教師になるはずだった2代目店主・ダンさんが店を継ぐことになったワケとは?
1977年11月にオープンした『創作料理 ジジアンドババ』は、あと少しで創業から半世紀を迎える。この店の自慢のひとつは自家製ワインで、店内はワインレッド×白のテーブルやブドウの木を思わせるダークブラウンを基調とし落ち着いた雰囲気だ。
今はワインも楽しめる創作料理の店だが、もとは現オーナーの駒沢ダンさんのご両親が経営していた焙煎コーヒーとポテト料理の店だったという。
「店内に飾ってあるカップは、かつての喫茶店だった頃のもの。昔は100種くらいあってお客さんに好きなカップを選んでもらい、コーヒーを提供していたそうです。今はそういうサービスをしていませんが、ディスプレイとして飾っています」とダンさんは語る。
ダンさんがご両親からこの店を引き継いだのは2000年ごろだったそう。「大学卒業後、教師になるはずだったんですよ。とある進学校で教鞭を取ることが決まっていたんですが、『うちの先生になるならこの問題を解いてみてください』っていきなりテストを受けたらなんと平均点以下で。その結果、1年間契約が保留というか……(笑)」。
「その間店で働いていました。学生時代からこの店でバイトしていたんですが、ちょうどその頃、経営がかなり悪化していたというのもあり、教師になるのはやめて店を継ぐことにしました」。引き継いだといっても、それは形式上のことで、今もご両親はダンさんと一緒に店に立っている。
そして、ダンさんは経営を立て直すべくこれまでのスタイルを一新、店の居酒屋化を考えた。そこで注目したのが、ご両親の地元のグルメだった。
「父の地元は山形で、精肉関係をしている知人のツテで山形牛や山形紅花鶏のおいしい卵を。そして母の実家は山梨のブドウ農園で、親戚がワイナリーをやっているので、自家製のワインを、それぞれ取り寄せて提供することにしました」。
先代の名物・ポテトサラダも健在。具だくさんのデミたっぷりの牛100%ハンバーグ
ランチのメニュー表を見て筆者は天を仰いだ。ああ〜、みんな好きなヤツ! 牛ぐらい胃袋があったらよかったのに。
こんなときは、一番上に書いてあるものを選ぶ。お店の自信作はここにあるものだと信じているから。というわけでハンバーグチーズ風味デミグラスソース仕立て1150円をオーダーした。
ハンバーグは牛100%、軽くミンチにした肉を店で軽く叩いて牛肉の食感を残すようにしている。ミンチには玉ねぎ、セロリ、赤ワイン、パルメザンチーズ、全卵、パン粉を加え、よく混ぜ合わせる。
厨房でハンバーグをじっと見つめていたのに、デミグラスソースをかけサラダを従えた姿を見てハッとした。きれいだ! なんておいしそうなんだ……。
「ハンバーグのソースには自家製ワインを使っています。トマトホール缶、ナポリタンソース、中濃ソース、バター、胡椒、赤ワインなどでデミを伸ばす。デミは玉ねぎ、セロリ、人参、などをミキサーでピューレにし、牛肉のブイヨンで伸ばしています」とダンさん。なかなか手が込んでいる。
ふんわりとしたハンバーグは、牛の旨味がたっぷり。ワインの香りが鼻をくすぐって上品な味わいだ。デミグラスソースの酸味がハンバーグの旨味を引き立てる。う〜ん、これはおいしい。マッシュルームやジャガイモ、牛スジ肉など具材がいっぱい入ってお得感もある。そしてシャキシャキのサラダ、やさしい酸味のピクルス、そしてコクがあるクリーミーなポテサラと付け合わせもぬかりない。
するとダンさんが補足してくれる。「ポテサラには北海道・羊蹄山麓のじゃがいも、山梨産のジューシーなハム、バター、キュウリ、ゆで卵、セロリ、パセリなど10種ほどの具材を混ぜています。また、自家製の酸味の少ないマヨネーズを使っているのもポイントです」。
クリーミーで具が多め、コクもあるけど酸味もある筆者好みのタイプ。もう、さっきのボウルごと食べたい。こうして、ひとつひとつ噛みしめながら満喫し本日の有意義なランチは終わった。ごちそうさまでした!
常連客のみなさんが師匠。今も残る「サービスするには繁盛しなければならない」という言葉。
店を引き継ぐにあたり、経営だけでなく厨房でも鍋をふるうことになったダンさん。ご両親から料理の基本とアイデアを身につけたそうだ。
「店の経営は常連のお客さんから学ばせてもらった。厳しくもやさしい言葉を多くいただき、本当にみなさんには可愛がってもらいました」とダンさんは当時を振り返る。
日本の名だたる企業がひしめく日本橋エリアだけに、常連のなかには誰もが知っている大企業に勤務する方々も多数いる。
「ある証券会社の役員の方がおっしゃった、『サービスするには繁盛しなければならない。いちばんのサービスはコスパがいいことだ』という言葉は今も胸に残っています」。
その方は「偉そうなこと言うけどその代わりいっぱい店に来るから」と、毎日のように会社の仲間と訪れて食事をしてくれたそうだ。この言葉を胸に秘めたダンさんは、今も儲けよりお客様の満足感を優先してしまうのだそう。一般的に飲食店の原価率は30%と言われるなか、『ジジアンドババ』の原価率は驚異の45%だ。
コスパの良さは写真を見てもわかるだろう。お客様の満足度を第一に考えてくれるこの店。アットホームで温かい雰囲気に包まれ、ボリューム満点の料理を食べればたちまちパワーチャージ完了。午後の仕事もサクサク進むはずだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