前原さん、その素性

鈴木建設株式会社・社長専用車運転手前原。その素性は謎に包まれている。ファーストネームすら明かされていないほどだ。

年齢も不詳。演者の年齢(笹野高史1948年生)から推測すると、

○1988年(「釣りバカ1」)当時40歳
○2009年(「釣りバカファイナル」)当時61歳

となろうか。

同様に1988~2009年の年齢を

○ハマちゃん31歳~52歳
○スーさん63歳~84歳

とすると(連載第3回参照)、ざっくりハマちゃんの10歳上、スーさんの20歳下ってところか。

「年齢よりもふけているのは髪の毛だけでして」(「釣りバカ15」)

と本人も言うように、同社の重役連中と比べればその言動は若々しい。

職業は言わずと知れた運転手。雇用形態はクルマが会社所有の「社長専用車」であることから、鈴木建設の「ドライバー募集」に応じて採用された契約社員とみるのが妥当だろう。給料は「あんまりいただいておりませんので……」(「釣りバカ2」)と本人が言うくらいだから推して知るべし。

ちなみに前原さん操る社有車は、およそトヨタ「センチュリー」(型式にバラツキあり)だが、社長用には似つかわしくない「プリウス」(「釣りバカ13」)に乗り替えた時期もある。

次にいつ頃から勤務しているかだが、

○「20年お仕え」(2002年「釣りバカ16」)→1982年(34歳)より現職
○「30年奉職」(2008年「釣りバカ19」)→1978年(30歳)より現職

という本人の発言から、若干の差異はあるもののだいたい1980年前後からの勤務とみていい。

この決して短くない勤続年数から前原さんのまじめな人柄がうかがえる。

なお2009年の社長専用車廃止を期に雇い止めとなるが、あらためて個人事業主(個人タクシー:使用車「クラウン ロイヤルサルーン」か)として鈴木建設と法人契約を結んでいる(「釣りバカファイナル」)。

プロフェッショナルな仕事ぶりが最強!

鈴木社長や草森秘書室長に虐げられている印象が強い前原さんだが、よくよく観察するとその仕事ぶりは顧客至上主義を貫いておりプロフェッショナルそのものだ。

その1つの証が彼がこなす「契約外労働」ではないだろうか。

○金銭貸付(「釣りバカ2」「釣りバカ7」など)
○歯医者付き添い(「釣りバカ7」)
○大腸検査付き添い(「釣りバカ8」)
○鈴木邸の庭掃除(「釣りバカ9」)
○釣りのお付き合い(「釣りバカ10」)
○ハーレー同乗(「釣りバカ11」)
○救急搬送(「釣りバカファイナル」)

などなど、あきらかに運転手の業務からかけ離れ、おそらく契約に規定されていないだろうと思われる仕事をこなしている。「医師免許と関係のない業務は、い·た·し·ま·せ·ん!」と言い放つ某フリーランスの外科医が聞いたら狂乱しそうな異次元の環境だろう。

なかでも特筆すべきは、魚釣り強制連行事件(「釣りバカ10」)だ。

「殺生はするなと親父の遺言でして……」

とはじめは抗うも、なかば拉致のように鈴木社長に伊東の釣り場まで連れていかれるハメに……。そこで、釣りの魅力に取り憑かれた前原さん。しまいにゃ、

「鈴木さん、なまけてちゃダメですよ!コレ来てますよ!来てますよ!」

と大興奮で“釣りバカ第3の男”と化す始末。

時には互いに悪態はつくけど、鈴木社長がハマちゃん以外の社員と釣りに行ったのは、スクリーンの中では前原さんだけ。契約外労働というコンプライアンス違反など凌駕した、前原さんと鈴木社長との熱い信頼関係がうかがえる。

他にも、

○度重なる鈴木社長の道ならぬ逢瀬を目撃しても他言しない口の固さ
○バックミラー越しに鈴木社長の機嫌や体調をうかがう機敏な目配り

など、仕事上の一挙手一投足がプロフェッショナルな前原さん。この秘書以上、社長夫人以上、『暴れん坊将軍』の田之倉孫兵衛(じい)並みの献身的なお仕えぶりは誰にも真似できまい。前原さん、ブラボー!

前原さんの職場とも言える鈴木一之助社長宅。所在地は世田谷区上野毛の設定で、「釣りバカ16」では五島美術館近くのこの辺りか。
前原さんの職場とも言える鈴木一之助社長宅。所在地は世田谷区上野毛の設定で、「釣りバカ16」では五島美術館近くのこの辺りか。

ディープで多彩な趣味が最強!

前原さんはワッパ一筋仕事一辺倒のつまらない人生を送っているわけではない。彼の趣味嗜好は、

○気功(「釣りバカ8」)
○女子高生スカート丈観察(「釣りバカ10」など)
○釣り(「釣りバカ10」)
○英会話(「釣りバカ12」)
○合コン(「釣りバカ13」)
○温泉(「釣りバカ14」)
○クイックマッサージ(「釣りバカ16」)
○ドライブ(「釣りバカ16」)
○ネットサーフィン(そっち系含む。「釣りバカ17」)
○キャバクラ通い in 蒲田(「釣りバカ17」)

などなど実に多彩だ。

なかでもエロサイト閲覧やキャバクラ通いなど情欲系のものが目立つが、ここで「合コン」だけは即座に想像つかない。

「合コンでございます。若い女の子と遊ぶんでございますよ。これがなかなか楽しゅうございまして。たまには命のお洗濯ということで……」

と本人は意気揚々と語るが、詳細は伝わって来ない。

妻子持ちの中年男性(しかも薄毛)と若い娘の合コンなど現実的にあり得るのだろうか?

