1階は赤を、2階は白を基調にした3つの部屋は、海外アーティストのアトリエがモチーフ

渋谷駅A2出口を出て、スペイン坂を経由しオルガン坂に入っていく。歩くこと8分、『and people udagawa』にたどり着く。細い路地を渡り歩いていくので、なんだか野良猫になった気分だ。

飲食店や雑貨店、古着屋など個性豊かな店が並ぶこのエリアで、とある雑居ビルのテラスから緑があふれんばかりに茂っている。

モリモリと緑が茂る店舗。
モリモリと緑が茂る店舗。

『and people udagawa』は2010年オープン。神南にも姉妹店がある。店に入ると店長の高橋笙さんが迎えてくれた。

「以前、古着屋を経営していたオーナーが、海外で買い付けしてる時に趣味で集めたものや、現地で見た風景を独自の感性で店内を表現しています」。

「毎日のように植物の世話をしています」という店長の高橋さん。
「毎日のように植物の世話をしています」という店長の高橋さん。

赤を基調にした1階。2階は白がベースになっており階段を登って右の部屋がロビー、左はラウンジと名付けられている。さらにそれぞれの部屋には雰囲気が違うテラスがあり、ハーブや多肉植物、観葉植物が飾られていてナチュラルな空間だ。

1階の赤い部屋。絵画や写真がセンスよくレイアウトされている。
1階の赤い部屋。絵画や写真がセンスよくレイアウトされている。
日本家屋の引き戸をリメイクした水槽。金魚が元気に泳いでいた。
日本家屋の引き戸をリメイクした水槽。金魚が元気に泳いでいた。

1階は1960年代のジャマイカンやメキシカンの、アーティストのアトリエみたいなイメージだそう。壁の情熱的な赤色はキューバを連想させる。

「下の階は南米的な印象がありますけど、全体的には海外の友達の家に招待されたような雰囲気ですね。ちょっとラフな感じでありつつ、よく見るとひとつひとつのものにすごくこだわりがあります」。

2階に上がると、ふたつのエリアがある。右はロビー、左はラウンジだ。
2階に上がると、ふたつのエリアがある。右はロビー、左はラウンジだ。

インテリアは、海外で買い付けたアンティークやそれをリメイクしたもので揃えられている。ソファは革もあれば、古いファブリックもあって不揃いのような感じがするが、アンティークの持つヴィンテージ感が似ているのでしっくりとハマる。

右のロビー。上から吊るされたペンダントライトがカラフル。
右のロビー。上から吊るされたペンダントライトがカラフル。

また、天井から吊るされたジョーゼットの布が幕のようになっている。布を下ろすことで客席が区切られ、半個室のようになるのだ。「お客様がスタッフの視線をあまり感じないようにしているんですよ」という配慮がありがたいではないか。

左のラウンジ。夜はキャンドルの温かみがある光に包まれる。
左のラウンジ。夜はキャンドルの温かみがある光に包まれる。

少しづつ表情が違うインテリアや、壁や棚を飾る小さな装飾までもオーナーのこだわりが見える。アンティーク好きなら男女関係なく惹かれそうだが、どんなお客さんが来るのだろう。

「周辺には区役所とかオフィスがあるので、ランチ利用の方もいますよ。でも、やっぱりカフェ利用の方が多めですけどね」と高橋さん。全体的に見ると女性の比率は高いが、たまに1人で来られるサラリーマンもいるそうだ。

緑豊かな4つの心地よいテラスで渋谷の風を感じよう

『and people udagawa』のもうひとつの魅力は都会の象徴である渋谷にありながら、緑と風を感じられるテラス。1階、2階のロビーとラウンジ、階段の踊り場に合計4つある。

「季節問わずゆったりとお食事やお酒を召し上がりながら過ごしていただけるようになっています」と、高橋さんが自慢のテラスを案内してくれた。

緑に囲まれた1階のテラス。夏〜秋になると天井がブドウの葉に覆われる。
緑に囲まれた1階のテラス。夏〜秋になると天井がブドウの葉に覆われる。

1階のテラスは頭上にブドウの木がある。夏になると青々とした葉が茂り、秋になると実がなるという。取材した4月はじめには、去年の忘れ物が干しブドウになってぶら下がっていた。

「小さな鉢植えはローズマリーなどのハーブや多肉植物が多いですね。テラスの植物は季節ごとに植え替えていて、その様子をオーナーがYouTubeで配信しているんですよ」。

晴れた日は開放的で気持ちがいい!
晴れた日は開放的で気持ちがいい!

