「いつでも、誰とでも」がコンセプト。北欧の家庭をイメージした温かみのあるインテリア
『シマダカフェ』があるのは神楽坂途中の見番横丁と呼ばれる脇道に沿って建つビルの中。エレベーターの扉が3階で開くと柔らかな空気が充満している。木材とファブリックを多用した北欧の家庭のようなインテリアが、訪れる人をリラックスさせてくれる。友人と訪れたら、おしゃべりが止まらなくなって、時間を忘れてしまいそうだ。
『シマダカフェ』を開いたのはかつて飯田橋でライブハウスを運営していた人たち。
「当時の神楽坂は『ちょっとカフェ行く?』と軽い気持ちで入れる雰囲気の店が少なかったんです。だから僕たちのこんなお店があったらいいなというお店を作りました」とオープン時からのスタッフで店長の岡田馨(おかだけい)さん。
ランチはもちろん、アルコールありの“夜お茶”、バーとしても使って欲しいという。ティータイムはもちろん、友人との食事のあとに話し足りないときなど、いつでも迎え入れてくれる使い勝手のいい店だ。
昼間は窓からたっぷり光が入って温かい雰囲気。日が落ちたあとは照明を落とし、テーブルにはキャンドルが灯る。
「昼に来店した方が、夜に来ると雰囲気が違ってびっくりされることもありますよ」
数カ月に渡った連日の試作。名物神楽坂フレンチトーストが誕生。
オープン当時は、カフェを作る準備を始めたものの当時のスタッフは飲食店の経験がない人たちばかり。「なにか看板メニューを作らないといけない」と目をつけたのが、神楽坂の他の店では提供されていなかったフレンチトーストだった。
岡田さん自身も未経験で取り組んだフレンチトーストの試作。当時を振り返る言葉に、生みの苦しみがうかがえた。
「何カ月も、毎日毎日フレンチトーストを試作して食べ続けました。配分はもちろん、焼く時間やオーブンの温度を変えて試し尽くしました。みんなで『これだ!』となったレシピが完成したときには、正直なところもうフレンチトーストは食べたくないと思ったほどです」
『シマダカフェ』のフレンチトーストは、フランスパンの中でも少し太めのバタールを使う。そのバタールをカットして1日以上乾燥させ、表面がカチカチになったのを確認。卵液に1日漬け込む。つまり仕込みだけで2日間以上かかっている。そして注文が入ったら高温のオーブンに入れて短時間で焼き上げる。
「完全に火が通って固まってしまう前にオーブンから出します。外がカリッとして、内部はプリンみたいに仕上がっています」
その言葉の通り、フレンチトーストは、外側の耳の部分だけ驚くほどカリッっとしている。そして内部はとろフル。口の中でそのコントラストを感じるのが楽しくなってしまう。添えられたアイスクリームやフルーツと一緒に食べれば、自然とニマニマ。
フレンチトーストは、プレーンやチョコレートなど常時4種類。そのうち1つは、春はいちご、夏はマンゴー、秋は梨、冬はりんごなど季節のメニュー。かわいい中に素朴さのあるデコレーションにも和む。全体的なメニューのテーマは「手づくりのあたたかさ」なのだそう。
ライブハウス時代からのメニュー初恋ソーダもここだけの味
神楽坂にある焙煎所から仕入れるコーヒー豆をフレンチプレスで淹れているなど、ドリンクのメニューも充実。その中でも気になるのが、初恋ソーダだ。以前運営していたライブハウスにもあったメニューで、『シマダカフェ』でも人気。ザクロとレモンを使ったソーダで、ザクロの甘味とレモンの酸味で奥行きのある甘酸っぱさに仕上げている。初恋の味と謳われる食べ物や飲み物は世にいくつもあるが、忘れていた恋の思い出がふと蘇ったときの感覚に近いような……。大人の方が楽しめる味かもしれない。
音楽にゆかりの深いスタッフが多い『シマダカフェ』。店内にある4つのスピーカーは、どの席に座ってもいい音で聞こえるように、ライブハウスで音響担当だったスタッフがずいぶん長い時間をかけて設置したとのこと。BGMの選曲も、岡田さんによるもの。
近隣の大学生を中心に女性客が多いとのことだが、「コロナ後は、パソコンに向かってリモートワークしている男性も増えました」とのこと。
やさしい空気に包まれる店内で、フレンチトーストの食感のコントラストを味わいたい。
取材・撮影・文=野崎さおり