私はというと、ライターになる前は山小屋で働いていたので毎年出会いがあった。山小屋はワンシーズンごとの契約なので、人の入れ替わりが激しい。だから毎年新しい友達ができるのだが、山小屋は全国から集まってくるため、下山後の居住地はバラバラだ。気軽に会える距離に住んでいる人は意外と少なかった。

また、今から6年くらい前、東京の友達が相次いで地方に移住した。転職のため、遠距離恋愛中の彼氏と結婚するため、子どもを田舎で育てるためなど理由はさまざまだが、なぜかタイミングが重なったのだ。気軽に遊べる友達が激減し、私はぽっかりと寂しくなった。

その後、私は山小屋を辞めてライターに転身した。ライターになった当初はnoteを毎日更新していたので、そのつながりで友達が増えた。ネットで知り合った人と会うのは初めてだったが、オフ会的なものに参加して、リアルでも遊ぶようになった。

しかし飽き性の私は2年ほどでnote熱が冷めてしまい、あまり更新しなくなった。すると当然、noteつながりで友達ができることもなくなる。コロナ禍になったこともあり、友達を作る機会は激減した。

2年前から、私は訳あって一人暮らしをすることになった。一人暮らし・在宅ワーク・コロナ禍の三拍子が揃うと、人と会う機会は本当に少ない。「気づけば何日も声を発していない」なんてざらだ。

まぁ、それでも困ることはないのだけれど、どこか物足りない気持ちを抱えていた。

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そんな中で、久しぶりに友達ができた。アサミさん(仮名)だ。

アサミさんとはnoteとTwitterで知り合った。彼女を認識したタイミングも、フォローしたタイミングも、実は覚えていない。ただ、気づけばよく彼女のアイコンを目にするようになっていた。彼女は私がnoteで書いていた日記マガジン『架空の犬をなでる日々』の読者だったのだ。

以前も書いたとおり私はAぇ! groupのファンなのだが、アサミさんは私より前からAぇ! groupのファンで、Twitterのプロフィールにもその旨が書かれている。たしかリプライをいただいたことがあり、私は漠然と「マガジン読者の中にAぇ坦さんがいるな~」と思っていた。

昨年(2022年)の6月、アサミさんがDMで「関ジャニ∞のライブに行きませんか?」と誘ってくれた。残念ながらライブの日は予定があって行けなかったのだが、それがきっかけとなり、DMでAぇ! groupの話をする仲になった。アサミさんは30代前半の育休中の会社員で、Aぇ! groupの中では小島(健)くんが好き。Aぇ! groupのライブにはまだ行ったことがないものの、関ジャニ∞のライブには昔からよく参戦しているらしい。

ちょうどその頃、夏に開催される(実際には訳あって開催されなかった)Aぇ! groupのライブが発表された。私とアサミさんは、都合が合う日程は一緒に申し込んだ。残念ながら、二人で申し込んだ日程は落選。私が一人で申し込んだ日に当選した。私は初めてAぇ! groupのライブに行けることになった。

ライブまでにペンライトを調達しなければいけないが、オンラインストアで購入したらライブまでに届くかどうかわからない。そう言うと、アサミさんは「私のペンライト貸しますよ」と言ってくれた。アサミさんは、いつかライブに行ける日のためにAぇ! groupのペンライトを用意していたそうだ。私は、初めてアサミさんと会うことになった。

アサミさんは赤ちゃんを連れてくるため、彼女が行きやすい郊外の駅で待ち合わせ、近くのファミレスに行った。初めてお会いするアサミさんはにこにこしていて、人を緊張させない雰囲気を持つ方だった。私は手土産に、ロクシタンのシャンプーとコンディショナーの小さなセットを持っていった。Aぇ! groupのYouTubeで小島くんが使っていたシャンプーだ。渡すと、アサミさんはすぐに「これはカリスマ美容師KENのシャンプー……!」と反応してくれた。

その日は1時間くらいドリンクバーでお茶をし、ライブに参戦するときの服装などについて教えてもらった。

次に会ったのは10月で、その日は息子さんを一日保育に預け、アサミさんだけで来てくれた。私たちはAぇ! groupがYouTubeで行った横浜中華街の料理屋さんへ行き、Aぇ! groupと同じメニューを食べた。私の正門(良規)くんのアクスタと、アサミさんの小島くんのアクスタを並べて、料理と一緒に写真を撮る。まるで若い子みたいだ。

そのあとは中華街を歩き、手相を見てもらい、山下公園と赤レンガ倉庫を散歩した。

アサミさんとは、ライブやYouTubeやドラマの感想など、基本的にAぇ! groupの話をする。たまに少しだけ、仕事や家族の話をするくらいだ。

アサミさんは私の日記やエッセイを読んでいるから、私について多少は知っているが、私は彼女のことをほとんど知らない(彼女はTwitterにもあまり自分のことを書かない)。どんなバックボーンを持つ人なのか、興味がないわけではないが、あえて聞こうとは思わない。

決して深い話をすることはなく、なにげない話だけをして笑い合う。その関係がとても心地いい。若い頃は「深い話をしなきゃ友達とは言えない」と思っていたが、そんなことはないのだ。

大人になっても友達ってできるんだなぁ、とあらためて実感した。

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私は今年(2023年)の1月に離婚を経験した。

自分から切り出した離婚で後悔はなかったが、やっぱり喪失感は大きく、食生活が乱れるようになった。料理する気力が湧かなくて食事を抜いたり、逆にドカ食いしたりしてしまうことが増えたのだ。

