それは、まさに絵に描いたような日本晴れの日曜日のこと。神奈川県庁前の日本大通りが歩行者天国となり、辺り一面のどかな空気に包まれていた。沿道の人たちにかわいい歌声を披露しているのは、お揃いの衣装でキメた、かもめ児童合唱団のみんな。ふと足を止めたイカツめファッションの青年が、その見た目からは想像しにくいなんとも優しい笑みを浮かべ、リズムに合わせて体を揺らし始めた。

三浦市のかもめ児童合唱団。
三浦市のかもめ児童合唱団。

音楽と笑顔があふれる幸せなストリート

第1回の「マグカル開放区」が開かれたのは2019年1月。神奈川県が主体となって運営する文化芸術イベントで、歌、楽器演奏、ダンス、伝統芸能、大道芸などジャンルはさまざまだ。コロナ禍の折はやむを得ず中止されたが、そのかわりにオンライン上で動画コンテスト「バーチャル開放区」を実施することに。2021年には応募数が500を超え、参加者はペイントアートやメッセージ性の高い映像作品などさらにバラエティに富み、リアルのイベントとは異なる新しい表現の場として熱い盛り上がりを見せた。

3年ぶりに「マグカル開放区」が復活したのは、2022年10月。待ちに待った再開で、それからは月2、3回、日曜日に開かれている。煉瓦造りの神奈川県庁が青空に映え、まるでパフォーマンスに花を添える舞台美術のよう。高層ビルに囲まれているのに道幅があるので空が広く、実に清々(すがすが)しい。今日は昼過ぎにキッチンカーでランチを調達し、テーブル席でのんびり頬張っていると、神奈川県立湘南高等学校合唱部の歌声がビルにぶつかって反響し、どんどん厚みを増しながら空に上っていくように聞こえ、興奮! 思わず食べる手を止めて立ち上がると、踊りながら歌い上げる様子が見えてガシッと心をつかまれてしまった。

2023年3月19日のひとコマ。神奈川県立湘南高等学校合唱部、圧巻のステージ!
2023年3月19日のひとコマ。神奈川県立湘南高等学校合唱部、圧巻のステージ!

ちなみにバラエティーに富んでいるのは出演者だけでなく、観客も老若男女さまざま。親に手を引かれた子供が楽しくなりすぎたのか、つい前に出て、合奏隊に交ざって踊りだす、なんて光景も珍しくないのだ。一方、訴えかけるような弾き語りに聴きほれる年配の夫婦や、大きなキャリーケースを傍らに置く外国人観光客の姿も。見ず知らずの、言葉を交わすこともない人たちが同じ時間を共有し、心を動かされるって、なんだかあったかいなあ。

「バーチャル開放区2022」で1位を受賞した宏菜が、凛とした弾き語りを披露。
「バーチャル開放区2022」で1位を受賞した宏菜が、凛とした弾き語りを披露。

今後は「マグカル」「バーチャル」の両輪でいくそうで、どんな「マグネット・カルチャー」が新たに発掘されるのかますます楽しみ。ではまた日曜日に、日本大通りで会いましょう。

伝統芸能の里神楽を演じる石森社中。作品はワクチン接種をテーマにした「注射こわぃ」。
伝統芸能の里神楽を演じる石森社中。作品はワクチン接種をテーマにした「注射こわぃ」。
キッチンカーが出店。県の特産品が販売されることも。
キッチンカーが出店。県の特産品が販売されることも。

マグカル開放区

神奈川県庁前の日本大通りが歩行者天国に。
神奈川県庁前の日本大通りが歩行者天国に。

日曜日(開催日はHPまたはTwitter:@magcul_live参照)の10:00~16:30、県庁前日本大通りで開催。観覧無料。横浜市中区日本大通1 ☎︎045-323-9351

2023年6~7月の開催スケジュール

6月11日、18日、25日、7月9日、16日、30日

取材・文=信藤舞子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年5月号より