北千住で超人気の極上レバにらのお店
北千住東口の改札を出て階段を降りると、右方向、線路沿いに細い道がまっすぐと伸びている。右を見上げればすぐに線路、左は住宅地。お店もほとんどないこの道を5分ほど歩くと、「大踏切通り」という広い道路にぶつかる。
渡りきるまでに50メートルはありそうな大きな踏切を右に見ながら大通りを渡り、斜めに延びた通りへ進むと、そこには1階にシャッターを備えた商店風の2階建ての建物が並ぶ、いかにも下町な景色が現れる。
今回訪れた『ここのつ 2号店』はこの通りを入ってすぐの右側。落ち着いた色合いの街並みの中でとても目立つ紺色のテント。そこに店名が白く表示され、店頭には“元祖レバにら”の白い提灯、そして「本日のオススメ」の立て看板と、お店の人気メニューが早くもうれしい主張を繰り広げる。
外壁は石造り風。おしゃれなガラスがはめ込まれた木製の扉を開け店内へ入ると、天然の木材を使ったカウンターが奥まで一直線に続き、L字型になった正面の壁際にも座席が設けられている。全部で10席程度。
カウンターの中は細長い厨房になっていて、その構造だけ見れば昔懐かしい中華屋さんのそれだが、これも木製のシックな床や美しいカウンターのおかげでおしゃれなカフェのようなイメージ。
「お店の雰囲気や、レバーで鉄分を摂れるということで、女性のお客さんもたくさんおみえになります」とは、店長の小山昇利さんのお言葉。2021年にこの2号店が開店した当時からお店の店長を務めている方だ。
このお店のオーナーは、お隣の綾瀬駅で高級焼き鳥店「いちなか」を経営していた人物。お店で使っていた白レバーでレバにらを提供したところ大好評で、北千住の駅前にこのレバにらをメインにした定食屋『ここのつ』(本店)を開店。当初苦労された時期もあったとのことだが、一度食べれば忘れることのできない特別なレバにらの味にリピーターが続出、メディアでも評判となり瞬く間に人気店となった。
その後、新型コロナの影響もあり、お酒がメインの飲食店である綾瀬の焼き鳥店は閉店。食事を中心とするお店の形態に力を入れ、2021年にこの場所に2号店を開店することとなった。メニューはほとんどが本店と同じ。ただし2号店だけの人気メニューも提供しているとのこと。詳しくはのちほど。
口の中でとろけ、身体がごはんを求める幸せのレバー
さて、今回注文したのは、もちろん看板メニューであるレバにら定食950円。昼食時には来店されたお客さんのほとんどがこのレバにら定食か、レバにらにほかのメニューを組み合わせたセットメニューを注文されるとのこと。レバにら定食だけでも、昼食時、多い時には30食ほどの注文があるそう。たった10席のお店でお昼に30食。お店にいる人が全員レバにらを食べている壮観な姿を思わず想像してしまう。
待望のレバにら到着。お皿の上に盛られたレバにらの具材は、レバーとニラだけ。まさに純度100パーセントのレバにらだ。そこに手の込んだ小鉢と具だくさんの味噌汁、ごはん、おしんこがついてくる。
「うちはとにかくレバーのおいしさを味わっていただくために、野菜はニラだけを使っています」と小山さん。
ではいただきます。まず驚かされるのは、レバーの味と食感。なんと表現したらよいのか。確かにレバーなのだけれど、レバーではない。今まで食べたどのレバーともまったく違う、まるでフォアグラ(結婚式に出席して何度か食べたことがあります)のような。とろとろと口の中でとけてしまうような食感だけれど、味がしっかりとつけられていて、そのおいしさにうっとりしながら、身体がご飯を求める。そんな初めての体験が一口目から展開される。まさに絶妙。
「うちは焼き鳥店をやっていた流れで、最高の鶏の白レバーが手に入ります。うちのレバにらは、この白レバーがあってこその味なんです。そこに焼き鳥屋時代から続いている秘伝のたれを使っています」と小山さん。
白レバーは意図的に生産することができない食材で、40羽程度からわずか1羽分程度しかとれない超貴重な食材。この白レバーを、最高の味と食感で味わってもらうためには、味付けとともに絶妙な火加減、つまり料理の腕も必要になる。
「火力の強い中華鍋で、白レバーのこの味を出すのには、ずいぶん苦労しました」と小山さん。こういう料理のことを、お店でしか味わうことのできない味というのだろうな、と素直に感じてしまう。
レバー中心のセットメニューも大人気
お店は昼と夜の2部制。平日の昼は近辺で働く方が多いが、週末にはこのお店を目当てにわざわざ遠くから来店される方も多いとか。お酒も充実していて、夜はもちろん、お昼時にもレバにらをつまみにビールという幸せすぎる時間を過ごされている方も少なくないらしい。
メニューには冒頭の立て看板の内容の通り、レバにら定食のほかにも、セットメニューが日替わりで用意されている。例えばこの日は、レバにら半分と特製やきとり丼。「レバにらが食べたくてご来店されるお客様に飽きずにご来店いただけるよう、毎日違うミニどんぶりとのセットを用意しています」とのこと。
さらにこの2号店だけのメニュー、幸せライス950円もなかなかの人気であるとのこと。もともとはオーナーが修業時代にまかないとして食べていたもの。ひき肉、鶏皮、トマト、玉ねぎ、チーズを炒めたものが、たっぷりご飯に盛られている。
一口食べると、とてもやさしいまさに幸せな味。初めて味わうのに懐かしさを感じるという滋味あふれたどんぶりで、女性にも大人気とのこと。味の奥のほうに、どこかで出会ったことのある懐かしい香辛料の味を感じるのだが、小山さんにお伺いしても「ふふふ……」という含み笑いのみ。ぜひ皆さんも自分の舌で味わってほしい。
「最近、持ち帰りメニューとして餃子(冷凍)を始めました」と小山さん。大粒で、しょうゆを付けなくてもおいしい絶妙な味付け。こちらも早くもお客さんの間で評判が高まっているとのこと。
レバにらといい、餃子といい、世間の人気メニューに真っ向勝負をしかけるその姿勢がすばらしい。おなかを減らしてぜひ行くべし!
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