立った功績を残せるとは全く思っていない。それでも数十年後に誰かに「そういえばこの炭酸せんべいの缶、オギリマさんが筆立てに使っていたなあ」と思い出してもらえることを夢見て、今日もかわいいカンカンを集めている。
イラスト・文・写真=オギリマサホ
※注1:パイン株式会社プレスリリース(2023年8月1日)
https://www.pine.co.jp/news/news-2309/