さまざまな人々がインスパイアするコレクティブスペース

目黒川沿いをテクテク歩いていると、ビルの入り口に卓球台が置いてある店が現れて足を止めた。看板には“珈琲と酒”と書かれている。筆者はどっちも大好き!

天気のいい日は外のベンチでくつろぐのも気持ちがいい。
天気のいい日は外のベンチでくつろぐのも気持ちがいい。

店頭に卓球台やベンチが並んでいて、友達と一緒に来たら楽しそうな雰囲気だ。観音開きのドアは昭和っぽいけどいつ頃からあるのかな? カフェ店長の岡晋平さんに聞いてみた。

「ここは2021年にオープンしました。ランチタイムはしっかり食事、午後はカフェでコーヒーと自家製スイーツ、夜は日本酒と和食を中心にしたバー営業など1日を通して異なった楽しみ方ができるようになっています」とのこと。

店内にはカフェ、コーヒー&酒スタンド、酒と料理が楽しめるスペースがある。
店内にはカフェ、コーヒー&酒スタンド、酒と料理が楽しめるスペースがある。

グレーを基調にした店内は窓際にカウンター、テーブルと椅子、バーカウンターがあり、店内を見下ろせるロフト席、個室になった小上がり席がある。奥に進むと『sake.about』と名付けられた和風の空間がある。

「店名はプリンターのトナーに由来しています。グレーで統一された店舗空間に集う人々がその場を彩る色となって、それこそプリンターから1枚の白い紙にインクが刷られて出てくるように、多種多様な人々が『TONER』という場所に集合した結果、ポジティブなものが生み出されるんじゃないかなって思うんですよ」

ほほう、だから店内はシンプルなんですね。

カフェ兼立ち飲みスペースの奥には日本酒と和食を提供するバー『sake.about』がある。
カフェ兼立ち飲みスペースの奥には日本酒と和食を提供するバー『sake.about』がある。

飲食店にとどまらず、多方面から人々が集まりお互いにインスパイアし合える場所として「コレクティブスペースと名乗っています」と岡さん。

2022年10月からこのカフェの店長になった岡さん自身も、自分が好きなコーヒーを音楽やアートと組み合わせて新しい表現ができないか模索しているという。「たとえばブラジルの音楽をかけながらブラジル産のコーヒーを飲む、なんていいでしょう? 豆にもこだわっているので、コーヒーとカルチャーを合わせたイベントをしてみたいですね」。ラテンのリズムがよりコーヒーをおいしくしてくれそうな気がする。

コーヒーはカフェ店長の岡さんがハンドドリップしてくれる。
コーヒーはカフェ店長の岡さんがハンドドリップしてくれる。

不定期でさまざまなジャンルのイベントが行われているというので、SNSや店頭でイベント情報にも注目したい。

店内にさまざまな顔をもっているから1日中いても飽きない

岡さんに店内を案内してもらった。「ざっくりというと、入り口付近のスペースでカフェをやっていて、夜になると『sake.about』という居酒屋をやっているみたいなイメージですね」。

11時〜15時まで実施のランチはドリンク付きで1500円。メニューはスパイシーキーマカレー、チキンオーバーライス、ソイミートタコライスの3種類だ。カフェではこだわりのコーヒーや浅煎りのほうじ茶を提供する。

席間が広く、ゆったりとくつろげるカフェエリア。
席間が広く、ゆったりとくつろげるカフェエリア。

ちなみにカフェはペットOKだから目黒川を散歩しつつ立ち寄る人も多い。「ほとんどがワンちゃんですが、猫を連れてくる人もいます。珍しいところですと、フクロウをお連れの方もいましたね。人に危害や不快感を与えないならどんなコもウェルカムです(笑)」とほほえむ岡さんの目が三日月型に垂れる。きっと岡さんはやさしい人だ。

小上がり席は半個室になっている。
小上がり席は半個室になっている。

奥に進んでいくと左右に階段が2つあり、上はそれぞれ客席になっている。カフェスペースと奥の『sake.about』の境目には、なぜかスケボーの練習に使うランプ(アール)がある。「『TONER』はいろんなことに使えますよっていう飾りのひとつでもあるんですが、これを使ってスケートボードとBMXのイベントをやったりもしました」。えっ、そんなことも!

