【OMO5(おも)金沢片町 by 星野リゾート】風情ある都市のグルメタウン
東京駅から2時間半ほどで金沢駅に到着。ガラス屋根に覆われたもてなしドームから木造の鼓門をくぐる。金沢らしく曇天だ。
撮影機材があるのでタクシーに乗り込む。行き先を告げるなり「星野リゾートさんはお高いんでしょう。」と言う運転手さんに、これまでの取材の成果をここぞとばかりに披露する。星野リゾートブランドといえどOMOの敷居は高くないのだ。
ホテル正面の竪町通りが車両通行止めの時間帯だったので、近くで降ろしてもらう。「あっぱれ!味のかたまち」がコンセプトのとおり、『OMO5(おも)金沢片町』がある片町エリアは北陸屈指のグルメタウン。食いしん坊と飲んべえにはグッとくる場所だ。
セルフチェックインを済ませて荷物を置いたら、予約した和菓子作りのアクティビティの時間まで「OMOベース」を探検。フロントにOMOカフェ、ライブラリー、それからご近所マップを備えた1階全体のパブリックスペースをそう呼ぶそうだ。
OMOカフェで本を読みながら寛ぐ人が目に入る。カフェに設置されたライブラリーは歴史から伝統芸能、アート、和菓子に酒、地元料理まで、いろいろな角度から金沢を味わう本がセレクトされている。和菓子の本をパラパラめくっていると、「生らくがん作り体験」の準備がはじまった。
金沢の伝統銘菓とお茶文化に触れよう!
OMOベースで開催される宿泊客向けのアクティビティには、要予約の「生らくがん作り体験」と、予約不要の「いいじな棒茶の飲み比べ体験」がある。「いいじ」とは棒茶の種類かと思いきや、「良い」とか「素敵」という意味を持つ金沢の方言だそうだ。『OMO5金沢片町』では朝食からカフェタイム、物販にも登場する棒茶は、ほうじ茶の一種。ホテル近くにある老舗茶店『野田屋茶店』の茶葉で淹れたお茶を飲み比べることができる。
生らくがんとは乾燥させずにしっとりとした口当たりを楽しむらくがんのこと。嘉永2年(1849)に創業した金沢の老舗和菓子店『落雁 諸江屋(らくがん もろえや)』の指南を受けたホテルスタッフ、通称「OMOレンジャー」が作り方を教えてくれる。
「生らくがん作り体験」は、『落雁 諸江屋』の落雁(らくがん)の試食からはじまった。生ではなく、乾燥させた一般的な落雁だ。さらりとして口溶けがよい。品のいい甘さだ。「これから皆さんがつくる生らくがんは、この落雁とは全然違います。楽しみにしていてくださいね」。OMOレンジャーの台詞に一同期待が高まる。
用意された材料は、白あん、あん玉、和三盆糖、それから餅を白焼きして粉にした寒梅粉。
まずはボウルで白あんをすり混ぜ、和三盆糖を加えてさらに混ぜる。寒梅粉の半量を入れてなじませ、残りも加えて混ぜたら、ふるいで生地をこす。さらさらで、どうにもまとまる気がしないがOMOレンジャーからOKが出たのでこれでいいらしい。
いよいよ仕上げだ。2個作れるそうなので、10個の型の中からまずはOMOオリジナルの型を選ぶ。ひらがなの「おも」のデザインがかわいい。写真用に一つは成功しないといけないので、もうひとつは型抜きが簡単だという梅の花を選んだ。
型の1/3くらいまで生地を入れたらあん玉を押し込み、その上に生地をたっぷり入れてすり切る。押し型をグッと押して型を引き上げるのだが、崩れそうで怖い。そのまま固まっていたらOMOレンジャーに優しく促され、思い切って型を外す。「も」が少し崩れてしまったけれど、まずまずの出来。
少しコツをつかんでのぞんだ梅の方はうまくできた。簡単な型も選んでおいてよかった。
あんなにさらさらしていたのに、できあがった生らくがんはしっかり形を保ち、手でつかんでも崩れない。試食してみると、しっとりしているのはもちろんだが、出来たてだからだろうか、素材の風味がしっかり感じられる。作りたての生らくがんを食べたのははじめて。貴重な体験に大満足だ。
「いいじな棒茶の飲み比べ体験」は予約不要なので、空き時間を有効に使いたいときにぴったり。開始時間の少し前にOMOベースへ行くと、お茶の準備が始まっていた。ホテルを背に右手に5分ほど歩いた場所にある、創業安政6年(1859)の『野田屋茶店』の手ほどきを受けたOMOレンジャーが着ている法被も、掲げている暖簾も同店から借りたものだという。ご近所とのよい関係が垣間見える。
加賀棒茶のクイズでひとしきり盛り上がった後は、深蒸し茶、浅煎りの加賀棒茶「極」、香ばしく煎った「薫」を飲み比べ。「極」は甘く、「薫」は香ばしい。深蒸し茶は爽やかだ。「薫」はOMO限定パッケージでティーバッグ1つ入りから販売されていたので、滞在中の執筆仕事に備えてひとパック求めた。
北陸随一のグルメタウンにでかけよう
生らくがん作りの体験の後、続けて予約していた「金沢片町味わいまっし散歩」(開催時間16:00~17:00/料金は無料)。まっしとは、~してくださいという意味を持つ金沢の方言。片町でのグルメ情報も詰まったガイドツアーとのことで、今晩の行き先を決めるべく参加した。
