大将のこだわりが生み出した「唯一無二の味」
『ちばから』の大将(オーナー)は味に対する強烈なこだわりと想いを一杯の丼に実現させた生粋の職人であった。
『ちばから』というちょっと変わった店名は、本店のある千葉から全国にその味を発信したいという思いが込められている。大将は志半ばで他界してしまったが、女将さんやスタッフたちが大将の意志を継ぎ、その味を守り、全国に味と名を広めようと奮闘している。
二郎というと黄色いテントの外観を連想するが、この店は白い看板に手書き文字の店名、木の引き戸というシンプルな外観。二郎系の店は独特のオーラを醸し出すところが多いが、この店は女性一人でも入りやすい雰囲気がある。
「先のお好み」と「後のお好み」、そしてトッピングで自分好みの1杯を
券売機を見ると油そばやつけ麺もあるが、やはり王道のらーめんを味わいたい。らーめん(豚入り・麺300g)1100円、ミニらーめん(豚入り、麺200g)、らーめん豚なし(麺300g)があるが、レギュラーサイズのらーめんを選ぶ。レギュラーサイズとはいえ麺300gだから一般的な店の倍近くの量となる。
食券を渡すときに「先のお好み」を聞かれる。「先のお好み」とは、麺すくなめ、麺かため・やわめ、味うすめ、アブラ少なめ、ヤサイ抜き、ヤサイ少なめなど、先に調整が必要な味やトッピングのこと。もちろん、「普通に」といえば、ベーシックな味と量のらーめんが出てくる。
そして出来上がり直前に「後のお好み」を聞かれる。「後のお好み」とは、ヤサイ増し、アブラ増し、カラメ(味濃いめ)、ニンニク、ネギのこと。たっぷりの量が欲しいときは「増し増し」といえば増量してくれる。
このほか、温玉、生卵、肉カス脂、レン草、のり、節券(各50円)、味玉、チーズ(各100円)、豚券(200円)など有料のトッピングもある。「先のお好み」と「後のお好み」、さらに有料トッピングがあるからどれだけの組み合わせになるのだろう。これに対応するスタッフも大変だ、と妙な感心をしてしまう。
山盛りヤサイと分厚い豚(チャーシュー)の大迫力!
いよいよ着丼。「ヤサイ増し、ネギ、ニンニク」をトッピングしたので山のように盛り上がっている。なかでも目を引くのが厚さ1㎝を超す大きな豚(チャーシュー)だ。噛めばホロッと崩れるほど柔らかく、しっかり染みたスープが豚の旨味を引き出している。
『ちばから』のスープは乳化しているのが特徴で、スープとアブラが混ざりあっているのでクリーミーさを感じる。ひと口飲むと濃いめではあるが見た目ほど油っこくない。塩味も感じるが、太い麺と絡むにはこれくらいがちょうどよい濃さなのかもしれない。
ヤサイをかき分けて麺を引っ張り出す。重い!ヤサイがのっているからではなく麺そのものが重く感じるのだ。麺はもっちりとした平打ち極太麺で、コシが強く、弾力があるので食べごたえも十分。ツルツルではなく、ワシワシという重量感のある食感。小麦の香りも残り、麺の密度が高いので最後まで伸びずに食べることができるのも特徴だ。
麺とスープは大将が2年もかけて作り出したもの。今も大将のレシピを忠実に守り、最新の設備で製造、管理され、市原本店で作ったものが届けられる。
味変でお好みの味を作り出す。豚めしにも注目!
麺300g、ヤサイ増しのらーめんは、さすがに食べごたえがある。食べても食べても減らないのだ。半分ほど食べたところで味変を試みた。
テーブル上にはブラックペッパー、一味唐辛子、酢タマネギ、辛玉が並んでいる。酢タマネギを入れると味がマイルドになり、スープに辛玉を溶かすとピリ辛スープとなりさらに箸が進む。自分だけのお好みの味を探求するのも、この店を訪ねる楽しみといえるだろう。
サイドメニューの豚めし350円も人気の一品だ。「チャーシューを整形する際に出る切れっ端を使っているのですが、じっくりと煮込んで作った絶対の自信作です」と話すのは鈴木理啓(まさひろ)店長。丼を覆うチャーシュー。このビジュアル、見るだけでも旨さが伝わってくる。
現在、『ちばから』は市原本店と蒲田店、郡山店の3店舗。大将が抱いた夢でもあった「千葉から日本全国へ、そして世界へ」と目標を高く掲げている。さらに、二郎インスパイア系ではあるが、その枠を飛び越え、独自の味を追求し、唯一無二の味を作り出している。これからが楽しみな店といえる。
取材・文・撮影=塙 広明 構成=アド・グリーン