「冬は遠くの音がよく聞こえるようになる」ってほんと?
「冬の夜は遠くの音がよく聞こえる」という言い伝えがあります。寒くなると、帰り道に電車の音や踏切りのカンカン響く音がいつも以上によく聞こえるという経験はありませんか?
実は、これには科学的な根拠があります。少し複雑ですが、音の伝わり方は気温によって変化します。
音は周りの空気を振動させて「波」のように伝わりますが、気温が高いときは速く勢いよく伝わります。逆に、気温が低いときはゆっくりと進みます。冷たい空気から暖かい空気の中へ進むような境目ではスピードに差があるため、音の進む方向が変わります。
もう少しイメージしやすいように、昼と夜で音の伝わり方を比べてみましょう。
昼は太陽の日差しによって、地面付近が暖められるため、上空ほど温度が低くなります。音の波ははじめ勢いよく飛び出してゆるやかな角度で進みますが、冷たい空気の中に入るにつれ、ゆっくりと上空へ逃げていきます。
一方、夜は地面から冷え込むため、上空ほど温度が高いです。はじめ急な角度で上空へ伝わった音が、だんだん緩やかな角度になりスピードを上げて遠くへ伝わります。音は次第に横へ広がるように伝わるため、遠くまで聞こえるようになるのです。特に冬は地上から冷え込む「放射冷却(夜間に地面から熱が逃げて冷える現象)」が強まるため、音は横へと広がりやすくなります。
つまり、1日の中では昼より夜、1年の中では夏より冬の方が音は遠くまで届くのです。
お散歩しながら探したい「音の風景」
冬に耳を澄ましながらお散歩するなら、海がおすすめです。人気の少ない静かな海は波の音がよく響きます。特に夕日の映える海で聴くさざ波の音は癒し効果抜群です。ザザーッ、ザザーッと一定のリズムで繰り返される音はとても心地が良いです。
海辺で楽しめる音の風景は、波だけではありません。かもめの鳴き声やバタバタッとした羽の音、船の汽笛にも耳を傾けてみてください。
海以外にも音を楽しむお散歩はあります。たとえば、公園などで落ち葉を踏みしめると聞こえるサクッサクッとした音は寒い時季ならではのものです。
大きな池のある公園ならボートに乗って、オールを漕ぐ音、水の跳ね返る音を楽しむのもいいですね。
最近はあまり聞かれなくなりましたが、トラックから聞こえる「石焼き芋」の呼び声に、「火の用~心、マッチ一本火事のもと~」なんて声も昔ながらの冬の風物詩です。
環境省の「音風景100選」を訪ねてみませんか?
日本全国には未来に残したい「音の風景」がたくさんあります。環境省は日本全国の地域のシンボルとして大切にされている音風景を「残したい日本の音風景100選」として認定しています。
たとえば、関東地方で認定されている音風景には、東京都葛飾区と千葉県松戸市を結ぶ「矢切の渡し」、埼玉県川越市のシンボル「時の鐘」や神奈川県川崎市の川崎大師で有名な「飴切りの音」などがあります。
なかでも、私のおすすめしたい音風景は東京・上野にある「上野のお山の時の鐘」です。ここでは1日に3度、午前6時、正午、午後6時に時を告げる鐘が撞かれます。ゴーンと響き渡る音は何だか懐かしく感じます。
このほか、全国各地には「オホーツク海の流氷のせめぎ合う音(北海道)」や「最上川河口の白鳥の鳴き声(山形県)」、「大井川鐡道のSL(静岡県)」、「京の竹林が風により生みだす音(京都府)」などさまざまな音風景があります。
1年で最も寒くなる季節、あたりの景色は少し寂し気になりますが、うさぎのように耳を澄ましながら、音風景を楽しむ散歩に出かけてみませんか?
写真・文=片山美紀