中学時代の私は授業中延々とニキビを潰したり女子の前で挙動不審な行動を取っていたせいで、キモい、モテない男の代表格として扱われていた。しかし高校生になって行動を改めると彼女ができたし、大学ではサークルの後輩と付き合ったりもした。それでも中学時代の男友達からは依然としてモテない男扱いを受けており、たまに女の子の話になっても「まあお前には関係ない話やけどな」などとわざわざ忠告してくる奴がいた。
ただそれは中学時代の印象を未だに書き換えられていない彼ら側の問題で、実際自分はそこまでモテないわけではないと思っていた。この合コンで、初対面の女子たちから客観的かつ公平に男としての魅力を判断してもらい、不当な評価を払拭してやろうと私は意気込んでいた。友人たちは合コン中も「こいつキモいやろ」などと私を貶(おとし)めてきたが余裕ある態度で受け流し、酒を飲んでたくさんしゃべった。笑いも結構取ったと思う。和やかなムードのまま解散し、男性陣のひとりが自宅が近いということで皆でそいつの家に向かった。
誰がタイプだったかなどと談笑していると、ひとりの男あてに先ほどの女子から「今日はありがとう、また飲みに行こうね」とメールが届き場が沸き立った。続けてまた別の男の携帯に別の女子からメールが届き、さらにもうひとりの男にもまた別の女子からメールが届いた。友人たちは「やす、お前にはメール来んやろ」と囃し立てたが、数分後私の携帯にもメールが届いた。その送り主は合コンの席で「さんちゃん」と呼ばれていた女子で、正直我々男性陣からは最も人気が集まらなかった子だった。どうやら女性陣は誰がどの男にメールを送るかという相談を行い、各々担当を決めた上でメールしているようだ。それならさんちゃんも別に私を気に入ったわけではなく、他の女子が私を選ばなかった結果消去法で担当させられたのだろうと推測された。
不当な評価を覆すつもりで臨んだ合コンは、私がモテない男だという従来のイメージを強化するだけの結果に終わった。友人たちは「ええやん、お前さんちゃんと付き合っといたら」などと冷やかし、さんちゃんの容姿を中傷するようなことさえ口々に言った。私も別にさんちゃんに魅力を感じてはいなかったが、彼女を否定するようなことは意地でも口にしなかった。その後、友人のひとりがメールでやりとりした女性と付き合い始めた。私はそうは思わなかったが、あの席では美人扱いされていた女性だ。その彼女に、悪意があってかただの勘違いか知らないが、友人は「やすがさんちゃんブスやって言ってたで」と事実と全く異なる情報を吹き込み、おかげで女性陣は憤慨し「お前ごときが偉そうに言うな!」と非難していたそうだ。私は激しい怒りを抱いたが、もう彼女たちに会う機会はなく、直接反論できないまま時は経った。
さんちゃんもまた……
最近、A子から「久しぶり!東京で頑張ってるね。地元帰ったら同級生の女子誘うからひさびさに何人かで飲も!」とFacebookを通じて連絡があった。たまたま私も帰省する予定があり、じゃあ来週飲もうか、とトントン拍子に話はまとまった。
実家近くの居酒屋に、私が同級生の男友達を連れ立っていくと、A子も見知った同級生女子を連れてきていた。もちろん、この飲み会に出会いを求めに来たわけではない。私の一番の目的は、あの日の誤解を解くことだった。
一杯目のビールを飲み干し、世間話もそこそこに「そういや昔、合コン開いてくれた時あったやん」と切り出す。「誤解されてたみたいだけど、俺はさんちゃんの悪口を一切言っていないから。他の奴らはめっちゃ言ってたけどね」と熱を込めて伝えた。「ああ、そうだったんだ。私の友人たちが誤解しててごめん。あのとき一番大人だったのは吉田くんだったね」という反応に期待して。しかしA子はあまりピンときていない表情で、「ああ、そんなこともあったね」と軽く受け流し、「まあ、私たちもさんちゃんのこと苦手だったから、あれから遊びに誘わなくなったんよね」と言った。卒業旅行も結局さんちゃん抜きで行ったわ、と可笑(おか)しそうに言うA子を前に、私は「ああ、そうなんや」と答えることしかできなかった。その後、会話は私の悪口を言いふらしたあの友人カップルの性事情がどうだったといった方面へ進んでいった。私にはどうでもいい話だった。
きっとさんちゃんはあのグループ内で当時の私と同じように見下されていた立場にあったのだろうし、どうやら現在もその印象は変わってないようだ。先ほどの私の弁解を聞いてもA子は「そうだ、こいつはさんちゃんと同格の男だった」と思い出しただけかもしれない。その後も中学時代に誰が誰を好きだったという話が盛り上がり、女子と全く接触しなかった私は蚊帳の外へ置かれた形となった。
学生時代に根付いた印象は今後一生覆せないのか。自分もあの日の合コン参加者なんかより客観的に見てずっと魅力的な女性とその後何人も付き合ったことがある、などと下世話なことも言いたくなったが、この状況で何を言おうとまったく説得力はない。頑張らんとな、などと思いながら何を頑張ればいいのかもわからず、私はただ黙々とビールを飲んだ。
文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2022年11月号より