MASTER’S VOICE
音楽は大いに好き嫌いを語っていいの

店主は120年の歴史ある老舗酒店の4代目、桝本安裕さん。無線部所属の電気好きな高校生だった頃、ラジオでジャズを聴いて以来、東京の大学時代、サラリーマン時代と、ジャズ喫茶に通い、ジャズとともに生きた。

「当時は学生運動家も多かったけど、僕はただジャズだけを求めていた」と桝本さん。

年季を感じる外観だが、開店は2017年。

好きが高じて、北海道と東北のジャズ喫茶を自転車でめぐる旅をしたあとの1978年、東京・荻窪に同名の店を開く。「店名は『ジニアス』のマスターが、桝本さんは酔っ払うと目がイワシになるねって。それでつけたの」と往時を懐かしむ。

82年に酒店を継ぐためUターン。結婚して家庭をつくり、ジャズ喫茶再開の好機を長年窺うかがう。2013年から倉庫を改造し、ゴミ置き場の廃材を拾ってハンダごてで照明を作るなど、自らの“晩年様式”への準備を開始。

看板娘はフルート奏者のミーナさん(左)と桝本夫人。
潮風が吹き抜ける店内は、アマチュアミュージシャンによるセッションで白熱する。
「ここはいわばマンハッタン。だから目の前の古座川はハドソン川なわけね」と 桝本さん。飛躍的な比喩はジャズ好きならではだ。

「音楽は個人的なもの。好みの問題。正解はないの。だから大いに好き嫌いを語って、若者たちにジャズの楽しさを伝えたい」。桝本さんの熱意と人柄に惹かれ、週末には老若男女のアマチュアミュージシャンがライブを開催。古座の海風に乗ったグルーヴが、唯一無二の興奮をもたらしてくれる。

【店主が選ぶ一枚】Norman Simons Quintet “I'm...the BLUES”

大音量が自然に溶け込みブルーズィに

「芸と一緒で死ぬまで一生聴き続ける」と、ジャズへの飽くなき思いをもつ桝本さんとっておきの一枚は、ノーマン・シモンズ・クインテットの『アイム・ザ・ブルース』(1981)。大音量が店内を抜け出して、川、海、山の自然に溶け出してなじみ、一気にブルーズな気分に。MJQ、セロニアス・モンク、マイルス・デイヴィスほか、自作アンプを配置した独自の音環境と半野外的空間で聴くモダンジャズに、あらためて開放感を覚えること必至。

取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より

住所:和歌山県東牟婁郡串本町古座191/営業時間:9:00~18:00(日は~14:00)/定休日:無/アクセス:JR紀勢本線古座駅から徒歩13分
夕張唯一のジャズ喫茶の店主は、元夕張市役所職員の大崎雅志さん。ジャズとの出会いは、仙台の大学時代だ。カウント・ベイシー楽団を生で聴き、「その迫力に圧倒され、心地よく自然と体が同調する」瞬間を知って以来、ライブ通いとジャズ喫茶通いの日々。郷里・夕張に戻り、役所に勤めながらもそれは続き、札幌まで週2、3回は通ったほど。