元々土木技師である大崎さんは、定年後はジャズを楽しみ、測量士として暮らす計画をたてていた。
「市の職員として私有財産の管理、土地所有権をめぐる問題に対し、国有地でも市の土地でもない民有地があると、それを幕末まで遡って相続人を調べたり、営林署と夕張市の交渉役をしていたんです。そんな中、今や全国に知れ渡る市の財政破綻で役所を退職し、国有林の〈未利用地〉を取得したのがこの土地です」とジャズ喫茶を立てるに至った経緯を語る。
眠っていたジャズ喫茶の夢が俄にわかに呼び覚まされた大崎さんは、さっそく奥様を説得。二人の好きなハリウッドの音楽映画から店名を付けることも阿吽の呼吸で決まった。「夕張は炭鉱の仕事で全国から集まった色んな人たちがつくった街。だから芸能、芸術に長けた人も多いんです。音楽好きが喜ぶ場所になればいい」と、好きな事を徹底してやる覚悟。“入会地”のような場所で豊かな心の持ち主が営む、心温まるジャズ喫茶である。
【店主が選ぶ一枚】HEAVY SOUNDS “Elvin Jones and Richard Davis”
エルヴィンがドラムではなくギターを弾いている!
大崎さんの一枚は、人気の高い名盤、エルビン・ジョーンズとリチャード・デイヴィスの『ヘヴィ・サウンズ』(1968)。仙台の大学時代、ジャズ喫茶やコンサートに誘って、大崎さんがジャズを知るきっかけを作ってくれた友人から、帰郷を記念するアルバムとして譲り受けたもの。ジャズとの出会いを振り返るとき、大崎さんの心に深く刻印される一枚だ。中でも、エルヴィン・ジョーンズがドラムではなく、ギターを弾いてる「Elvin’s Guitars Blues」が好きという。
取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より