ボディメイクのインストラクターが副業で開いた旨辛の味噌ラーメン店
品川駅港南口前から伸びる道路と旧海岸通りがぶつかる角に『芝浦食肉市場直送 品川ホルモン』がある。その店舗を間借りし、ランチタイムだけ営業している味噌ラーメン専門店が『みそちゃんぺ』である。
店主の福田豊樹さんは、引き締まったボディとこんがり焼けた肌、澄んだ目をしていて、物腰も柔らかく丁寧だ。これまでお邪魔してきたラーメン店の方々とはちょっと違う。なんというか、爽やかすぎる好青年だ!
聞けば、ボディメイク系のインストラクターをしているそうだ。「もともと横浜でヨガスタジオを経営していたんです。ところがコロナになってレッスンが減ってしまい、空いた時間で副業ができないかなというのと、辛い味噌ラーメンが好きなのですが満足いくラーメンが少なかったので、自分の店を出せないかなというところがスタートでした」と福田さん。スタジオはビルの取り壊しのため閉店し、現在は『みそちゃんぺ』一筋だ。
ちなみに福田さんはインストラクターの傍ら、身体的な健康美を競う『ベストボディジャパン』に出場し、長野県大会優勝の経歴を持つ。
ところで、この店のオーナーとはどういう関係なんですか? 「まったく面識はありませんでした(笑)。超高層オフィスビル群になった品川港南口は働く人口のわりに飲食店が少なく、高架下にあったラーメン専門店街「品達」も撤退してしまったので、ラーメン店をやるなら品川だ! と思ったんです。最初にInstagramのDMからオーナーへ『ラーメンやらせてください』と連絡しました。その後、お店にお邪魔して直談判の末OKをいただきました」と福田さん。その行動力を見習いたい!
そして、「当時、オーナーには『もし1カ月後に来ていたら断っていたと思うよ』って言われました。本当にいいタイミングでした!」と福田さんはさわやかな笑顔で語る。
そして出店にむけて約半年間、メニュー開発を続けた。何度もオーナーに試食をしてもらったそうだが、「なかなかおいしいとは言ってもらえず、ダメ出しばかりでしたね」と当時を振り返る。その努力の甲斐があって2021年5月に『みそちゃんぺ』がオープン。
「でも、はじめはアルバイトの人員確保に苦労しました。2022年に入って大手ラーメンチェーンで12年勤務経験があるという杉山智さん(通称:杉さん)が入ってくれたことにより、安定した営業ができるようになりました」。
辛味、旨味、甘味のバランスがちょうどいい“ベストボディ”なみそラーメン
『みそちゃんぺ』では、辛さゼロから7段階で徐々に刺激が強くなる。メニューに書かれたコメントを見ながら、この店の魅力を知るには旨辛のベスボ900円がいいだろうと判断した。
福田さんも「ベストボディの略で“ベスボ”と名付けました。『ベストボディジャパン』の審査では筋肉のカット、ポージング、ルックスで審査されるんですが、ラーメンのほうは辛味、旨味、甘みのバランスがいいメニューです。うちの味を知ってもらうにはいいかもしれないです!」
「ベスボはピリ辛のマーボみそタンメンに、ウチの激辛メニューの逆鱗の肉が乗っているんです」と福田さんがニヤリ。厨房に入ってトルクメニスタンの地獄の門みたいなマーボ豆腐や真っ赤に煮込まれた肉を見るとちょっと怯んだ。
丼にれんげが添えられて着丼。ぷーんと唐辛子の香りが辛くておいしそうだ。肉と野菜がたっぷり摂れて栄養バランスがいいかも。では、いただきます!
まあ、辛いって言ったってね……。なんてタカをくくっていた筆者。無防備にレンゲでスープを飲み、ごあいさつ代わりにむせてみた。うわ〜、うっかり逆鱗のところのスープをすくっちゃったよ。めっっっちゃ辛い。
ひととおり単品で楽しんだ後はよく混ぜて食べてみた。うんうん、確かに辛味、旨味、甘みがベストなバランス。これはいいぞ! テンポよくズビズバ、ムシャムシャ食べていたら、たまに意識高めの逆鱗の肉が筆者の舌を襲ってきておどろいた。むせて店内の壁を汚すところだった。スープは味噌の香りが強く塩気は若干抑えめな気がして、ゴクゴク飲める。辛いけど止まらな〜い。口の中は熱を持っているので、キンキンのお冷やが何よりのごちそうだった。
定番だけでは満足できない人に! 期間限定麺もナイスポーズで営業中
福田さんはボディメイクのインストラクターだというが、ラーメンは均整が取れた体づくりには大敵ではないのだろうか?
「大敵ですよー。でも、変に食事制限をするよりはしっかり食べてその分トレーニングをした方が肌のハリも良くなりますし、筋肉にとってもいい効果があるので。ウチはちょっと量が多めだと思います」。
定番もさることながら、期間限定のメニューも常連にとっては密かな楽しみ。これはラーメン業界を知り尽くした杉さんのアドバイスからはじめた取り組みだという。2022年の夏はつけめんが大当たり!
「杉さんとの出会いは心強かったですね! 僕は飲食店をやるのが初めてでしたから、杉さんがなんでも教えてくれるし、ラーメンの味についてもアドバイスをくれます。期間限定メニューのアイデアも杉さんから出たもので、10〜11月はジャジャン麺、12〜翌年6月はちゃんぽんを出すんです。僕と杉さんはラーメン好きでトレーニング好きというのも似ているんです」と福田さん。
それに対し、杉さんは「僕はただの接客係なので、自由に楽しく仕事させてもらっています。お客さんとコミュニケーションを取りながら、“ねえ、どんなみそラーメン食べてみたい?”ってリサーチして、それを福田さんに伝えてるだけ」とはにかんでいた。
2人があうんの呼吸で盛り立てている『みそちゃんぺ』。「ラーメン店も営業しつつ、また新たなボディメイクスタジオを設立しようと思っているんです」と、福田さんの夢は大きく膨らんでいく。健康美を目指したい人でも、罪悪感なく食べられるラーメンがあったらそりゃあ願ったり叶ったり。いつか、トレーニングしたら『みそちゃんぺ』のラーメンが食べられる、なんていうジムがオープンしたら面白いな。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