石神井住民に愛されたおいしさ

あえて断言してしまうが、シュークリームが嫌いな人はいない。もちろん、食材アレルギーなどの事情がある場合は除いて。サクッとした生地を噛んだ瞬間、口の中に飛び込んでくるカスタードクリーム。バニラの香りをまといながら、口に広がる柔らかな甘みは、食べている人の気持を瞬時にとろけさせる。

シュークリームは1個120円。
シュークリームは1個120円。

『ベルナールハラ』のシュークリームは生地がサックリしている。この食感が、かぶりついた瞬間に気持ちを高揚させる。中はカスタードと生クリームのダブル。しかしどちらも軽やかで、ベッタリした甘さはない。その食感とも相まって、何個でも食べられそうなおいしさで、店の看板商品になっている。

このシュークリームが食べられる『ベルナールハラ』だが、駅からは少し離れている。西武池袋線の石神井公園駅から練馬高野台駅方面へ伸びる長命寺通り沿いで、歩くと7分ほどかかる。今でこそ、新しい住宅が並ぶ静かなエリアだが、かつては人通りの多い通りで、商店街が形成されていた。それが変わったのは、練馬高野台駅ができたことが大きい。

長命寺通り。商店はポツポツ残っている。
長命寺通り。商店はポツポツ残っている。

石神井公園駅から1つ池袋寄りの練馬高野台駅は、1994年に開業した。現在の練馬高野台駅エリアの住民は、電車を使うのに石神井公園駅まで長命寺通りを歩いていかなければならなかったが、練馬高野台駅ができたことで、その必要がなくなった。合わせて高架となった新たな線路沿いに道路が作られ、そちらを使う人も増えた。西武鉄道の開発によって高野台住民は便利になったのだが、長命寺通りの人通りはガクンと減ってしまったのだ。

なぜガラスケース?

『ベルナールハラ』が開業したのは、1984年のこと。それまでは食料品店で、仕入れたパンでサンドイッチなどを作って売っていたが、初代の原喜代次さんが「自分でパンを焼いてみたい」と一念発起して、ベーカリーに転身した。以来、店の周囲の環境は大きく変わったが、地元住民に長く愛されてきた。

ちなみに『ベルナールハラ』のパンは、ガラスケースに収納されている。対面販売ではガラスケースはよく見るが、陳列式では珍しいので理由を聞いてみると「土ぼこりを避けるため」なんだとか。

ラッピングされたパンはテーブル上に。
ラッピングされたパンはテーブル上に。

今でこそ減ったが、かつて周囲には畑が多かった。春先、風が強く吹くと土ぼこりが店内に入ってくるので、パンを守るためにガラスケースを導入したのだ。今でも目の前には畑があり、北風が強く吹くとほこりが舞うという。かつては農村地帯だった、石神井らしい理由である。

店の前に広がる畑。
店の前に広がる畑。

まじめに作り続けたおいしいパン

さて、『ベルナールハラ』はシュークリームだけでなく、パンももちろんおいしい。店頭にうたっているように、酵母はホシノ天然酵母を使用。手間をかけて作られた食パンは、気泡の入った軽やかな食感で、穏やかながらも、なんとも深い旨みがある。天然酵母使用は、喜代次さんの頃から。天然酵母は発酵に要する時間が長いため手間がかかるが、そのときからまじめにパン作りに取り組んできたのだ。

天然酵母食パンは1斤291円(税込み)。
天然酵母食パンは1斤291円(税込み)。
上海焼きそばパンは151円(税込み)。包まれているから麺がもっちり。
上海焼きそばパンは151円(税込み)。包まれているから麺がもっちり。

パンのラインナップもカレーパンやクリームパンなど定番以外に、ハード系のパンを使った総菜ものなど幅広い。焼きそばパンも焼きそばをパンで包むタイプだったりと、いろいろ細かい工夫がされている。駅から遠く、今ではポツンとな立地となってしまった『ベルナールハラ』だが、まじめにおいしいパンを焼き続けてきたからこそ、今も地元住民に愛されているのだ。

駅からは離れているが、店の周辺は新しい戸建住宅やマンションができ、若い住民が増えている。また、外国人住民も増え、店に来てくれる人も変わりつつあるようだ。

現在、石神井公園の駅前では大規模な再開発が動き出し、高層ビルが建つようだ。街は徐々に変わりつつある。地元住民だけではなく、『ベルナールハラ』のおいしさが広く知られるようになるかもしれない。

住所:東京都練馬区石神井町2-1-9/営業時間:11:00~20:00/定休日:日/アクセス:西武鉄道池袋線石神井公園駅から徒歩7分

取材・撮影・文=本橋隆司