室外機がかわいく思えてきた

どうしてこうなってしまった?ダイナミックな配管。
どうしてこうなってしまった?ダイナミックな配管。

民家やビル、アパート。あらゆる建物の傍らにちょこんと佇む四角い物体、室外機。ライターの斎藤公輔(NEKOPLA)さんは、長年室外機を鑑賞し続けている。

初めて室外機が気になったのは、2007年頃だった。

「当時、電器店でエアコンの設置工事を手伝っていました。夏場の一ヶ月ほど、いろんな家に行っては室外機を置いて、家の中に室内機を付けて、配管を通して……といった工事を毎日のようにやっていたんです。その時、ふと室外機の配管が気になるようになりました。

室外機と室内機の設置場所を決めた後、配管をどうするかは、現場の状況を見て工事担当者が決めています。担当者の采配によって、きれいな配管やちょっとぐちゃぐちゃした配管など、いろいろなタイプがあることに気づいて、興味を持ったんです。

最初は配管の写真ばかり撮っていたんですが、配管を撮っていると必ず室外機も写り込んでいます。室外機もだんだんかわいく思えてきて、徐々に室外機に目が留まるようになっていきましたね」

室外機だらけの壁。
室外機だらけの壁。

そもそも室外機はどのようにして設置されるものなのだろうか。

「エアコンを設置した部屋のすぐ外に置くことが多いです。建物の1階の場合は地面の上、2階の場合は屋根の上や、架台を付けて壁掛けにするのが基本的な設置方法です。

ただ、どうしても設置スペースがない時は、離れた場所に置く場合もあります。顕著なのは繁華街です。置く場所がないので一箇所に集中して設置され、壁が室外機だらけになっていることもあります」

見つけたらラッキーな「右目」の室外機

右側にファンのついた「右目」の室外機。
右側にファンのついた「右目」の室外機。

2010年頃に本格的に撮影し始めてからこれまで、5000体ほどの室外機を収めてきた斎藤さん。ひとくちに「室外機」と言っても、様々なタイプがある。

「大きく分けると、一般的な家庭用のものの他、業務用、ビルなどの大型施設用があります。

製造しているメーカーや機種も色々あります。街なかで見かける室外機はダイキン製などが多いですが、最近ではアイリスオーヤマも参入しています。

街中には、50年くらい前に製造されたものから今年設置されたような新しいものまで、幅広い年代に製造された室外機が分布しています。古いものと新しいものが共存しているのが、室外機の面白いところでもありますね」

古いタイプの室外機には、レアなデザインのものもある。

「室外機は、向かって左側にファンが付いたタイプが一般的です。理由としては、右利きの人が多く、配管が右側から出ていたほうが作業しやすいため、という説があるようです。ただ、古い室外機の中には向かって右側にファンが付いたタイプのものがあり、室外機好きの間では『右目』と呼ばれています。以前、とある記事で百体ほどの室外機を調べたところ、右側にファンが付いたタイプは全体のおよそ1.4%でした。見つけたらすごくラッキーです」

兄弟のように2台並んだ室外機。どちらも「右目」だ。
兄弟のように2台並んだ室外機。どちらも「右目」だ。

エアコンが付いた建物であれば、必ず一台は設置されている室外機。設置される場所によって表情も様々なのが、室外機の魅力だという。

「室外機は、四角い体の下に足が2本付いています。室外機自体をキャラクターのように見立ててみると、たとえば夫婦のように2台並んでいたり、単独で置かれていたりと、周りに置かれたものや配置の仕方によって『楽しそうな室外機』『悲しそうな室外機』など、様々な表情を感じられるところが魅力です。

室外機を含めた周りの風景を見てみると、一つとして同じものがないので、無限に楽しめますね。こんなふうに家族の一員のように扱われていている家電自体、他にはあまりありません」

鉢植えやペットボトルと共に、風景に溶け込んだ室外機。
鉢植えやペットボトルと共に、風景に溶け込んだ室外機。

室外機の置かれた風景に惹かれる、という斎藤さん。室外機と、その周囲のものとが織りなす風景を、一枚の絵のように楽しんでいるそうだ。

「鉢植えやペットボトルが風景と一体化して、室外機がその風景に主役として華を添えていたり、木陰に佇んでいたり。一枚の絵として見た時に、風景に調和した室外機に惹かれますね」

室外機を通して見えてくる、街の表情

物置の上に乗る、珍しい小型の室外機。周囲を緑が覆う。
物置の上に乗る、珍しい小型の室外機。周囲を緑が覆う。

ライフワークとして散歩を続けている斎藤さん。普段の散歩スタイルを伺ってみた。

「室外機に限らず、街にある様々なものの写真を撮っています。月に1~2回のペースで、予定がない週末で、できれば曇りの日に、全然知らない駅で降りて2時間位、行き先を決めずに歩き回ってスナップ撮影をしています。

Googleマップに、今まで訪れた散歩ルートを記録しているんですが、見返してみると行ったことある場所のムラが見えてくるんです。できるだけムラをなくすために、あまり行ったことがない場所に行こうと心がけていますね」

室外機専用の家。
室外機専用の家。

室外機目線で嗅覚が働く街はあるのだろうか。

「一つは繁華街です。室外機もたくさんありますし、配管もぐねぐねしていて楽しいですね。

もう一つは、下町的な場所です。古い室外機が結構残っていることがあるので、見応えありますね。下町では、屋根を付けたり囲いを付けたりと、室外機をかわいがっている家も多いんです。

私が今住んでいるのは大阪なので、これまで訪れたのもほぼ大阪なんですが、やはりメッカは、建物が多く下町的なエリアもある東京だと思います。いずれ室外機観賞に訪れてみたいなと思いますね。

また、香港や台湾といったアジアは桁違いの室外機がいるらしいので、いつか見に行ってみたいです」

電柱の陰からひっそりと顔を出す室外機。
電柱の陰からひっそりと顔を出す室外機。

これから室外機観賞を楽しんでみたい、という人に向けて観賞のコツを伺ってみた。

「室外機には、たとえばキャラクターのような可愛さ、鉢植えと一緒に写っている様子、室外機だけが群れている無機質な風景など、様々な要素があります。色々と観察してみて、自分がどういうタイプが好きなのかを見つけてみるのをおすすめします。

室外機が密集した風景が好きだったら繁華街、鉢植えとセットで眺めたい場合は下町など、ターゲットが絞れてくると、より深く観察できるんじゃないかと思います」

家主の趣味趣向と関係なく設置される工業製品だからこそ、室外機を中心とする風景には、地域性や家庭ごとの暮らしが、無意識ににじみ出ている。

 

取材・構成=村田あやこ

※記事内の写真はすべて斎藤公輔(NEKOPLA)さん提供