カフェを見下ろせる開放的なロフト席。
カフェを見下ろせる開放的なロフト席。

奥はシックな雰囲気で、日本酒と食事がメインのバー『sake.about』。夜になるとカフェの客席が立ち飲みスペースになる。

『sake.about』では定番と旬のメニューがあり、日本酒の種類も豊富だ。希少な銘柄が常時100種以上あるという。「食事もしっかりとしたものが食べられます。旬の素材を盛り込んだおまかせコースがお得ですよ」。お酒好きの岡さんと筆者はしばし盛り上がってしまった。

奥にある客室は、夜になると『sake.about』として日本酒と食事を提供する。
奥にある客室は、夜になると『sake.about』として日本酒と食事を提供する。

ニットみたいな網目がかわいいキャロットケーキと柑橘が香る爽やかなコーヒー

会話が弾んだところで、ティータイムにいたしましょうか。レジ前にお菓子が陳列されていて、どれもかわいくておいしそう! キャロットケーキ600円と、飲み物は……。岡さんが厳選するコーヒーを尋ねるとホンジュラス産の中浅煎り800円をおすすめしてくれた。

写真左下がキャロットケーキ600円。
写真左下がキャロットケーキ600円。
岡さんがハンドドリップで淹れてくれた。店内はたちまちコーヒーの香りに包まれる。
岡さんがハンドドリップで淹れてくれた。店内はたちまちコーヒーの香りに包まれる。

筆者は少しずつサーバーに落ちていくコーヒーの抽出液を眺める時間が好きだ。雑談しながらもコーヒーから目が離せない。抽出が終わると、アメリカ製のコロンとしたかわいいマグに注いでくれた。

「不定期で豆が変わるんですけど、コーヒーも農作物なのでその時期においしいものを選んで提供するようにしています」と岡さん。

爽やかな酸味があり、さっぱりとした後味のホンジュラス産中浅煎りコーヒーと、チーズとスパイスが香るキャロットケーキ。
爽やかな酸味があり、さっぱりとした後味のホンジュラス産中浅煎りコーヒーと、チーズとスパイスが香るキャロットケーキ。

ニットみたいな網目がかわいいキャロットケーキを考案したのは、若干23歳のパティシエ・越川萌音さん。「コーヒーは柑橘を感じる爽やかさがあって、キャロットケーキは生地にスパイスが入っていたりしてこれまた爽やかなのでいいペアリングです」とのことなので期待大だ。

キャロットケーキは定番で人気のメニュー。ニットの網目のような部分はクリームチーズとマスカルポーネチーズ、さらにラム酒で香りづけされている。面白かったのはクリームと生地の間にザラメがあり、シャリシャリするこの食感だ。

生地はしっとりしているのにザクザクとした食感がクセになる。
生地はしっとりしているのにザクザクとした食感がクセになる。

「ケーキの生地はピーカンナッツとレーズンを混ぜ込み、米油とココナッツオイルを使っていてバターは不使用なんですよ。キャロットケーキの生地にラム酒を混ぜるのが一般的ですが、それをクリームの方に使っていたり、生地にココナッツとかザラメを使っているのは珍しいと思います」と越川さん。

カフェ店長の岡さんとパティシエの越川さん。
カフェ店長の岡さんとパティシエの越川さん。

定番人気のクッキーやブラウニー、バターサンド、土日だけ登場するティラミスも見逃せない。テイクアウトもできるから、次に来た時は越川さんから教えてもらった「大きくてソフトなタイプ」というクッキーを食べるんだ。そう思うだけで五反田に来るのが楽しみになった。

住所:東京都品川区西五反田3-8-3/営業時間:CAFE:10:00〜18:00・STAND:18:30〜23:30・sake.about:19:00〜翌2:00(金・土は19:00〜翌3:30)/定休日:CAFE:不定休、STAND:日・月、sake.about:日/アクセス:東急電鉄目黒線不動前駅から徒歩6分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