居酒屋の営業後からオープンする隠れ家的ラーメン店
中野駅の北口から歩くこと約2分。小路を進んだ先にある居酒屋の営業終了後に、深夜からひっそりとオープンする『麺屋Cage』。翌日の早朝まで、ラーメンと数種類のおつまみ、アルコールを提供するラーメン居酒屋だ。店は店主の浅場(あさば)さんが一人で切り盛りしている。
これまで自然食のレストランや家系ラーメンの店、餃子バーなど、さまざまなジャンルの飲食店で腕を磨いてきた浅場さん。店を訪ねる前に浮かんだ「なぜ深夜にラーメン店を?」という疑問をぶつけてみた。
「もともとラーメンが好きだったこともあって、自分でラーメン店をやってみたいという気持ちはあったんです。ただ、なかなかタイミングが合わず実現できずにいました。そんなとき、餃子バーを離れたタイミングで知人から誘いがあり、月1回くらいのペースで知人の店を間借りしてイベント的にラーメン店を開くことになりました。当時も深夜帯の営業でしたが、想像以上に大盛況だったんです。それを見て“次はうちでやってよ!”と声をかけてもらえることが続いて。“これならラーメン店を開けるかも”という気持ちが出てきました」
そんな中、タイミングよく中野で間借りの話が舞い込んできたため、意を決して『麺屋Cage』をオープン。2019年に南口にある店でスタートし、2020年に現在の場所へ移転。
コロナ禍が始まった頃のオープン、それも深夜帯の営業ということもあり、しばらくはお客のほとんどが知人だったものの、今年に入ってからは新しいお客も増え少しずつ認知度が高まってきたそうだ。
限られた空間で、最大限のおいしさを追求
店内はカウンター席が中心で、全10席ほどのこぢんまりとした空間。居酒屋の雰囲気そのままに営業しているからか、まさに知る人ぞ知るラーメン店といった雰囲気を醸し出している。
厨房は居酒屋の仕様となっているため、ラーメンを作る設備が万全に整っているわけではない。そのため、仕込みは基本的に店のすぐ近くにある自宅で行っている。その中でも、自家製チャーシューは8時間じっくりと低温調理で仕上げるなど手間暇は惜しまない。
限られたスペースや調理器具を使うため、ラーメン一杯を作るのに時間はかかるが、初めて来店する人には事前に伝えて了承を得る。大人数で来たときは一人ひとりの提供時間に差が出てしまうため、お酒を飲みながらのんびりと待つのがベストだ。
一口目からほっこり。体に染みわたるあごだし和風ラーメン
基本のメニューは、あごだし和風ラーメンとあごだし豚骨ラーメンの2種類。今回は、看板メニューのあごだし和風ラーメンを注文した。
テーブルに運ばれてきた瞬間にあごだしの良い香りがふわりと漂ってきて、それだけで気持ちが安らいでしまう。
自身は「家系ラーメン好き」だという浅場さんだが、パンチの効いたラーメンを提供する店も多い中野で「飲んだあとに食べられるラーメンを」と考えた末、さっぱりとした味わいを追求したあごだし和風ラーメンで勝負しようと決めた。
黄金色の美しいスープをすくって口に運ぶと、たちまち染み渡るような優しい味わいが体中を巡るように感じた。さっぱりとしているが、あごだしの旨みとコクがギュッと凝縮しているので物足りなさはない。むしろ濃厚にさえ感じてくるから不思議だ。また、柔らかな自家製チャーシュー、大ぶりでしっかりとした味付けのメンマ、食感の良い水菜や白髪ねぎなど具材のバランスも絶妙。
トッピングで追加した煮卵は、酢を加えているためほんのりと酸味も感じられて、さっぱりとしたスープには最適なアクセントになる。
お酒を飲んだあとの〆や早朝にラーメンを食べたいときにも、このラーメンならしっかりと満足感があり、なおかつ罪悪感なく食べられそうだ。もちろん「飲み足りない」というときには、アルコールメニューがあるので居酒屋のようにも利用できる。深夜営業のラーメン店は、意外にもさまざまなシチュエーションで立ち寄れるのかもしれない。
また、この店のもう一つの魅力が浅場さんの豊富な経験を生かして作る期間限定メニュー。春にはピンク色のスープが美しい桜ラーメンや、夏には爽やかな冷やしジェノベーゼラーメンなど、季節ごとに展開する斬新なメニューからも目が離せない。
中野で飲んだあとは、ラーメン居酒屋の『麺屋Cage』を2軒目にしてみては?
取材・文・撮影=稲垣恵美