街への愛が、居心地の良さにつながっていく
のんびりとしたこの街に大型スーパーができると聞いたとき、勝手に西荻らしくないなぁと思ってしまった。でも、地元民に聞くと「この街だけで何でも揃うようになった」、「行動範囲が広がって新しい発見があった」と、思いのほか歓迎ムード。2022年に駅南側の旧府道沿いにオープンした定食屋『湯気』も人気で、わざわざここまで足を延ばす人も多いという。お昼から15時過ぎまでにぎわっているのも、ランチタイムが自由な人の多い西荻らしい。
自由と言えば、八幡通りにある『manoma』をはじめ、コワーキングスペースが続々と増えている。この街の規模でなんと5軒も発見。『湯気』の大塚ゆりさんが、「自分の街を謳歌(おうか)している人が多いですよね」と言っていたけど、西荻ライフの充実度が増して、その傾向がさらに加速しているようだ。
もともと中央線沿線は地元愛が強いけど、そのなかでも西荻は「我々の街を守るぞ!」という思いが熱い。その一つが住人による開店前の新店チェック。「どんな店が入るのか」、「店主はどんな人なのか」という話題で盛り上がるのだ。『ちくわ』の店主・神谷拓真さんも、「不安だったんですけど、以前ここにあった「三ちゃん」の常連さんが様子を見に来てくれたり、みんな優しくてほっとしています」と話す。すぐに閉店してしまう店もあるけど、不思議なことに「今度の店もいいね」となることがほとんど。それはきっと、『ちくわ』や『manoma』のように、街の人たちが喜ぶことは何だろう? とじっくり考えて街に寄り添ってくれているから。もしくは、『草莽(そうもう)工房』や『シェア音楽棚tent』のように、最初から「西荻なら受け入れてもらえる」という確信があるからだ。
じわじわ変化しながら、いつまでもみんなが好きな西荻のままでいられるのは、一人ひとりの西荻愛のおかげなのだ。
毎週通いたくなるやさしさあふれる定食『湯気』
店主の大塚ゆりさんと森岡夏生さんは調理専門学校の同級生。週替わりの定食1200円には旬の食材をたくさん食べてほしいという思いがあふれている。どれも丁寧に作られていて、しみじみおいしい。
・11:30~19:30LO(土・日・祝は~16:30LO)、不定休。
・☎非公開
・Instagram:@yuge_gohan
裏テーマは西荻のコンセプトショップ『manoma』
文房具やコピー機の貸し出し、一人用ブースなど、働く人たちへの気遣いがいっぱい。店内の本棚やドライフラワー、マフィンなどは西荻のお店が手がけていて、街のいいところもこっそり紹介している。
・9:00~18:00(土・日・祝は10:00~)、月休。
・☎080-7020-0808
・Instagram:@manoma_nishiogikubo
昔も今も地元にとって大切な憩いの場『善福寺珈琲 江ノ屋』
1976年創業で、現在2代目が奮闘する酒屋店内に焙煎機を設置した自家焙煎豆専門店が誕生。夏はシェケラート500円もおすすめ。イタリアンワインにも力を入れる。看板猫の江ノちゃんやおしゃべり目当てのご近所さんも多い。
・午前中の焙煎終了後~20:00、無休。
・☎03-3390-1307
古きよき日本のモノを暮らしに取り入れたい『草莽工房』
オープンのきっかけは、オーナーが西荻&古家具好きだから。昔の職人の技術や古家具を引き継いでいってほしいと、普段使いできる手頃な価格の棚が中心。本業は山梨にある貴金属加工メーカーのため、金具類の修繕が美しい!
・12:00~19:00、水・木休。
・☎03-6264-3656
・Instagram:@somo_kobo
日本初の試みも西荻なら大丈夫!『シェア音楽棚tent』
音楽系なら何でもOKの棚貸しで、出店者は飲食店や音楽ライターから近所のレコード店までさまざま。店主の明澤夕子さんは以前、西荻で飲食店を営んでいたので「この街なら変なことも受け入れてもらえる」と、ひらめいたとか。見事大正解!
・15:00~21:00、水休。
・☎非公開
・Instagram:@tentrecord
定食からちょい飲みまで普段使いにぴったり『ちくわ』
長年の飲食店勤務を経て、念願の西荻に2023年4月オープン。若者から年配の方まで客層が幅広く、和やかな雰囲気にほっとする。妻・麻衣さんの出身地・山形の日本酒やつまみも揃う。もちろん、ちくわ料理も!
・11:30~14:30LO・17:00~22:00、不定休。
・☎070-3296-5989
・Instagram:@chikuwa_nishiogikubo
取材・文=井島加恵 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年8月号より