フレンチ出身の店主が営むラーメン店
JR東中野駅の東口から1分ほど歩くと辿り着く『メンドコロ キナリ』は、2018年のオープン以来、行列が絶えない人気のラーメン店だ。全国各地から人々が訪れ、キャリーケースを引きながら訪れる人の姿も珍しくない。
「自分がラーメン店をやるとは思っていなかった」と話す店主の越川一彦さんは、もともとラーメンとは畑違いのフレンチ出身だ。かつて駒込で『メンドコロ キナリ』の前身である「麺処 きなり」を営んでいた前店主と知り合いで、東中野に移転をする際に誘いを受けたことを機に、ラーメンの世界へと飛び込んだ。
越川さんは「ラーメン作りは常に“この1分で何ができるか”を考え、時間に追い込まれているところが大変ですね」と、ラーメン作りならではの苦労を語る。その分、フレンチで学んだ技法をラーメンに生かしながら、自由な発想で他にはない独自性のあるラーメンを作り続けている。
どこまでも深い、濃口醤油ラーメン
同店では、濃口醤油、塩、山椒 白醤油という3種類の定番メニューに加え、季節ごとに限定のラーメンやつけ麺が加わる。この日は濃口醤油を注文してみることに。
“濃口”とうたっているように、濃いめの色味ながら透んだスープの中には、細麺とチャーシュー、鶏むね肉、穂先メンマなどの具材がバランスよくおさまっている。
濃口醤油は、20種類の醤油、15種類の塩を組み合わせた驚くほど重層的な“かえし”が決め手。対してスープは、煮干しをメインにした魚介系の出汁でスッキリとしたシンプルな味わいに。ここまで味わいを重ねるかえしはさぞかし手間暇がかかりそうだが「面倒なことをしてしまうのは、フレンチのクセかもしれません」と越川さんは笑う。
計算し尽くされたスープは、醤油と出汁が複雑で深みのある味わいを生み出しながら、決してくどくなく、心地よいキレを感じられる。口にしたあとも旨みの余韻を長く楽しめるので、満足感が高い。細くストレートな麺は食感がしっかりとした低加水麺にすることで、スープとよく絡み風味も豊かだ。
化学調味料を加えないから、罪悪感なく堪能できるところもうれしい。
1時間半ほど時間をかけてじっくりと火入れしたこだわりのチャーシューは、絶妙なレア加減で口の中でほどけていく。大ぶりの鶏むね肉は低温調理で仕上げることで、しっとりとした食感を楽しめる。ひとつの器の中で、豚、鶏それぞれの味わいをしっかりと噛みしめてみてほしい。
また、フレンチでは料理の香りづけなどにブランデーを使うことがあるが、同店のラーメンにはコクが出るよう隠し味にシェリー酒を使っているという。こうした随所に散りばめられたフレンチのエッセンスが、「また食べたい」と人々を魅了する理由なのかもしれない。
定番の3種類のラーメンはもちろんのこと、コンフィしたサンマを使った秋限定のラーメンや、赤味噌を使った冬限定の味噌ラーメンなど、季節ごとに入れ替わる同店ならではの季節限定メニューを心待ちにしているファンも多い。定番を食べ尽くしたあとは、季節限定メニューもぜひ味わってみよう。
取材・文・撮影=稲垣恵美