それをTwitterでつぶやいたら、アサミさんが、住所を知らなくても品物を贈れるサービスを使ってインスタントの稲庭うどんを送ってくれた。

その心遣いがどれだけ嬉しかったか。

また、ストレスによる過食についても、「寂しいときにたくさん食べてしまうの、わかります。ぜんぜん情けなくないですよ」と言ってくれた。アサミさんにもそういうことがあったんだ、と思うと気持ちが軽くなった。

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先月、久しぶりにアサミさんと会った。Aぇ! groupが横浜のぴあアリーナで行ったライブ「西からAぇ! 風吹いてます!〜おてんと様も見てくれてますねん LIVE2022〜」のDVD鑑賞会をしよう、という話になったのだ。

このライブは、私が今のところ唯一行くことができたAぇ! groupのライブだ。アサミさんは残念ながら行けなかった。反対に、今年行われた全国ツアーに私は落選し、アサミさんは行くことができた。

お昼頃、JR横浜駅の改札を出たところで待ち合わせた。アサミさんは育休を終え、仕事に復帰している。この日はわざわざ半休を取ってくれた。

まずはランチをしようと、ポルタにある沖縄料理の店で沖縄そばを食べた。料理を待っている間、コスメや夜泣きの話をする。

その後はカラオケへ行き、DVDのある部屋を選んだ。画面にぴあアリーナの舞台が映し出されると、大興奮だったライブの記憶が甦ってくる。私もアサミさんも、持参したペンライトを握りしめた。

ライブが始まると、Aぇ! groupの圧倒的な輝きに飲み込まれた。私はペンライトを青に、アサミさんは紫に光らせ、音楽に合わせて振りつづける。途中のメドレーではペンライトの光を歌っているメンバーの色に合わせた。目も耳も心も楽しい。Aぇ! groupは私を楽しませる天才だ。

アサミさんは、小島くんがカメラに向かってキメ顔をするたびに、興奮を抑えきれない様子でペンライトをブンブン振っていた。

その様子を横目に見て、私は内心で「いいぞ、いいぞ」と思っていた。

仕事に子育てに、彼女の毎日はきっと大変だろう。子どもがいない私と違い、彼女はライブに申し込める日も少ない。詳しく聞いたことはないが、きっと窮屈な思いをする日もあるだろう。そんな毎日の中で、ほんのひとときでもすべて忘れて夢中になれたらいい。

真昼間からカラオケボックスでアイドルのDVDを見て、キャーキャーとペンライトを振って、「いい歳して何やってるんだ」と呆れる人もいるかもしれない。

けれど、私たちにはこういう時間が必要なのだ。眩しくて楽しいものを浴びて羽目を外し、役割のないただの「自分」になる時間が。

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思えばここのところずっと仕事が忙しく、出かけることも、人に会うこともなかった。何日もずっと、一人でパソコンに向かう日々。それもまぁ、平気といえば平気だ。

しかし、気づかないうちに私の心は乾いていたのだろう。水を与えられた植物が葉をイキイキと震わせるように、アサミさんとのDVD鑑賞会によって、急激に心が潤うのを感じた。

「いい歳してトモダチトモダチ言ってる人は未熟」という意見もあるだろう。その感覚もわかる。友達がいなくても人生を楽しめるなら、それはそれで素晴らしいことだ。

けれど、やっぱり私は友達に会いたい。楽しい時間を共有して、なんてことないことで笑い合っていたい。

いつか、アサミさんと一緒にライブに行ける日を心待ちにしている。

文=吉玉サキ(@saki_yoshidama

方向音痴
『方向音痴って、なおるんですか?』
方向音痴の克服を目指して悪戦苦闘! 迷わないためのコツを伝授してもらったり、地図の読み方を学んでみたり、地形に注目する楽しさを教わったり、地名を起点に街を紐解いてみたり……教わって、歩いて、考える、試行錯誤の軌跡を綴るエッセイ。
寝ても覚めても彼らのことを考えている。昨年から、関西ジャニーズJr.の6人組「Aぇ! group」にどハマりしているのだ。きっかけは、なにげなく見ていた「なにわ男子」のYouTube動画にAぇ! groupというワードが出てきて、「へぇ、そういう人たちがいるのか」と動画を見てみたこと。第一印象は「なんかアイドルっぽくない人たちだなぁ」。アイドルというより面白い大学生って感じだ。全員トーク力が高く、普通に話しているだけで笑いが生まれる。だけどそれほどテンションが高いわけではなく、見ていて心地がいい(あとで知ったが、メンバーの半数が20代後半なので落ち着いているのだ)。「安心して見ていられるグループだなぁ」と動画を見ていたらパフォーマンス動画を見つけ、歌とダンスのかっこよさにやられてしまった。トークとのギャップがものすごい。なんていうか、濁流に飲まれるように引き込まれてしまう。私はあらゆる配信サービスを駆使してAぇ! groupの映像を見漁った。たぶん、合法的に視聴できる過去映像はほとんど見たと思う。ライブチケットを取るため『ジャニーズJr.情報局』に入会したし、大阪エリアのラジオ放送を聴くためradikoに課金した。言わずもがな、メンバーがテレビに出れば必ず視聴する。まさか自分が、年甲斐もなくジャニーズにハマるとは。自分でもビックリなのだが、気づけばいつも彼らのことを考えているのだった。
「いつまでも幸せに暮らしました」で終わる童話の、ハッピーエンドのその先にある日常を想像する子供だった。だって、夢は叶えたら終わりではない。叶えたあとはひたすら現実が続く。場合によっては叶えてからの人生のほうが長いわけで、ときには苦しいこともあるだろう。……と、そこまで想定した上で夢だったライターに転職したわけだが、案の定、夢を叶えてからもいろいろなことがあった。燃え尽きたり、不安になったり、「それも悪くない」と思えたり。今回はわりと最近のこと、私にとって2つめの連載の話をしようと思う。