サウナーが求めるものの全てとは
こちらは昭和24年(1949)に開業し、設備老朽化のため、リニューアルされた。
「SNSでサウナーの方が必要としているものを調べて、それを全て詰め込みました。『妙法湯』や『松本湯』の企画設計を手掛けた方にお願いし、各店での成功事例や改善点を踏まえられました」と話すのは、4代目店主である中村有紀さん。
サウナーの求めるものを詰め込んだというこちらのサウナ、温度は97~98度と比較的高めの設定になっている。20分毎にオートロウリュがあり、力強くも心地よい発汗が得られる。
「全体に、桶をモチーフにしたデザインにしてもらいました」と中村さんが話す通り、ストーブの囲いも桶になっていて、その上部にあるロウリュ装置も桶が重なった「桶のシャンパンタワー」のようになっていて目にも楽しい。
中村さんが「このビルで許可されるギリギリの深さまで掘りました」と話す水風呂は、深さ90cmで、サウナーが唸る仕様だ。
足を伸ばさなくても首元まで浸かることが可能で、15.5度に設定された水を全身に感じられる。
さらに中村さんは「SNSで『水風呂が2種類あって最高!』という、サウナーの方の書き込みがあったので」と、隣接した浴槽に水温30度に設定された第二の水風呂まで作った。
サウナ利用者以外にも、温冷交代浴をする人や小さな子供も入れるように考えられている。
女湯は内気浴、男湯は外気浴
女湯には内気浴。薄暗くしてある上に、アロマが焚かれていて視覚からも聴覚からも「ととのい」の度合いを高めてくる。
アロマは「Hinoka」という種類で、木の香りが穏やかで、森林浴のような安らぎを得られる。
筆者も何度か『巣鴨湯』には入浴したが、男湯にはないこの内気浴を見て、女性が羨ましくなっている。
一方で男湯には外気浴。サウナ専用施設やなどでは見かけるが、一般的な銭湯ではなかなかお目にかかれない、インフィニティチェアも完備されており「ととのい」に不足なし。
サウナから水風呂、そしてこの内気浴と外気浴の充実っぷりが、行列を呼んでいる大きな要因だ。
全ての人を受け入れる銭湯
サウナーに人気とはいえ、ここは銭湯。小さな子供からお年寄りまで、誰もが安心して利用できることが重要だ。『巣鴨湯』はその点も抜かりない。
「浴室の床を畳マットにしました。抗菌で水場にも強く、介護施設の浴室などで使われているものです」と中村さん。
滑らないので転倒もしにくい。さらに、その柔らかさは気持ち良さだけでなく、万が一転倒しても怪我をしにくいようになっている。まさに、万人に優しい床になっているわけだが、「掃除には通常の倍の時間がかかります。毎日一枚ずつ裏返して掃除しますので」とのこと。安全は、見えない苦労が支えていた。
半露天風呂は熱めの42~43度。「昔から来ていただいている常連さんは、熱めのお湯が好きな方が多いので、熱めに設定しています」と中村さん。
改装でサウナーが大挙して押し寄せるようになったが、これまで支えてきた常連さんのことも忘れない。
熱めの湯に入って、ひんやりした外気で呼吸するのは至福だ。
一方内湯には、39度ほどの湯船もあり、こちらも万人を受け入れる体制は整っている。
施設が努力をしても、利用者のマナーの悪さによって残念な気持ちになることもある。銭湯で言えば、体が濡れたまま脱衣場に入り床がビショビショになっている時がそれだ。
銭湯では、注意喚起の張り紙をよく見かけるが、こちらには全く新しい別のアプローチがあった。頭上から強風が吹き出て体を乾かしてくれる「ぼで~どらいや~」なる設備。
「注意喚起しても、濡れたまま脱衣所に入ってしまう方もいるので作ってみました。遊び心で(笑)」と中村さん。
アトラクションのような気分で入るだけで、体も乾く。まさに「仕組み」で銭湯の悩み事を解決する名案だ。
サウナに全力を注ぎながらも、万人への配慮も忘れない『巣鴨湯』。全てを預けに出かけてみてはいかがだろう。
取材・文・撮影=Mr.tsubaking