レトロでキュート。店の中を歩くだけでワクワク
『daidai』が入居しているのは、昭和の香りが漂う古いアパートの1階。時間の経過を感じさせる建物と明るいオレンジ色をした店の入り口が、不思議なほどしっくりくるのは、この場所で営業を始めて20年以上が経過しているからだろう。
店のコンセプトはおもちゃ箱をひっくり返したような古着店。店内に入ってみると、カラフルでキュートなモチーフがあちこちに。
店内を歩いたり、洋服を手に取ったりして感じるワクワクは、どこかで感じたことがある。子供のころにアメリカのアニメを見たときの気持ちかもしれない。朗らかで開放的な雰囲気への憧れだ。
カルチャー発信地として高円寺で20年以上
『daidai』を運営するホットワイヤーグループの代表取締役は佐久間ヒロコさん。タウン誌『SHOW-OFF(ショウオフ)』の編集長や『高円寺フェス』の仕掛け人としても知られ、高円寺のカルチャーを引っ張ってきた。
「1995年に古着屋の1号店を開いたとき、高円寺の古着屋さんは5~6店舗ほどでした。それから5年経った2000年には100店舗近く。すごい成長率でした」と佐久間さんは振り返る。
高円寺に古着店が増えるのに伴って、店舗の売り上げも上がったことに気づいた。
「お店が増えると、集まってくる人も増えますよね。だから情報を発信したら、もっと人がやってくるだろうと始めたのがタウン誌『SHOW-OFF』です。もう20年以上続いています」
『SHOW-OFF』のスタートと前後して、佐久間さんは何軒かお店をオープンさせた。しかし今、店舗のある古着店は『daidai』のみ。近年、佐久間さんは地域活性の仕事に軸を置いていることと、各店の責任者たちに結婚や出産のタイミングが訪れて、営業を終了することになったためだ。
愛ある店長が作る世界から次のストーリーをつなぐ人へ
なぜ『daidai』は今も続いているのか。その理由を尋ねると「それは彼女がいてくれるから」と佐久間さんは答えた。『daidai』の店長を17年ほど続ける小嶋美緒さんのことだ。
小嶋さんが入る以前は、カラフルではあったものの、もう少しカジュアルなイメージだったとのこと。オープンから数年後に小嶋さんが『daidai』の店長になってからは、彼女が独自の世界感を作り上げてきた。刺繍やパッチワーク、いちごやアニマルモチーフなどファンシーでレトロなアイテムが揃い、今や店内はまるで“かわいい”が充満しているかのよう。「でも少しだけ毒があるところがポイントです」と小嶋さん。
取り扱っているのは、ブランドものばかりではない。中には、ハンドメイドのアイテムもある。買い付け先は、アメリカ・西海岸が中心。「ひとつひとつどんな人から買ったか、だいたい覚えています」と小嶋さんは話す。
オンラインショップに掲載するときは、絵柄に合わせて「ころころくまちゃんの雪遊び」などとタイトルを付けることもある。扱う商品がたくさんあるなかで、どのアイテムも好きになってくれる人に向けて大切に送り出そうと気持ちを込めているのだろう。
客層は30代や40代が中心。学生時代には古着をよく着ていたが、社会人になってから離れていた人が、改めて自分の好みにあったかわいい服を求めて店を訪れる。日本の各地はもちろん、コロナ以前にはアジア各国からの観光客も『daidai』の世界観を感じて、持ち帰ろうと高円寺を訪れていた。
「日常的に着る方もいますし、テーマパークや、ハロウィンやクリスマスのパーティーにいくためにカラフルな洋服を探しに来る方も多いです。服は買わないけれど、食器やブランケットなどのグッズで、お部屋をかわいくなさっている方もいますよ」と小嶋さん。
『daidai』で買われたアイテムは、購入者の手元でストーリーが続くのだ。
「よく古着とリサイクルは違うという話をします。リサイクルはいらなくなったものを誰かがもう一度使うのに対して、古着は希少性があって、すごく欲しいと思っている人が手にするものです」と佐久間さん。背景も伝わるような『daidai』のアイテムは、セーターひとつ取っても、大量生産されるファストファッションの商品とはまるで違う世界にあるのかもしれない。
佐久間さんがスタートさせ、小嶋さんが作りあげてきた『daidai』。アイテムに込められた仕事ぶりや思いは、お店を中継して次に手に取る人に受け継がれていくようだ。
取材・撮影・文=野崎さおり