スリランカの家庭の味

延命地蔵尊の赤い提灯が見えたら、その隣が目的地。
延命地蔵尊の赤い提灯が見えたら、その隣が目的地。

谷中はよみせ通りの中ほどに、緑生い茂る大きなガラス戸の店がある。ここが今日のランチ処、スリランカカレーの店『Ayubovan!』だ。

この店がオープンしたのは2015年。店主・中根清吾さんの友人がスリランカ好きで現地の味に魅せられ、日本でも食べてもらいたいと開いたお店なのだ。中根さんもオープン当初から携わっていて、2020年からオーナーとして引き継いだ。

スリランカカレーの美味しさを是非皆さんに知って欲しいと、店主の中根さん。
スリランカカレーの美味しさを是非皆さんに知って欲しいと、店主の中根さん。
お酒の瓶が並ぶカウンターに、テーブル席やソファ席、脇には本棚も。
お酒の瓶が並ぶカウンターに、テーブル席やソファ席、脇には本棚も。

ランチメニューはシンプルに、スリランカカレーのチキン、ポーク、全部のせ、ベジタブルという4種類。スリランカカレーといえばスパイスをふんだんに使い、ワンプレートに盛り付けるというイメージだが、「いわゆる“レストランのカレー”とはちょっと違うんです」と中根さん。それもそのはず、この店で出すカレーのレシピは、現地の家庭で教えてもらったものなのだという。「よりマイルドで優しい、毎日食べても飽きない味だと思いますよ」。

ワンプレートでオードブルのような楽しさ

全部のせスリランカカレー1600円とハーブティー(カレーとセットで200円)。
全部のせスリランカカレー1600円とハーブティー(カレーとセットで200円)。

運ばれてきた全部のせスリランカカレーは、大きなお皿に何種類ものカレーやおかずがひしめきあう賑やかな一皿。なにからどう食べようか、わくわくしてしまう彩りだ。

右上から時計回りに、ポークカレー、自家製ピクルス、パパダム、ポルサンボル、チキンカレー、インゲンのテルダーラ、レンズ豆カレー。
右上から時計回りに、ポークカレー、自家製ピクルス、パパダム、ポルサンボル、チキンカレー、インゲンのテルダーラ、レンズ豆カレー。

豚肉ゴロゴロのポークカレーはゴラカという果物を使っていて、微かな酸味と独特のコクが特徴的だ。「乾物のゴラカを水で戻してペーストにして使っています。手間がかかりますが、ポークカレーにとてもよく合うんです」。

チキンカレーは骨付き肉がほろりと崩れる柔らかさ。テルダーラ(インゲンをココナッツと炒めた)は一切カレーを邪魔せず寄り添う一方、ポルサンボル(ココナッツファインをレモンや玉ねぎと和えたもの)はその酸味と食感がアクセントになる。日本のカレーでいう福神漬け、焼きそばでいう紅生姜のようなポジションだろうか。「ポルサンボル、たくさん乗せて!」とオーダーするお客さんが多いというのも納得だ。

そしてなにより家庭の味としての特徴は、レンズ豆のカレーだという。「ココナッツミルクをふんだんに使っていて、ほかのスリランカ料理店で出す豆のカレーに比べると優しい風味になります。チキンやポークはそれなりに辛さもあるんですが、合わせるとちょうどよくなるんですよ」。

混ぜてわかる、絶妙な味のバランス

それぞれの味を楽しんだら、いよいよまぜまぜタイム! それぞれの個性ある味を、レンズ豆のカレーが包み込んだ絶妙な味のバランスを堪能できる。豆のお煎餅であるパパダムを細かく砕いて一緒に混ぜ込めばもう完璧だ。「すべて混ぜた時の味をイメージして作っています」と中根さん。ぜひとも全部混ぜて食べてみてほしい。

お客さんから「家に持ち帰りたい」とよく言われるというピクルス。
お客さんから「家に持ち帰りたい」とよく言われるというピクルス。

そして忘れちゃいけない、実はファンが多いというのがこの自家製ピクルス。カレーを頬張ったあとに、歯応えのあるニンジンと大根がいい箸休めになり、またカレーを口に運ぶ……という幸せなループに陥る。

カフェのような居心地のいい雰囲気。
カフェのような居心地のいい雰囲気。

聞けば中根さん、実はそば打ちも長年やっている「ソバリエ」でもある。高円寺のカフェ・レンタルスペース『こころみ』で月1回そばを打って出しているほか、『Ayubovan!』でも時折提供することがあり、それを待ち遠しく思う常連さんも多いという。そばにもこだわっているとなれば、これだけ複雑で奥深いカレーがおいしく仕上がるのもなんとなく納得がいく。

多種多様なカレーのなかでも、さらに一歩踏み込んだスリランカの家庭の味。比べたり混ぜたりして味わいを楽しめる一皿は、一度味わえばまた食べに行きたくなること間違いなしだ。

『Ayubovan!』店舗詳細

住所:東京都文京区千駄木3-46-9/営業時間:11:30〜22:00/定休日:水/アクセス:JR西日暮里駅から徒歩6分、地下鉄千代田線千駄木駅から徒歩8分

取材・文・撮影=中村こより