筆者紹介……村田あやこ
散歩や路上園芸などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑黄昏の路上園芸』(雷鳥社)。お散歩ユニットSABOTENSとしても活動。『散歩の達人』本誌でも連載中。
期待と不安の春、渋谷で植物の「友だち」探し
気を使ったり、押したり引いたり、顔色をうかがったり。人づきあいは、時々とても面倒くさい。クラスになじめるかな? 職場になじめるかな? オフィスや学校が多く、日々多くの人が行き交う渋谷でも、期待と不安を胸に春を迎える人は少なくないだろう。
2023年2月某日。人間界以外の「友だち」を探しに、渋谷駅・ハチ公前を出発する。平日午前中だからか、人はまばらだ。商業施設や雑居ビル、オフィスなど、背の高い建物が林立する渋谷駅前。目線を上げ下げしながら道玄坂方面へ進んでゆくと、舗装に開いた丸い穴の中や、段差の境目などで、ゴミやホコリに混ざって草が顔をのぞかせている。すぐ近くには、足元をアスファルトでガチガチに固められた街路樹。腕から血管が浮き出るように、根っこが地面から浮き上がり、幹にはスプレーで落書きされている。大都市・渋谷を住処にするのもなかなか大変そうだ。
高級住宅地の箱入り植物に繁華街の風来坊
『Bunkamura』のあたりまで坂を登り、メインストリートから一本外れた道に入ってみると、駅前の繁華街とは打って変わってきれいなマンションや民家が並ぶ静かな住宅地。そのまま松濤方面へと進んでいくと、ちびまる子ちゃんに登場する「花輪くん」が住んでいそうな、見たこともないキングサイズの豪邸が並ぶ。
どの家も建物周囲は頑丈な塀で覆われ、ふらり立ち寄った散歩人を寄せ付けない厳重な警戒体制である。建物の脇に植えられた庭木は、おかっぱ状やまんじゅう状、ソーセージ状など、きれいに剪定され整えられ、育ちの良さを感じる。
鍋島松濤公園を抜けて円山町方面へ進んでゆくと、千代田稲荷神社というお稲荷さんを発見。周囲にはラブホテルや飲食店が密集し、先程までの高級住宅地が幻に感じられるような猥雑さと人間臭さ。
アップダウンの激しい階段や小道を登ったり下ったりすると、薄汚れた鉢の中で暴れるようなアロエがロープとパイロンで囲われていたり、隙間からにょきっと生えた木がフェンスを飲み込んで大きくなっていたりと、松濤方面と比べると植物たちも我が道を生きている感。
高級住宅地に、猥雑な繁華街。聖と俗が隣り合わせの大都市・渋谷では、人間のすぐそばで、植物たちも静かなドラマを繰り広げていた。
あなたなら、誰と「友だち」になりたい?
【誰と仲良くなろうかな。個性あふれる渋谷の「友だち」】
物陰から憧れの先輩をじいっと見る人
配電盤の陰から恥ずかしそうに見つめる熱い視線の先には、憧れの弓道部の先輩。同じ部活の部員と仲良さそうで、気が気じゃない……。(神山町付近)
授業中にこっそりお菓子を食べる人
食いしん坊の柔道部部員、お弁当だけじゃとても足りない。休み時間に購買部で菓子パンを買って、授業中に先生の目を盗んでパクリ。(松濤付近)
退学して、都会で自分の道を探し始めた先輩
敷かれたレールじゃ物足りない。自分だけの新天地を求めて大都市・渋谷へ旅立った先輩。渋谷の一角で、しぶとくたくましく根を張る。(道玄坂付近)
シャイでなかなかクラスになじめないもやしっ子
この街も、学校も初めてで、クラスメイトにどうやって話しかけたらいいかわからない。今日も非常階段で、ひっそりお弁当タイム。(千代田稲荷神社)
髪を切ったら、おかっぱになりすぎてしまった人
新学期とともに心機一転、散髪しようと美容室へ。カット中についうっかり寝てしまったら……見事なまでのおかっぱに!ギャー!(松濤付近)
三つ子の3年生
すらりとした端正な出で立ちで、勉強もスポーツも万能な、学校イチの名物三つ子。3人ずらりと並ぶと壮観。下級生の中にファンも多い。(松濤付近)
帰り道、カツアゲされそうになって物陰に隠れる人
いつもと違う帰り道を通ったら……げげ、コンビニ前で隣町のヤンキー軍団がタムロしてる……!ここはいったん、看板の後ろに隠れよう。(円山町付近)
学校イチのやんちゃ軍団
髪を逆立て大騒ぎしているのは、やんちゃなアロエ軍団。クラスメイトが怪我をするとさりげなく手当してくれる、根はいいヤツ。(円山町付近)
どんないたずらっ子もかなわない、全身ムキムキな体育の先生
実は昔、地下格闘技の選手だったという噂もある体育の先生。さすがのやんちゃ軍団もこの先生に対してはひるんでしまう。(ミヤシタパーク付近)
取材・文・撮影=村田あやこ
『散歩の達人』2023年4月号より