1997年オープン、御徒町駅前の魚介専門店『吉池』の直営店。『吉池』は今年で100周年を迎える老舗だ。北海道の別海町に自社の水産加工場を持ち、新鮮な鮭を塩鮭や紅鮭に加工。現在ではサンマ、イワシ、サクラマスなどの加工品も作っている。そんな道東の海の幸と、新潟越後の地酒を全面的に押し出した店が、ここ『味の笛』だ。新潟は創業者の故郷。郷土愛と酒への愛情あふれるラインナップだ。

御徒町の南口からすぐのガード下、1階は70人ほど入れる立ち飲み席で、2階は50席のテーブル席。奥のカウンターに並べられたパック詰めの肴を、酒と一緒にその場で買い、店内の好きな場所で食べられる。気楽なキャッシュオンのスタイルだ。

「新潟でもこの価格では飲めません」

つまみの種類は新鮮な刺身はもちろん、干物やかまぼこなどの練り物、焼き鳥、煮込み料理などバラエティも豊富。煮込みなど温かい料理は、ちゃんと温めて出してくれるので、熱々が食べられるのも嬉しい。惣菜は一人分に小分けされ、200円から用意されているので、2、3品選んでハイボール1杯200円を飲んでも1000円でお釣りがくる。俗に言う「せんべろ」の店としても、人気が高い。

看板に「越後の地酒」とあるので自慢の地酒はぜひ味わってみたい。おすすめを、新潟出身の取締役で食堂部長・藤沢英次さんに聞いてみた。「リーズナブルな価格で飲める上越の『越の白鳥』と、佐渡の銘酒『北雪金星』(各1瓶350円)をぜひ飲んでみてください。新潟でもこの価格では飲めません」と自信たっぷりに教えてくれた。ブルーとグリーンのガラス瓶に入った日本酒は見た目も美しい。

また、「数十種類を揃える地酒から何を選んでよいか迷っている人には、越後の銘酒3点セット1200円をおすすめします」と藤沢さんは話す。店内には地酒の銘柄を書いた札が壁一面に貼られており、どれを選んでよいのか迷ってしまう。好きな地酒3種類を選んで飲み比べができる。日本酒は一升瓶からコップに溢れるほど注がれる「升酒」スタイルだ。

北海道別海町のごちそうを味わう

料理では刺身2点盛り400円は外せないが、別海の水産加工場から直送された干物もぜひ味わってほしい。真いわし一夜干300円、こまいやさばの一夜干しは各300円。脂がのって塩味が効いたサクラマスの一夜干しは800円。2人でシェアして食べるのがちょうどいい大きさだ。

『味の笛』という店名は、『吉池』の鮭加工場の近くを流れる西別川に伝わる伝説に由来している。西別川は、昔から特に良質な鮭が獲れると知られている。それは上流に秘密があるという。西別川の源流は「神秘の湖」と呼ばれる摩周湖。川の上流は伏流水となっており、川底にある「味の笛」と呼ばれる筒状の化石を通り抜けると、ただでさえ清冽な水が、より磨かれておいしくなるそうだ。この川で生まれた鮭が回帰して、その水を一口飲むと、特においしくなると伝えられている。世界有数の透明度を誇る摩周湖と、極寒の地・道東の豊かな自然、そして伝統的な製法で鮭を加工する人の手が生んだ特別な「ごちそう」だ。

別海町の「ごちそう」は魚介だけじゃない。別海バター使用じゃがバター300円を注文してみた。待つこと数分「じゃがバターのお客様!」の声と共に、熱々のじゃがバターがテーブルに運ばれた。北海道産の男爵芋を皮付きのまま4等分。そこに熱いバターがかかっているが、これがたまらなく濃厚で美味。ホクホクのじゃがいもは塩も醤油もいらず、バターのみで食べられてしまう。さらに温かい料理を食べたいなら、味の笛汁400円もおすすめ。塩気の強い鮭に、ごぼうや大根、じゃがいもといった具材がゴロゴロ入った粕汁だ。市場飯のような豪快さで、ふわりと体が温まる。

1階のカウンター席は、サクッと飲んで帰るような男性客が多く、一見さんや女性は入りにくいかもしれない。そんな人には2階席がおすすめだ。夕方4時の早い時間帯から、女性を含んだ年配のグループがおしゃべりに興じているし、5時以降は若手のサラリーマンのグループが、思い思いに酒とつまみを買ってテーブルに並べている。この楽しそうな感じ、どこかで見たような……と思ったら、地方で開催されるロックフェスだった。他ではなかなか食べられない地元の名産を味わえる上、フェス飯よりぐっと安く済む。そのかわり食べ終わったらパックや箸を店内のゴミ箱に分別して捨て、テーブルはさっと拭いて帰る。そんなマナーを守れば2000円で宴会ができる場所なのだ。

取材・文・撮影=新井鏡子

住所:東京都台東区上野5-27-5/営業時間:15:00〜22:00(21:45LO)/定休日:日/アクセス:JR御徒町駅すぐ