「目立ちたがりの芸人で~す!」

場所はライブハウスでしたっけ? 久米さんか徹子さんに訊かれて、桑田佳祐はそうシャウトして答えた。

あとはもう皆さんご存じの通り。名作ドラマ「ふぞろい」のBGM。2枚組『KAMAKURA』が出たときの世の中の大騒ぎ。原坊第一子産休中に結成したKUWATA BAND(個人的に桑田関連でいちばん聴いたアルバムはこのバンドのファースト。シングル収録ゼロ)。原坊第二子産休中のソロデビュー。その後サザンデビュー10周年「みんなのうた」、数多のドームツアー、「TSUNAMI」200万枚、サザン活動無期限休止、食道ガン寛解などなど、ヒット曲をすべて挙げていくと一冊の本になるので思いきり省略します。

近年はパッタリ途絶えたけど中村雅俊、高田みづえ、研ナオコなどに提供した名曲群も素晴らしすぎる。特に「夏をあきらめて」は後にスチャダラパーが「サマージャム’95」で「熱めのお茶」「意味深のシャワー」の歌詞をクローズアップし、再評価を得た。

ヒットシングルは50曲以上、40年間第一線。国民的ロックバンド。まさに名曲大量製造機の桑田佳祐ですが、結論を急ぎます。みんながやっていそうで誰もしていない指摘をします。

桑田佳祐は日本のポップミュージック史上最大の変態だ。

え、どこが? 普段から気さくな感じだしゲス不倫もないし悪い噂を聞いたことないじゃんと言うあなた。問題はそこです。フツーこれだけ売れたら人は浮かれまくり、全能感を持ち、威張りまくってトラブルを起こすのが当たり前なのだ。

スタッフに暴力をふるったり(例:無数)、酒に溺れて早死にしたり(例:無数)、ドラッグにハマったり(例:無数)、ヨイショされる反面自分の貧弱ボディにコンプレックスを感じて克服しようとからだを鍛えて筋肉バカになったり(例:長渕、ダウンタウン松本、三島由紀夫)、人格破綻が露呈したり(例:玉置浩二)、整形したり金づかいが荒くなったり奇行が目立ったり(例:マイケル)、とにかく女とヤリまくったり(例:無数)、とにかく男とヤリまくったり(例:無数)、結婚と離婚を繰り返したり(例:ミック・ジャガー。曾孫より8人目の子供の方が歳下)、低迷期を迎えて詐欺を働いて逮捕されたり(例:小室哲哉)、ノイローゼになって自殺しちゃったり(例:無数)、消費される自分に嫌気がさして行方をくらませたり(例:小沢健二)するものだ。

いま挙げた人たちは正常。桑田佳祐が異常なの。変わり者なの。超ド級の奇人変人なの。桑田佳祐の歴史に汚点などあるのだろうか。そういえばむかしむかし女性誌が「桑田家はゴミ捨てのルールを守らないご近所の鼻つまみ」みたいな記事を書いた。あとで他の媒体が近隣住民の声を取り上げてデタラメだと証明した。

初期メンバーのギター大森が宗教にハマったため桑田の怒りを買い追放とかどこまで本当のことかわからない話もあった。確かにむかしのVで振り返るとき、一時期のSMAPの森くん、最近だとTOKIOの山口メンバーぐらい「なかったこと」扱いになっていると感じるのは筆者だけではないだろう。

桑田佳祐のキャリア失敗、あえて言うなら『稲村ジェーン』が唯一の瑕かもしれない。あと90年代初期にサザンが北京でライブをやったとき、大盛況だったんだけど億の赤字を出したことぐらい?

そうそう、映画『ビッグ・アイズ』『天才作家の妻』と同じ、実は「原坊が全部曲を作っている」と信じ込んでいる人がいまだに一部いる。「だから桑田は浮気できない」と。知らないのか、青学はそのむかしいちばん安いランチが200円で食べられて、お金がない桑田は毎日「ごめんね」と友だちに手を合わせて100円ずつ借りていた。そこでいちばん「ごめんね」と言われていたのが原坊なのだ(たぶん嘉門達也情報)。桑田佳祐は義理堅いんだよ。融資額1億倍返し。

や、でもね、桑田佳祐って実はやんちゃですけどね。血気盛んな頃もありました。「吉田拓郎の唄」で「フォークソングのカス」呼ばわり。「浜田省吾は雑誌で見るといつも下向いたり俯いたりしている」と発言。のちに浜省から「俺だって笑っているのに編集部が暗い顔ばっか撮って載せているんだ」と返されて可愛く謝罪。ベストテンでプールに坐禅を組んだ体勢でぷかぷかと横たわる黒柳徹子に「成仏して下さい~」。そして「すべての歌に懺悔しな!!」にまつわる長渕との遺恨。まったくもう、桑田さんたらお茶目でチャーミングなんだから!名言「ポップスターは悲しい」同様、だから信用できるってもんで。

さて。さんざん書き散らしてきました。こんな「日本のひとりレノン&マッカートニー」の桑田佳祐とサザンですが、ありえないことを夢想します。

――もしサザンが今のようなサザンでなかったら。サザンが落ち目になっていたら。「勝手にシンドバッド」の衝撃デビューから一発屋かと思いきや、「気分しだいで」を挟み、「いとしのエリー」がスーパースターの決定打となります。が、知っている人は知っているように、あれってMarlena Shaw のパクリですよね(むかし藤原ヒロシがテレビで「恥をかかせるつもりはないけど」ってレコードかけてました)。それが大騒ぎになってバッシングされてサザンが世間から消えていたら、その後の日本の音楽シーンはどうなっていたでしょう。アミューズはないですよね。てことはPerfume もいない。ワンオクもベビメタもない。福山雅治は宇宙企画でAV男優になっていた可能性大。本人も言ってたし。

桑田門下生の小林武史もいないということはミスチルもモンスターバンドになっていない。ずいぶん地図が塗り替わる。

ふぅ。さんざん桑田佳祐について語ったけど、僕はサザンも桑田ソロもライブを観たことがない。チケットが取りにくい以前に、これまであまり関心を持ったことがなかった。僕もまた、変人かもしれない。

『散歩の達人』2019年3月号