「前ちゃん、今度3対3(さんさん)で合コンやるけど来ね?」

などと若い友人から誘われるのだろうか?

街コン的なイベントを指しているのか?

出会い系のカフェの一種か?

新手のイメクラか?

と、さまざまな疑念が湧いてくる。筆者もあくまでも取材の一環で前原さんの活動エリア・夜の蒲田に足を運び、命のお洗濯に興じてみたが、散財するばかりでそれらの疑念が晴れることはなかった。

さすが前原さん、夜のお遊びも凡人では理解できないほどディープで謎めいている。最強だ。

前原さん、キャバクラ遊びで“夜の蒲田行進曲”を謳歌しているのはこの辺りか。夜の蒲田、花咲くおキャバ、前原の聖地~♪
前原さん、キャバクラ遊びで“夜の蒲田行進曲”を謳歌しているのはこの辺りか。夜の蒲田、花咲くおキャバ、前原の聖地~♪
蒲田と言えば、羽根つき餃子!前原さんも餃子でスタミナつけて、夜の街に羽ばたいて行ったか?羽根つきだけに……。(『春香園』で)
蒲田と言えば、羽根つき餃子!前原さんも餃子でスタミナつけて、夜の街に羽ばたいて行ったか?羽根つきだけに……。(『春香園』で)

溢れる家族愛が最強!

「あのバーコード頭」(「釣りバカ6」)

「頭の薄い、カッパみたいな顔」(「釣りバカファイナル」)

といった罵詈雑言に象徴される鈴木建設での前原さんの雑な扱われ方を見ていると、その不憫さに「前原さんにもっと愛を!」と叫びたくなる。しかしその実、彼の家庭生活は愛に満ちている。

前原家は個人タクシー車体の所在地の記載から、大田区蒲田に居を構えていることがわかる。家は一軒家の持ち家か。ローンは2009年時点ですでに完済しているので、老後も安心だ(「釣りバカファイナル」)。

家族は、

○妻(できちゃった婚。「釣りバカ19」)
○娘(「釣りバカ10」〈1998〉当時、短大の食物科を卒業。第一子か)
○息子(「釣りバカ16」で存在が判明。第二子か)

と本人の4人家族。

そんな前原家の愛を構成する要素は「栄養」と「健康」に他ならない。

具体的にみてみよう。まずは「栄養」。

「私なんか外食は一切いたしません。家内は料理が好きでしてお昼は愛妻弁当です」(「釣りバカ9」)

「(娘が)『お父さんのお弁当、私が作る』なんて言って毎朝早起きして作ってくれるんですよ~」(「釣りバカ10」)

と栄養面は妻娘ががっちりサポート。

一方、「健康」は……、

「ーー今のはビタミン剤、あとは粉末のウコン、ニンニクのエキス、朝鮮人参入りの蜂蜜、コレは欠かしません。夜はマムシ酒、コレは効きます」(「釣りバカ19」)

と、いろいろ健康食品を摂っている様子。そのアドバイスなどに妻や娘が関わっているだろうことは想像に難くない。

かくして前原さんに栄養と健康がチャージされた結果、

「ーー夜の生活も20代のまんま!『まったく、いつまでたってもしつこいんだからぁ』なんてカミさんも口では文句を言っておりますが、コレがなかなかどうして、夫婦円満の秘訣でありますなワハハハ!どうにもこうにもイヒヒヒヒ!」(「釣りバカ15」)

ーーもう愛欲の……、もとい愛情の海に溺れていまいそう。前原家、強し!

前原さん、自宅は蒲田らしい。鈴木社長宅のある上野毛とは東急多摩川線&大井町線でつながり、ちょくちょく行かされるハマちゃん宅近辺(北品川、穴守稲荷、金沢八景)とも京急各線でつながる好立地(前原さん、電車は使わないか?)。
前原さん、自宅は蒲田らしい。鈴木社長宅のある上野毛とは東急多摩川線&大井町線でつながり、ちょくちょく行かされるハマちゃん宅近辺(北品川、穴守稲荷、金沢八景)とも京急各線でつながる好立地(前原さん、電車は使わないか?)。

前原さん、アンタが最強!

筆者が最初にスクリーンの中の前原さんを見たのは、前途洋々としていた20歳の頃。前原さんのとぼけた挙動にクスクス笑いながらも、たぶん心のどこかで「あんなおっさんにはなりたくねーな」と見下していた。

そして数年後、社会に出て、以降さまざまな喜怒哀楽(とくに「怒」「哀」)を経験し、多くの毀誉褒貶(おもに「毀」「貶」)を受け、身をもって栄枯盛衰(なかでも「枯」「衰」)を痛感して、気がつけばシリーズ中盤の前原世代になっていた。自分で言うのもなんだが、けっこうヨレヨレだ。

そんな今、あらためて思う。前原さんこそ最強の生き方をしているのではないだろうか……と。

仕事はプロフェッショナル。

夜の遊びは精力的。

家族愛は溢れんばかり。

自分に無いもの、無くしたものを前原さんはすべて兼ね備えている。そして、そこに人間的な強さを感じずにはいられないのだ。

ハマちゃんのようにおとぎ話の住人ではない。スーさんのように立志伝中の大人物でもない。生真面目な一介の運転手が、世の中がどう動こうと、どんなに社長に無茶振りされようと、どんなに女子高生に白い目で見られようと意に介さず、理想のライフスタイルを力強く掴み取った。

もう誰も彼を嘲笑できない。いま、声を大にして言おう。前原さん、アンタが最強!

文・撮影=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ

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