まずはホテルを背に左手に進み新天地へ向かう。
新天地飲食街の奥にある金沢中央味食街が、昭和の飲み屋街の雰囲気がありすぎて映画のロケ地のようだ。たまきちさんの行きつけだというビアバー『びあだるBJ』をメモする。今日の最初の一杯はここにしよう。
続いて木倉町へ進む。少し前まで焼き鳥屋がなかったというやきとり横丁には、2店舗の焼き鳥屋がオープンしていた。2軒目はこのどちらかに。途中、「旧」の字が微妙に消してある木倉町の石碑に遭遇した。たまきちさんによれば、過去に一度消えた「木倉町」の名を復活させたそうで、その際、石碑から旧の字を消したのだとか。柿木畠にも同じような石碑があるという。それにしてもこの消し方。味がある。
ここからがらりと雰囲気が変わり、長町武家屋敷跡地へ向かう。門を境にまるで違う街みたいだ。
あまりの違いに戸惑いつつも風情を楽しんでいると、まもなくして『茶菓工房たろう』に到着した。たまきちさんと店長が旧知の友人のように歓談している。『OMO5金沢片町』が開いてからさほど経っていないというのに、街に馴染みきっているではないか。
店では普段試食を出すことはないが、OMOツアー参加者にだけ特別にということで、3種類もふるまってくれた。無料ツアーなのにいいのだろうか。店の代名詞である「たろうのようかん」のカカオチョコとホワイトチョコ、それからシャリッとした食感が涼しげな錦玉糖「もりの音」、きなことマカダミアナッツの干菓子「地の香」。それぞれ食感も風味も全く異なり楽しい。パッケージもかわいいのでお土産用に一つずつ購入した。
ヨーロッパの雰囲気を感じるせせらぎ通りを抜けてホテルへ戻ると、タイムトラベルから戻ったかのような不思議な感覚。片町は角を曲がる度表情が変わる。
ひと休みしてから、教えてもらった店を目当てに夜の片町へ向かう。飲んで食べて雰囲気を味わって。結局3軒はしごした。
明日も遊ぶぞ!ホテルに帰って相談しよう!
散々飲んで食べてホテルに戻ったら、スタッフのリアルなおすすめ情報が載るご近所マップを参考に、軽く明日の計画を立ててから部屋へ引き上げた。
私が泊まったのは大きなデスクのあるダブルルーム。資料やPCを目一杯広げて、早速執筆を開始する。雪釣りをモチーフにしたカーテンを眺め、九谷焼の湯飲みで加賀棒茶を飲む。部屋にいても片町を感じさせる心憎い演出だ。
客室は6タイプ全101室あり、最大で5名まで泊まれるOMOハウスにはキッチンも備えられている。1階にはランドリーもあるので長期滞在にもよさそうだ。個人的にはスーペリアルームに洗面台が2台あるのがツボ。3人で泊まっても洗面台が混まないのはうれしい。
片町の食が「OMOカフェ」でも楽しめるのだ
OMOに続く数字はサービスの幅を表すもので、OMO5にはカフェが併設されている。OMOカフェの朝食はどこも気合いが入っているので、楽しみに早起きして1階のカフェへ向かう。朝の光がきれいに入り清々しい。
色とりどりのフレーバーウォーターもサラダもスープも、目に美しく、飲んだ翌朝の胃に優しい。メインは来る前から食べようと決めていた金沢片町限定の「棒茶と生麩のリゾット」。湯葉で包まれたご飯に、棒茶が香る出汁の餡がとろりと絡まる。三つ葉とわさびのアクセントが効いている。カリカリのぶぶあられをまぶした、もちっとした食感の棒生麩も贅沢だ。
食後に棒茶を飲んだところで『野田屋茶店』の加賀棒茶をお土産にしようと思っていたことを思い出す。忘れないうちにOMOのロゴ入りの大入りを求めた。
棒茶を買う際、客室に置かれた九谷焼の湯飲みが素敵だったと伝えると、湯呑でもそばちょことしても使えるオリジナル商品で、普段使いできる九谷焼を提案している『KUTANI SEAL SHOP』とコラボしたものだと教えてくれた。物販にもあると勧められて眺めていると、カフェで使っている器もすべて地元作家さんオリジナルの九谷焼とのこと。コンセプトの「あっぱれ!味のかたまち」の味には、器の味わいも含まれるということだ。
最後まで「うれしい」がいっぱい
お土産もパッキングしてチェックアウトの準備完了。ホテルから徒歩圏内にある金沢21世紀美術館や兼六園、それからご近所マップで見つけた店へも寄ってから駅へ向かいたいので、荷物は一階のコインロッカーへ。チェックアウトもセルフでできるので気楽だ。
スタッフとのほどよい距離感が心地よく、人と絡むのが煩わしい人は会話を交わさずにチェックインからチェックアウトまで済ませられるし、しゃべりたい人はOMOレンジャーとのコミュニケーションを楽しめる。
滞在2日目も楽しみ尽くしてロッカーに荷物を取りに戻り、ついでにカフェタイムを楽しもうと席に座ると、先客に声をかけられた。昨日の3軒目、OMOから徒歩2分ほどの場所にある『和ダイニング しろべえ』の店主だ。よくOMOカフェでひと息つくそうで、ひとしきり盛り上がる。地元の人とふれあいたい自分のような人間にもOMOはぴったりなのだ。
『OMO5(おも)金沢片町 by 星野リゾート』施設詳細
取材・文=原亜樹子 写真=井原淳一