暑い寒いが厳しい季節は、テラスだと過ごしにくいんじゃないかと思うが、「冬はカーテンを仕切って風が通らないような工夫をしています。ある程度寒くても、ブランケットを被りながら冬らしさを楽しんでもらうといいますか(笑)」。

なるほど、テラス席のファンはここで四季を感じに来るわけですね。5〜10月は緑のカーテンが覆い、さらに心地よい雰囲気に。

2階の階段の踊り場にあるテラス。ファニーな多肉植物や鉢植えの植物に癒やされる。
2階の階段の踊り場にあるテラス。ファニーな多肉植物や鉢植えの植物に癒やされる。
天板にタイルを貼ったテーブルがおしゃれ。
天板にタイルを貼ったテーブルがおしゃれ。

「鉢も全部手作りなんです。店の料理に使ったトマトの空き缶や瓶を白く塗り、スタンプとかを押してリメイクしてます。これもオーナーがアイデアを出し、僕らも手伝ってみんなで作っているんですよ」。

よーく見ると、棚の上にかわいいフィギュアが乗っていたり、面白い形の多肉植物が並んでいたりと見どころ満載。ひとりでも退屈しないかも。

古いレンガやフィギュアなど、細かなところにもオーナーのサービス精神が行き届いている。
古いレンガやフィギュアなど、細かなところにもオーナーのサービス精神が行き届いている。

丸ごとドーンがうれしい、アツアツとろーりのカマンベール焼き

オリジナリティあふれる内装を堪能したので、さっそくランチにしますか。料理もオーソドックスながら創作的なアレンジを加えたメニューが多い。ランチにはパスタやピザ、ごはんプレートにはチキン南蛮や豚の生姜焼きなどもある。

そのなかからカマンベールチーズがひとつドーンと乗ったのが衝撃的だったので、フォカッチャ&カマンベール焼き1100円をオーダーした。ディナーでも同じ価格で提供しているが、ランチはドリンクがつくのでお得だ。

表面にこんがり焼き目をつけたチーズがいかにもおいしそう!
表面にこんがり焼き目をつけたチーズがいかにもおいしそう!

丸いカマンベールチーズはみんなでシェアするもの、という勝手な思い込みがあり、丸ごとドーンの衝撃はまるで雷に打たれたよう。ひとりで食べてもいいんだ……。

ナイフで切ると、とろ〜りとしたチーズが出てきた。おいしそー。
ナイフで切ると、とろ〜りとしたチーズが出てきた。おいしそー。

ミルキーなカマンベールは中までトロトロ。しかもバーナーで炙られているので香ばしさもアップ。薄めのフォカッチャはもちもちで、ほんのり甘味もあるからチーズの塩気とマッチして絶品だ。

「自由に食べていいんですけど、ボクはフォカッチャのやわらかい部分から半分に割いて、真ん中にチーズを挟んで食べたりします」と高橋さん流の食べ方を聞いたのでやってみる。

フォカッチャを割いて中にチーズを挟み、オイルにディップ!
フォカッチャを割いて中にチーズを挟み、オイルにディップ!

うんうん、塩とコショウが入ったフルーティなエクストラバージンオイルをディップすればさらに風味が加わって、お酒にも合いそう。

「そうですね、ディナーでもお酒と一緒にオーダーされる方は多いです。うちではモヒートを通年出してるんですけど、4月からスタートしてる夏の期間限定メニューを加えると6種類もあります。ビールカクテルも人気ですよ」。

お酒はランチでもオーダー可能。初夏の日差しに目を細めながら、ジリジリと熱くなる肌を軽くさすった。こりゃあ、モヒート日和だなあ。ランチのカマンベールチーズが少し残ってるし、午後の予定に差し支えないならサクッと一杯飲んじゃおうという気分になってしまう。この続きのお楽しみは、再来訪まで取っておくことにしよう。

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